表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半妖の戦士 第一部    作者: 葉月秋子
2/20

2 『噛ませ』

2 



 闘犬や剣闘士を育成する場では、『噛ませ』というものを使う。

 将来を期待する若い犬や未熟な闘士にあてがう、練習台。

 犬なら口輪をし、牙を抜き、人なら武器の刃を潰し、薬で動きを鈍らせ、絶対に勝てないようにして戦わせ、若い者に自信と勝利の感覚を覚えさせるのだ。


 少々成長しすぎたと、娼館から売り出された半妖の子は、使い勝手の良い品だった。

 妖魔の血が濃く表れた肉体の回復力は並みではなく、残酷な変態行為を好んでいた育成場の主が、これは『噛ませ』向きだと買い叩いたのだ。

 傷をつけても翌日には治る。人には致命傷となるダメージも、手当が早ければ死ぬことはない。

 この国では魔族に人権はないから、呪で縛ろうが、殺そうが、飼い主の思いのまま。

 その上魔の部分の肉体は、空中の魔素で維持される。食費は並みの半分で済むのだ。

 未熟な闘士に急所を突く位置を教え、殺しの感覚をつかませるのには、絶好の道具だった。



『人を害してはならない』という呪を篭めた首輪を嵌められた半妖の子は、様々な闘技の型を仕込まれて、見事な体躯を持った青年の身体に育つまで、何年も『噛ませ』に使われてきた。

『反抗心切除』『思考力低下』の効果も併せ持つ首輪のせいで、諾諾と主の意に従う狗として。



 十七になる領主の次男が、彼に異様な執着を見せるまで。

 優秀過ぎる長男に劣等感を抱き続けていた若者は、ほれぼれするような剣士に対峙し、必ず勝つという快感に、危険を冒さず相手を殺せるという戦いの疑似体験に酔いしれた。

 短剣で、長剣で、槍で。

 若者の異常さを諫める者もないままに、何度となく『噛ませ』は次男と戦い、敗れ、『殺され』続ける。

 彼に出来るのは、最後のとどめをわずかにそらし、回復が楽なような形でその身に刃を受ける事だけ。



 だがある日、『噛ませ』の胸に思い切り突き立てた短剣が胸骨にあたって、次男の手の中で滑った。

 切り落とされて『噛ませ』の傷の中に落ちた次男の指を回収する事を、誰も思いつかなかった。

 気が付いたときには、すでに傷は閉じ、人の骨肉は分解されて『噛ませ』の体内に吸収されている。 

 次男は手の指を二本失い、『噛ませ』がやったとわめきたてた。

 首輪の呪が発動しているから、『噛ませ』が反抗するはずがないのだが、怒り狂った領主には、そんな理屈は通らない。


 引き立てられた『噛ませ』はそのまま次男に引き渡され、残虐な報復の日々が始まった。

 だが首輪で拘束された『噛ませ』は責め続けても声もたてず、衰弱し回復の速度は遅くなっても必ず傷は治っていく。

 次男の精神のほうが先に崩壊した。

 報告を受けた領主が地下牢で見たものは、『噛ませ』の胸を切り開いて、泡を噴きながら失くした指を探している狂気の息子。



 心を病んで荒れる次男は別邸に幽閉され、『噛ませ』は、使い捨ての労働力として重罪人用の鉱山に送り込まれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