19 兄
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「ごめん、ごめんよ羆さん!
あたいがこんなところに連れてきたせいで、とんでもない事にまきこんじゃった!」
村長も、あの商人も、お役人も、かあさんも!
みんなずるい!卑怯だ!おとななんて、みんな、みんな・・・
小さな胸は怒りで煮えくりかえるが、無学な子供は表すすべを知らない。
首をかしげて澄んだ目でこちらを見ている若者を、守れぬ無力感がつのるばかり。
「村長が、あんたをかあさんの養子にする手続きをして、お役人が受け取っちまった。
あんたはあたいの兄さんってことにされちゃったんだ!」
兄さん?兄?
それは彼にとって、とても懐かしい言葉だった。
『兄さま!兄さま!』
花咲き乱れる庭園で、駆け寄ってくる銀髪の少女。
彼が取り込んでしまった存在が、こよなく愛し、繰り返し思い出していた記憶の断片。
さわやかな風。煌めく噴水の豊かな水。見上げる少女の、無垢な笑顔。
喪われてしまった存在の、大事な記憶。
チシャという少女が彼に縋り、彼を兄と言う。
そう、自分はあの、「兄」と言う存在になれたのだ。
「・・・ち・・・しゃ・・・」
「えっ?」 羆さんが、しゃべった!
そう、こうして、頭をなでて、大丈夫だと笑ってやれる。
「チシャ」
「笑ってるの?怒ってないの?
あたいなんかの兄さんにされちゃって、それでもいいの?」
「チシャ」
名を呼ばれ、頭を撫でられて、びっくりしたチシャは大きな体にしがみつき、張り詰めていた糸が切れたように、わんわん泣いてしまったのだった。




