ノン カピスコ・秘湯の湯で?
『これが噂の温泉なのね。』女優の風薫は声をあげる。
『ええ?噂てどんな噂ですか?』若旦那の由紀夫はとぼける。
『あら、いやね。ネットじゃ有名らしいわよ。若返りの湯だって。』
そう、彼女は必死だった。
久々に巡ってきた春のドラマのヒロインの役
少しでもきれいになって、視聴率も稼ぎ、
自分を落ちぶれたと言った奴らを見返してやりたかった。
薫るが来たのは京都のある旅館
そこには、秘密の湯を持つ部屋がある。
その部屋には、不思議なことに鏡がない。持ち込みも禁止。
そして3日以上は連泊させないと言う掟がある離れの部屋。
浴室には、『長湯・数湯禁止』の文字が・・・・。
一見何の変哲もないタダの白い濁り湯に見えた。
『これね、産湯って言うんですよ。』
端正な顔つきの若旦那の由起夫は、湯をすくい そう言う。
『そう、母親の胎内の羊水につかってるような気がする。気持ちいいですよ。』
『へえ〜、そうなんだ。』
『うちのお母ちゃんなんか、この湯につかって、バケモンみたいに若い。
あんまり若返ると困るから、僕が禁止してるんです。』
由起夫は、意味ありげに笑う。
(なんか効きそう〜、楽しみだわ〜)とほくそ笑む薫
その夜、その産湯につかった薫 あまりの気持ちよさに驚く。
今まで行ったどんな高級旅館の温泉の湯など比べようのない至福の湯だった。
湯から上がった薫を待っていたのは、女将の静子
女将自らマッサージをしてくれるという。
確かに年齢不詳な美人。息子の由起夫が20代後半としたら、きっと少なくとも
50代後半なはずだ。
妖艶に微笑む静子は、台に薫を寝かせると、体中に何やらペタペタと塗り始める。
(きっと、全身パックなのね)単純に薫はそう思った。
『お湯はどうでした?』
『ええ、素晴らしいわ。私若返った?』
『ええ、お綺麗どすよ。』
女将は、マッサージも上手く、薫はよだれをだして寝そうになる。
(あら、私は女優よ。無様な顔は見せられない。)
しかし、このパック、何か妙な匂いがする・・と思い始める
『ねえ、女将、このパックはなんなの?』
女将は、ニッと笑って答える。
『神さんの糞どす。』
『ええ〜???』
薫は可笑しくて、笑いが止まらない。ついでに聞いてみた。
『女将、おいくつなの?』
また、女将はニッと笑う
『もうあんまり覚えてませんが、200歳くらいどす。』
はあ〜???冗談キツすぎる。薫はくちをあんぐりした。
『私は、実は狐ですのよ。コン!』
女将がそう言うと、一瞬 薫は周りが田圃に見えた。近くに神社??
幻覚だろうか・・・・夢うつつな気分で眠りこけた。
『もしもし・・ハルコ?』
『はい、薫先生。今京都からですか?』
『ううん、東京駅よ。』
『宿泊は3日じゃあ?』
『それがね、若返り過ぎちゃって・・・追い出されちゃった。』
マネージャーのハルコは、急ぎ車で迎えに行く。
『ハルコ〜、こっち。こっち。』
ハルコの元に走り寄ってきたのは、小学生になった薫だった。
『薫先生、どうするんですか?今度のヒロインは中年女性ですよ。』
今度の役は、女性の一代記なのだ。
薫はニッと自信ありげに笑う。
『大丈夫よ、子役から中年になるまで、私一人でこなしてやるわ』
一般のお湯につかると、また徐々に戻るという。
『薫先生、子役の時はその口調あらためませんと・・・』
ハルコはあらためて、薫のしたたかさに舌を巻いた。