20 旅立ち
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そして二日後。
チシャと羆は、雨もよいの空の下、商人の馬車に乗せられ、ドナドナされていった。
「賦役の任期は二年。仕事は王都南の運河建設の人足じゃ。
本来は二名じゃが、お役人様がハンパ物のお前でも一名分として認めて下さった。
飯場の飯炊きでもして、せいぜいがんばれ」
未成年の女の子を賦役の頭数に入れて出すなんて、国法違反だろうに。
賄賂とか袖の下とか、犯罪臭がぷんぷんする。
だがチシャにはそんな知識もなく、相談できる相手もいない。
泥酔してしまった母親とはろくに話すことも出来ず、支度金として渡された金がどうなったのかも知らぬまま、わずかな衣類とため込んだ小銭をまとめる。
さすがに後ろめたかったのか、村長は羆にまともな古着を見繕ってやり。
もつれた髪を切りそろえ、こざっぱりした羆が立ち上がると。
金の髪に青い眼、尖った耳を持つ、整った異貌の巨人は、辺りを圧倒する存在感であった。
(ほうほう、やはりこれは掘り出し物じゃわい)
商人はほくそ笑んだ。
もとより人足にする気も、二年で解放する気もない。
同行の役人とは、すでに話がついて、借り受けの書類も製作済みだ。
(あとは飼い主のあの小娘を丸め込んで、こちらの命令に従うよう、調教し直せば)
王都まで連れて行けば、どのような伝手でもあるのだ。
(くっく、先が楽しみじゃ)
「これからどうなるんだろう羆さん」
餞別に渡されたわずかな食料と衣類の包みをかかえて、チシャは心細げにつぶやいた。
教育も受けられず貧しい村の中しか知らぬチシャは、外のことなど全くわからない。
役人も商人も、まるで信用できないし。
(でもあたいがしっかりしないと。あのちかちかするやつに、世話を頼まれたんだから)
羆さんは、いや、もうそうじゃない。
「バルーにいさん」
チシャが呼ぶと、相手は青い眼でチシャを見返す。
「チシャ」
まだほかの言葉は出てこないけど、目覚めていくって言われたんだ。
大丈夫。なんとかなるさ。大丈夫。
「大丈夫だよ。あたいが一緒にいるからね」
半分は自分に言い聞かせるように声にすると、チシャは今にも降り出しそうな暗い空を見上げるのだった。




