12 商人
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次の朝早く。
チシャは山を見上げて考え込んでいた。
お肉が食べたいのは切実だけど。
そろそろ雨が多くなる時期だった。
もう一度小銭になる岩苔を採りに行くべきか。
晩御飯のお肉を採りに行くべきか・・・
雨に濡れてしまったら苔はふくれて腐りやすくなり、売り物にならないのだ。
悩んでいると共同井戸の方で何やら人が騒いでいる。
あ、羆さんに水汲み頼んでいたっけ・・・
深い井戸から釣瓶で汲み上げた水を二つの手桶に移し、小屋に運ぼうと振り向いた大男の前に、村を訪れた商人とその護衛が立ちふさがる。
中年太りの少し禿げかかった商人は、品定めでもするように、襤褸着を着た金髪の大男をぶしつけに眺めまわした。
「ふん、良いガタイをしとるの。こっちへ来い。名は何という」
しかし男は黙って突っ立ったまま。
もつれた金髪は一部子供たちにおさげにされているが、眼にかかるまで伸びた前髪の下からは表情が読めない。
「聞こえたのか、おい!返事をしろ!」
護衛が居丈高に一歩踏み出すが、男は下がりもせずに立ち尽くしたまま。
「そいつはチシャの言う事しか聞かねぇよ」
通りかかった村人が笑いながら言った。
「なんもしゃべらんから、名もわからんわ」
「チシャ、とは?」
「ほれ、あのちっこいガキだ」
丘を駆けおりて来るやせっぽちの少女を指さす。
「羆さーん」
声を聞いた男が顔を上げ、歩き出す。
留めようと踏み出した護衛は、歩を進めた男の前で怯み、動きを止めた。
その前を何事もないように通り過ぎ、男は少女の方へ歩いて行く。
「おい?」
商人が声をかけると、護衛はぎくりとしてぶるっと頭を振る。
「いや、申し訳ない、ちょっと眩暈を・・・」
そう、ただの眩暈だ。
けっしてあの巨体に威圧されたわけでは・・・
「水汲み終わったら朝ごはんだよ、羆さん。またかぼちゃだけどさ。
食べ終わったら一緒に山にいこう」
重い水桶を軽々と下げて、男は少女の後をついていく。
「あのガキが飼っているのか・・・ふむ・・・
どこに住んでいるのだ、あいつらは」
聞いてこい、と護衛に命じた商人は、何か頭の中で計算を始めたようだった。




