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超能力VS剣と魔法の力  作者: たまゆか
4/5

第四話 ヒカリちゃんの能力はすごいし問題はない

 「おい!でその後どうなったんだよ!!」

 「ヒカリちゃん牢屋でひどい事されなかったの!?ねぇねぇ!?」

 「牢屋なんかハッチのフェイロンとかいうドラゴンで脱出できないのか?」


 窓から見える景色は、ものすごい勢いで通り過ぎていく。

 ガタンゴトンと雑音が響く電車の中で、数席、座席を向い合せにして座っている数人に男は質問攻めにあっている。

 その男は現代には似合わず古びた麻で出来たようなコートを着て、フードを深くかぶり顔は良く見えない。


 今から少し前、地方から都市へ向かう長距離列車の中で、自分は現代に生きる吟遊詩人だと豪語する男が現れた。

 季節は冬になりかけの寒い時期の事、列車の客たちは長距離移動に退屈していた時だったから、明らかにおかしい奴だと思いつつも、その暇さゆえ何となく話を聞いてみたのだった。


「面白い昔話をきかせよう、なに、暇つぶしと思って聞いてくれ」

「昔話?あんたが体験した話か?」

「さあ、どうだろう。さっきも言ったけど僕は吟遊詩人のようなものと思ってくれればいい」


 吟遊詩人か……、明らかに怪しい詐欺師の間違いじゃないか?と、客たちは思ったが、男の話を聞く事にしたのだった。






「おいおい、その後はどうなったんだよ」


客がくれたコーヒーを一口飲むと、吟遊詩人を名乗る男はふぅとひとつため息をついた。


「この後、僕が牢屋の中でどうしようかと悩んで四苦八苦していた頃、ヒカリちゃんが行動を起こしていたんだ」



----------------------------------



 既に捕えられてからどのくらい時間がたっただろうか、あたりの雰囲気は夜になったのではないかと感じられる。

一人別の牢屋に閉じ込められたヒカリちゃんは、なんとかこの状況を打開しようと、一人で唸りながら何かを迷っていたんだ。


(どうしよう、私の能力を使えば何とか脱出できるかもしれないんだけど……でもっ!でもっ!!)


 頭を抱えたり、狭い牢屋の中で右に左にと行ったり来たりして悩んでいる。

 

《おい、小娘。ちょっと落ち着けよ》

「え?あ、もしかしてアガレスさんですか?」


 どこからともなく通訳老人アガレスの声が聞こえてきて、ヒカリちゃんは小声で話し始める。


「どうしたんですか?ハッチさん達の身に何かあったのかな」

《いや、そうじゃねぇ。ただ、いつそうなってもおかしくねぇ状況を伝えておきたくてな》


 幸先の悪そうな話の滑り出しに、ヒカリちゃんは眉を顰めるが、そんな事はお構いなしにアガレスは続ける。


《おまえらの処遇について警備兵達が話しているのを聞いたんだが、この後この村の長老会とか言う偉い奴らの集まりでおまえらの事が議題にあがり、そこで処分が決定されるようだ》

「長老会……処分って言う言葉が怖いですね」

《まぁな、だからそんなに猶予はなさそうだって事を伝えにきた、まぁ俺の先手が悪かったとか言って恨まれて死んでもらっても困るしな》

「先手って、あぁ、最初に通訳してくれた時でしょうか、いや、アガレスさんのせいではないと思いますよ、むしろ通訳してくれなかったらすぐに攻撃されて殺されていたかもしれません」

《小娘よ、なかなかお人好しな事を言ってくれる。さすが能力者と言ったところか》


 能力者は一般人よりも「良い人」が多いというのをアガレスも知っているようだった。


《そういう事だから、一応伝えておいたからな、がんばれよ》

「あ、はい。ありがとうございました!」


 思わず大きめな声を出してお礼を言ってしまったヒカリちゃんの声に気付いたのか、少し離れた所にいた村の警備兵が、冷たく閉ざされた鉄格子をガンガンと叩いて、ヒカリちゃんには理解できない言葉で何か言ったあと、また持ち場に戻って行った。

