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上官の命令



 ――観測所で白露少尉と警戒任務にあたったある日。

 この観測所に彼が配属された理由を好奇心で尋ねたことがある。

 

 彼は鳥人族の公家の人間だ。


 白い翼の彼の一族は、空を飛べないばかりか非力で何も出来ない人族を見下していると聞いたことがある。人族からの評判は悪かったのが良く印象に残っている。

 一応礼は尽くすが華族以外の人間は人間ではないと考える獣人族の華族だった。


 つまり今の白露少尉と真反対の属性なのだ。


 彼が一族から追放されてこの辺境の観測所にきた理由はその一族とのいざこざが原因だった。人懐っこい彼は人と共存することを一族に提案して、それが原因で恨まれこの観測所に左遷されたのだ。

 彼は何かを悟った表情で「仕方ないですね」と笑っていた。


 その話を聞いた時、何故か私の胸は苦しくなった。


 彼の家は、獣人を人とみなさず差別していた我が竜胆家と似ていたから、反面教師じゃないけど、そんな環境に嫌気が差していた私達はすぐに馬が合った。


 私達は似たもの同士だったのだ。




「手紙ってどんな内容だったんですか?」

「まぁ、同族の女性とお見合いしてみないかとか、そういう類の話ですよ」


 彼は私にぶつかるくらい両手を大げさに広げて地面に寝転び天を仰いだ。

 まるで降参だといわんばかりに両手の力は抜けきっているようだった。


「そうですか……」 

 私の呟きに彼は温顔し、一つ深呼吸をした。


「よくある話です。とうとう私の番が来てしまったというだけで…私の長いモラトリアムは終わりを迎えたということなのでしょう」


 まるで彼は自分に言い聞かせるように目を閉じてその言葉を念じる。痛々しくて、とても見ていられなかった。私は彼から顔を背け、同じく青空に目線が行った。


「近いうちって、いつくらいなんですか?」

「正確には決まっていません。お互いのために時間を作る暇はありませんので」


 彼の言う「お互い」とは、結婚相手との予定という意味合いよりも白露家との付き合いというニュアンスだった。私もだが、実家からの冷遇は地続きの問題だった。


「帰りましょうか。あまりここに長くいると、本当に警備の人が来るかもしれませんから」

「…………貴方は、本当にそれでいいんですか?」

「良いわけはありません。でも、しょうがないのです」


 私たちは荷物をまとめて、もう一度空を飛んだ。

 彼は私に微笑んで手を握る。その手は冷たかった。


「竜胆少尉、貴方だってそうでしょう?」


 白露少尉は時計台を降りるとき、そう私に問いかけた。





 私たちは行きで乗ってきたジープを運転し、観測所に戻っていた。

 すっかり日は落ち、観測所から照らされる灯台の明かりが目印しに車が進む。


 デコボコ道で揺れる車中でも、お互い気まずくて会話することもなかった。

 私はすっかり、これからの私たちのことを考えていた。


 これからどうなるのか、私たちのバディは解散するのだろうか、彼は何を今考えているのだろうか。頭の中がグチャグチャで考えがまとまることはなかった。


 窓のないジープから入り込む冷たい夜風は嫌に肌を刺した。


「あれ?見ない車ですね」


 それは白露少尉の発言だった。


 ジープを駐車場に止めようと観測所の中に入ったまではいいが、普段外来もなく空きっぱなしの来賓用の駐車場には見ない車が止まっていた。


 しかも夜のこんな時間に、こんな場所にだ。


「高官でもお見えになったかもしれませんね」

「この辺境地にですか?」

「なにか、厄介な事情でもあるのかもしれません」


 私たちと同じ型の軍専用のジープだ。

 エンジンは冷たくなり始めたばかりでモヤモヤと湯気を放っている。

 つい先ほど到着したばかりということだろう。


 何か嫌な予感がする。

 正直白露少尉の件か何かかと私は心当たりをつける。彼の実家への招集の件もあるため、一時的な異動や休暇の話でもあるのだろうかと、と思いこんだ。


 だが実情は違っていた。


「君が竜胆少尉か。思っていたよりも若いな、いつも声の調子が大人びていたから」


 玄関先で待ち構えていたのは、普段任務でやりとりしている少佐だった。薄暗い、懐中電灯の課有賀私たちを照らした。

 私も彼女のことを遠目で何度か見たりあいさつした程度で直接会うのもはじめてだが、毎日聞く声なものですぐに分かった。

 

 茶色の軍服と、女性とは思えぬいかつい目と顔。それと胸に沢山つけられた勲章。


「は、自分が竜胆少尉であります」

「バディの白露少尉であります」

 私と白露少尉はすかさず彼女に敬礼し、右手を直角45度に斜めに向ける。


「二人とも楽にしていい、今日は竜胆少尉に用件があってきたのだ」

「要件ですか?私に?」

「そうだ。君のご実家である竜胆家からの命令だ。君を実家まで連れてこいというものだ。私は君の護衛として共に向かう」


 彼女は後ろに組んでいた右手を解き、軍帽を一度深くかぶりなおして困ったような顔をしていた。

 それはあからさまに自分の意志ではないという意味合いが込められていた。


 竜胆家は武家の家系だ。


 当然軍部とも深いつながりがある。

 私の親戚筋はほとんど軍人で皆が皆高い地位にある。

 そういう意味では白露家以上にここでは顔が効いた。だから私の上官である少佐に非常識にも小間使いのようなことをさせられるのだ。


 多分、この一件で今後の私と少佐の関係が気まずくなるのは想像に難くない。


「は。命令とありましたら!この竜胆すぐに向かいます」

「そう言ってくれて助かるよ、私にも立場があってな」

「…申し訳ございません、一つお聞きしてもよろしいですか?」

「私に答えられる範囲でならな」

「……その命令は父からですか?」

「いや、君の母上からだ」


 私は一瞬躊躇して、すぐに返事をする。母からという発言に少なからず驚きがあった。


 正直いつかこんな話はくると覚悟していたが、それが母からなんて。てっきり父から問答無用でくるものかと思っていた。内容は白露少尉と同じく婚約の話か何かかもしれない。



まぁ、楽しい話ではないだろうことはすぐに分かった。



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