ほうき星
私、坂木 由奈はその時1人で星を眺めていて、スーッとほうき星が流れた。
「あっ、ほうき星!!」
と大声を出している内に消えてしまった。
ほうき星を見ると思い出す、彼氏である純也の事を、
(会いたいな……)
毎日想うが純也は海外の天体観測所で働いていて、年に1度しか会えないから結構寂しい。
(ほうき星みたいに飛べたらな……)
手を広げてみるが空へ飛ぶ事は出来るはずもない、
(あたりまえか……)
ため息をつきながら思う、
「会いたいな」
言葉にすれば気持ちもスッキリするかと思うが、さらに会いたい気持ちが増しただけだった。
純也の事を思えば思う程胸が痛くなり週に1度だけの電話をして、私は泣かないと決めていても最後の電話を切る前には泣いて純也を困らせてしまう、そして私のいつもの言葉が、
「会いたいよ……」
困らせるのは分かってる、でも言わずにはいられない、
『大丈夫、来月には帰れるからその時まで待ってて』
「……うん、絶対だよ」
と言ってから私達はまた少し話してから電話を切った。
今日はついに純也が日本へ帰ってくる日で、10時の飛行機なので私は9時には着いていた。
あと5秒で10時になる、カウントダウンをして、
(……10時になった!!)
しばらく待つと純也が出て来て、私は喜びでいっぱいになり駆けつけて行き飛びついて、
「おかえりなさい!!」
私の目には涙でいっぱいになっていて、純也は照れながら、
「ただいま」
そう言って私達は一緒に家に帰った。
その日の晩は沢山話をして笑い合った。
私が作った料理を頬張りながら純也はいつものように、
「美味しい!」
と言ってくれて、私は嬉しくて笑顔をほころばせている。
夕食が終わり私達はベランダに出て星を眺めていると、
「ほら、あれが夏の大三角形って言うんだよ、あれは三つの星が並んで出来ているんだ」
私は彼が星を語る時の顔がとても好きで、1年に一度しか見るとこが出来ないから今のうちに見ておこうと、純也の顔を見つめていると、こちらを向いたので私は顔を赤らめながら、
「やっぱり純也は凄いね!!」
と言って微笑むと純也は顔を逸らして、
「あ、ありがとう」
そう言ってから振り向いて微笑み返してくれた。
でも、純也は明後日になれば帰ってしまう、その事を思えば思う程胸が痛くなり泣きそうになる。
不意に涙が出そうになり拭っていると、純也は何かを言おうとしたが止めて星を眺めていた。
(どうしたんだろう?)
と思うが私からは聞き出せずに私も星を眺めた。
(別れようなんて言われたらどうしよう……)
そう思うと余計に聞き出せない。
(今日は1人で寝なくていい!)
それを思うと自然と笑顔になりそれを見て純也が、
「どうしたんだよ? にやけてるぞ」
と尋ねられ私は、
「純也と寝れるから嬉しいの!」
そう言うと彼は顔を赤らめながら逸らし照れながら、
「お、俺も嬉しいよ……」
と言った後はずっと赤い顔で黙っていた。
夜中に私達が寝ていると、突然うめき声が聞こえて飛び起きると、純也が苦しそうにうなされていた。
「純也! 純也!」
必死で起こして何度か揺すると、純也は飛び起きて涙目でこちらを向き手は震えていた。
私は安心して欲しくてずっと手を握り背中を摩っていた。
しばらくして落ち着いたのか、純也は深呼吸をすると手の震えも収まり、私達は一緒に台所へ行きホットミルクを作って純也に飲んでもらった。
純也はいつも何かと戦っていて、とても大きな心の傷を持っていると私は思っている、だから私はずっと純也の隣で何も聞かずにいる、例え聞いたとしても私ではどうにも出来ないと思うから。
「落ち着いた?」
そう尋ねると純也は黙って頷くが、手がまた震えだした。
「ありがとう……」
小さな声で言うと少し涙目だった。
その後私達は手を繋ぎながらまた眠りについた。
次の日は朝から雨が降っていた。
雨が嫌いな私は小声で、
「雨、やまないかなぁ」
と呟くとそれを聞いていた純也が真面目な顔で、
「雨が降った後の夜空は空気が澄んでて星がとても綺麗に見えるんだよ」
そう教えてくれて、それを聞いた私は少し雨が好きになり笑顔で、
「ありがとう、純也!」
と言うと純也は顔を赤らめながら背けてしまった。
明日、純也は仕事に戻ってしまう、寂しい気持ちで昼食を取っていると純也が、
「今日の晩はどこか食べに行こうか?」
そう言われ私は笑顔で、
「うん!!」
と答えた。
そして夕食は落ち着いた雰囲気のレストランへ行き、私達は楽しく話していると純也が、
「なぁ由奈、ちょっと聞いて欲しい事があるんだ、実は俺、子供の頃両親に虐待されてて1回殺されそうになったんだ、今でもその事を夢に見てうなされるんだ……」
私はこの話を聞いて衝撃を受けた。
(純也にそんな過去があったんだ)
震えながら話す彼の手をそっと握ると、純也は落ち着いてきて、
「初めて虐待を受けたのは2歳ぐらいだったらしい、その時から身体のあちこちに傷があったってばあちゃんが言ってて、7歳の時に包丁を持った父さんが俺を殺そうと追いかけて来て、俺は必死で近所のおじさんの家に逃げたんだ」
話を聞いていると胸が痛くて涙が溢れてきて、純也も涙目でさらに、
「その後は児童相談所に連れて行かれて、逮捕された両親とは離れて暮らしてた、今でもその事が怖くて体が震えたり夜、うなされるんだ」
私はずっと耳を傾けていた、それが最善だと思ったからだ。
話しが終わると私も純也も涙目で私が、
「辛い話をしてくれてありがとう、純也」
と言うと彼は頷いてから、
「俺はこの話は由奈以外に話してないんだ」
そう言って、
「好きだ、結婚して欲しい」
と短い言葉で言われ不意をつかれた私は、驚いて何も言えなかったがすぐに、
「……はい!」
そう涙を流しながら言うと純也は嬉しげに微笑んでくれた。
1年後、私達は結婚式を挙げ、その日の夜2人で空を見上げていると、ほうき星が流れ、
「あっ、ほうき星!!」
二人同時に叫ぶと顔を合わせながら笑い合った。
私はほうき星にはなれないけれど、純也の側にはずっと私がいる、ほうき星のようにどこへでも純也の元へ飛んで行ける。