 おそらく、「何を喋っているんだ!うるさいぞ!」的な言葉だろう。

 ヒカリちゃんは少し考えつつ、結局能力を使って牢屋から脱出を試みようと決心したんだ。


「ハッチさん達がいる牢屋を見つけようかな、それとも一旦長老会の様子でも見てみようか。雰囲気が和やかだったら助かる可能性もあるかもしれないし」


 完全な乙女思考満載なヒカリちゃんだったが、よしっと小さな気合いを入れると、牢屋の端にある簡易ベットに寝転がり、全身を毛布に包まった。

 しばらくすると、人の体を形どって盛り上がっていた毛布が、スッとしぼんだようになって、周りに蒸気のような煙のようなもやもやっとした気体が現れた。


「これじゃ、見張りさんが様子伺いに来た時にバレちゃうから、毛布の下に何か置いておかなきゃ!」


 先ほど現れた煙はヒカリちゃんの気体化した姿だった。ヒカリちゃんは身体の状態を変化させる事ができる能力を持っているって言っていたのを覚えているだろうか?

 その煙が操っているかのごとく、周りに落ちている藁や茣蓙などがフワフワと浮きあがり、毛布の下に置かれ、毛布はなんとなく人間がうずくまっているような形に落ち着いた。

 

「よし!これでオッケーかな?」


 気体のヒカリちゃんはガッツポーズをしたようだった。

 その後、蒸気のような煙は鉄格子の隙間を抜けて、どんどんと上昇し始めた。警備兵はその蒸気すらも気づかずにいつも通り警備をこなしていた。


「まずは長老会をやっている建物を探そう」


 色々な隙間、窓や排気口などを抜けて、牢屋の建物を抜け出し外にでたヒカリちゃんは長老会が開かれるという建物を探し、外をウロウロし始めたんだけど、その蒸気のような煙は、人間の形にはまったく見えなくただのもやっとした煙の形でしかない、さらに言うと目を凝らしてやっと認識できるくらい薄い状態だと言うのに、あたりはもう既に暗く夜にになっていたから、誰も気づいている者はいなかったんだ。

 

 ヒカリちゃんが、ある建物の裏を通った時、叫んでいるような、気合いを入れているようなそんな声が聞こえてきた。

 どこから聞こえるんだろうと、周りを見回してみるが、それらしい人の姿はない。

よく耳を澄ませて声のする方へと飛んで行ってみたんだけど、町から少し離れた森との境あたりに広場を発見したんだ。

そこには、長剣を持った少年と思われる人物が、その剣で素振りをしている。僕らの世界で言うと、プロ野球選手を夢見る少年が一人でバットを素振りしているという感じだろうか?


「あの子の素振りの声だったんだね、夜に一人で……。努力家ってやつかしら?」


 軽く天然っぽい感想を持ったヒカリちゃんであったが、今はそれをずっと観察している暇などなく、他の場所に行こうと移動を開始した。

移動してからそんなに時間はたっていないんだが、さっきまで聞こえていた気合いを入れるような少年の声が急にしなくなり、一瞬だけ悲鳴のような声が聞こえた。


「なんだろう今の悲鳴のような声、さっきの少年だと思うけど、明らかに素振りの声とは違ってた」


 ヒカリちゃんはなんとなく嫌な予感がして、また少年の様子を見に行こうと引き返してみた。

 すると、少年の目の前に巨大な狼のような生き物がいた。

 その巨大さは象のようであり、目は血走り、鋭い牙をむき出しにした口からはよだれをポタポタと垂らしている。あれはおそらく「モンスター」っていう奴なのではないかと思った。この世界にきて、まさに自分たちの世界じゃない存在に初めにあったのはヒカリちゃんだったんだ!

