01.隣の席
「「あ」」
二人同時に声を上げた。その直後、盛大に相手の顔がゆがんで、手に握られた紙切れを確認しやがった。なんつう奴。かくいうあたしもこの結果は非常に気に食わないのでやっぱり同じように確認。しかしその数字は何度見ても変らないし、黒板に書かれた座席表の数字も見間違いなどではなかった。
結果、あたしは黒沢と隣同士の席になってしまったのだった。
「なんでアンタそれ引いたの」
「俺のセリフだそれは」
不機嫌そうにしかめられた眉が、少し長めの前髪でちらちらと見え隠れする。
黒沢が、わりと女の子に人気のあることは友達から聞いていた。入学してまだ二ヶ月半、確かに顔は良いと思う。
「まあ、夏休みまであと一ヶ月だしな。我慢だな我慢」
……顔だけは良いと思う。
入学式の日にひどい出会いを果たした後、黒沢は係の先輩から花束をもらうという役だったらしいと聞いた。そりゃいなくなったら探すだろうなあ。ちなみにあたしは新入生代表挨拶だったので他人事じゃないのだけれど。
というわけでみっちり説教を食らったあたしたちが向かったのは同じ教室で、入り口のドアのところで再び言い合いになった。おかげで初日にしてクラス中に名前と顔が知れ渡ったんだけれど。
「アンタ、すごい注目浴びてたよ今日」
「え、まじ?」
ハルの予想外の言葉にあたしの箸がとまった。うん、と返事をするハルはまつげをいかに長く見せるかでマスカラと格闘中。隣に座るノリちゃんに顔を向けると、少し控えめに笑いながらやっぱりうなずいた。
でも目立つようなことした覚えはない。2限目の時に寝ているアイツの教科書に落書きしてやったくらいだ。ちなみに未だ気づいていない。と思う。
「入学式の喧嘩コンビが隣同士になると嫌でも目立つの。わかる?」
「別に目立ちたくて目立ってるわけじゃないし」
「そりゃそーだろうけど」
ようやく気に入ったのか、ミラーを閉じたハルちゃんは綺麗に巻いてある髪の毛を手でいじりながらニヤリと笑った。
「ま、いい見世物だからアタシは楽しいけど」
「勘弁してよ」
くすりとノリちゃんが笑う。笑えないってば! ノリちゃんはおとなしくてあまり喋らない。スカートは膝丈だし、黒髪を二つに結ってある。かわってハルは金髪にピアスに超ミニスカート、化粧しないと部屋から出ない完璧ギャル。
ハタ目から見たら変なグループなんだろうとは思うけれど、これでバランスは取れている。あたしたちの中では。
「ヒナちゃん、すっごい嫌そうな顔してたもんね」
「あの時の顔はひどかったよねえ。アタシ笑っちゃった」
ほんと、勘弁して! クラスの端で固めた机の上で、あたしは頭を抱えた。
夏休みが来るのが、いろんな意味で非常に楽しみになったのだった。
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あまり進まない……。次は話が進むようにします