14 踏破の証
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「しゃっ、しゃべったっ!」
驚くチシャに頓着せずに、光は楽しそうに瞬きながら話し続ける。
『そ奴はの、黄竜山脈の初の踏破者じゃ。
「踏破の証」、褒美の事じゃよ。をつかわそうと思うたのじゃが、そ奴、今は呆けておってのう。
生まれたての雛ほどの頭しかない。
己の真名も忘れ果てて、こちらを見ることも、声を聞くことも出来ぬので困っておった。
それだけ深く眠っておるのでは、せんもない事じゃがのう』
ご褒美?
その一言に反応したチシャは、しっかり耳を澄ませた。
なんか、羆さんが褒められてるようだ。
『眠ってはおるが、そなたに恩義を感じ、名を受け取ったようじゃの。
真名ほどの拘束は持たぬが、そなたとの縁を結ぶものじゃ。
バルー。ふむ。悪くない。
この褒美は、そなたにあずけておこう。
目覚めたら、渡してやるが良い。
こ奴の世話も頼もうか。
山脈初の踏破者が、どんな生き方をするものか。
このままではなんとも心もとないが、まっとうに世を渡っていけば、徐々にめざめていくであろうよ』
光のひとかけらがすうっと離れ、チシャの眼の前に漂ってきて。
すっとチシャの胸に痛みもなく吸い込まれて、消えた。
「えっ!えっ?」
あわてて胸をパタパタ叩くチシャに、声は続ける。
『そなたにも駄賃をつかわそうの。
チシャというか。
ふむ。大地と相性の良い子じゃな。
我の加護を授けよう。地の恵みが常にそなたと共にあるように』
そして不思議な圧力で、チシャと羆は岩のすきまから押し出され。
軽い振動と共に、岩はぴったりと閉じてしまったのだった。
最後の声がチシャに届いた。
『今季は雨が多い厄介な年じゃ。
次の雨が降ったらば、もう山に登ってはならぬぞ』