 しかしこの状況、もし僕だったのならば本当に何もできない。まずそんな恐ろしい巨大な狼にビビるだろうし、俗に言うモンスター退治する「能力」が僕にはないんだから。

 さて、その巨大狼は少年を威圧しているかのようで、少年は逃げる事も叫ぶ事もできずガタガタと震えていた。さっきまで素振りしていた長剣は、少年の手から離れ地面に転がっている。おそらく振るう事もできずに、その場にへたり込んでしまったんだろう。


「このままだったら、あの少年絶対危ない!」


 案の定、巨大狼はまさに少年を喰らわんと、よだれが滴る大きな牙を向ける。

 そう、少年の体がその牙に捉えられると思った瞬間。


『ポコポコ ボコボコ』


 ヘンテコな音が響いた。

 この状況で明らかにあり得ない音だった、丁度水の中で空気が発生し割れるような音。

 一体何の音なんだと危険のあまり目をつぶっていた少年が目を開けると、巨大狼の顔全体が球状の液体に覆われていたのだった。

 突然液体に覆われた巨大狼は、息は出来ないし、肺に液体が混入したのか激しく咳き込み、もがき苦しんでいる。

 それが3分ほども続いただろうか?巨大狼の身体が大きな衝撃音をたてて地面に倒れた。

 球状の液体はすぐに狼の顔から離れ、地面に球状のまま佇んだ。

 何がなんだかわからず、少年が巨大狼の様子を伺おうと狼の方を見ながら起き上ったその時、一気に肺に空気を取り込もうと、なんとも言えない苦しそうな叫びを上げつつ狼が息を吹き返した。そのあまりの衝撃的な状況と突然の狼の再起に少年はその場で気を失い倒れてしまった。


 もちろん、その球状の液体が何なのかは大体察していると思うけれど、気体状態のヒカリちゃんが液体状態に変化した姿だったんだ。

 巨大狼は息を吹き返したが、球状の液体がじわじわと自分に迫ってきているのを目の当たりにし、窒息の恐怖を思い出したのか森の方へ逃げて行った。


「なんとか助かったわ、でも気を失っちゃったな、この少年。それにしても本当にびっくり。やっぱりここは元いた世界と違うのね、あんな怪物がいるんだから……」


 気を失って地面に放置してしまうのは、あまりにもと思い、どこかの建物に移動させてあげようと、気体に戻ったヒカリちゃんは、周囲に誰もいない物置のような母屋ではなさそうな建物を見つけ、そこに少年を運ぶ事にした。


「うう、通常状態に戻らなきゃ、運べない……」


 確かに、気体状態や液体状態で、少年と言えども人を運ぶ事はできそうにない。運ぶには背負うか何かしないとだめだ。


 そうして、気体状態から通常状態に変化したヒカリちゃんだが、裸であった。


 そう。そうなのである。

やはり、身につけている衣服は一緒に状態変化はできないようだ。あたりまえである。ヒカリちゃんの能力は、物の状態を変化させるのではなく、「自分」の状態を変化させるんだから!

 

気体状態でもなく液体状態でもなく、裸状態のヒカリちゃんは小さな建物に少年を運ぶと藁で簡易ベットを作り、そこに横たわらせた。

 すると意外にもすぐに少年は目を開けた。そして目の前にいた狼が全裸の女性になっている状況に改めて混乱した様子だった。


「わーーー!今目を覚ましたらダメー!目をつぶってー!」


 そこは必死に、懇願するヒカリちゃんだけど、言葉が通じないのだから意味がないのである。それにすぐに気付いたヒカリちゃんは身体の状態を先ほどの球状の液体に戻した。

 しばらく茫然としていた少年だったが、これを見て色々とつじつまがあったのだろう。そして理解したはずだった、さっきの巨大狼の顔を襲った球体の液体が目の前にあるのだから。液体はさっきの裸の女性で、その女性が自分を助けてくれたんだ。


 恥ずかしさのあまりヒカリちゃんは再度状態変化で身体を気体にさせ、その場から一目散に離れるのであった……。


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