22 雨のテント
22
「やったね兄ちゃん、これで今夜は、配給のパンに肉入りスープがつけられるよ」
ほくほくして小金を握りしめ、羆をつれてチシャがテントを出ようとすると、入れ違いにマントの人影が入ってきた。
「トミタさん、また河を見に行ってたの?」
ぬれたフードを脱いだ若い男はふう、とため息をついた。
荒くれた人足たちとは一線を期す、知性的な目。
「ああ、当分水が引く気配はないな」
その顔には焦燥の色が濃い。
若い商人トミタは、川向こうの町で大きな取引を控えているのだと言う。
それがこの雨で足止めされて、期日に間に合うか、危ないところなのだ。
チシャがこの男と知りあったのは、持っていた苔を買ってもらおうとしたからだ。
薬草も扱う商人だと知って、チシャが山で集めた苔をみせると、ニッコリ笑顔で、銅貨三十枚で買い取ると言う。
チシャは仰天した。
「魔力ポーションの触媒に使う、貴重な品だよ」
小鉄貨十枚が銅貨一枚、銅貨百枚が銀貨一枚。
銅貨五枚でパンが一個買え、三十枚なら大人が二人、エールと肉入りシチューのたっぷりとした食事ができる。
村に来た行商人が、知識もないチシャから、とんでもない安値で買いたたいていたのだった。
だまされたと怒り狂うチシャに、生真面目な若い商人は、水が引くまでの暇つぶしだと、薬草の種類とお金の種類を教えてやる。
チシャは目から鱗が落ちたようだった。
そうか。知識は、力なんだ。
ちゃんと価値を知っていれば、こんな騙され方をすることはなかった。
知りたい。いろんなことを、もっと、もっと。
トミタは、チシャがあんまり熱心に食いついてくるので、簡単な計算まで教え始めたのだった。
「そういえばうちとこの商人さんが、山越えをするか、とか言ってたよ」
同行の役人が、やたらと先を急いでいるのだ。
道は悪いが、峠を越えて上流の橋まで行ってみるのだという。
「この雨の中を馬車で峠越えか?無茶をするんだな」
だが。
これはチャンスかもしれないぞ。
チシャの話に、若い商人は、考え込んだ。




