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親友のあたし

楽しい話ではありません。




 あたしには大事な親友がいる。

 中学に入ってしばらくして、いつも通る公園で彼女、井澤イザワ 美晴ミハルの姿を見かけるようになった。

 見かける、と言うより彼女は毎日そこにいる。

 周囲にいる親子を羨ましそうに見ている彼女が気になって、声をかけた。

 それがきっかけで話をするようになり、気の合う友人から親友へと関係が変わった。

 親友なのだからと誕生日を聞けば渋って言いたがらない。ようやく聞き出して美晴の誕生日にプレゼントをあげたら、泣き始めてしまった。


ありがとう。

うれしい。

大事にする。


 何度も繰り返す美晴に驚いてその理由を聞いたら、初めて貰ったプレゼントだって言うの。

 そんなバカな。

 だって美晴にはお父さんもお母さんも妹さんもいるのに。でも、美晴の涙はそれが真実だって言っている。

 あたしは学校が終わると美晴を引っ張って家に連れて帰った。

 お母さんに美晴のことを伝えたら、


「お祝いしなきゃ!」


 おばあちゃんと一緒に慌てて料理を作ってくれた。うちは食堂やってるから、お手のもの。お兄ちゃんにはケーキを買ってきて貰って、お店のお客さんと一緒に美晴の誕生日を祝った。

 美晴はずっと泣きながら笑ってた。

 ありがとう、を繰り返してた。





「バイト?」

「うん。お金、貯めたいの。早く家を出たくて」


 美晴が深刻に相談してきたのでそれを家族に話したら、お父さんは渋い顔をした。


「中学生のバイトは親の許可が必要だろう」

「私の内職を手伝ってもらうのは?」


 言い出したのはおばあちゃん。


「私の内職を手伝って貰って、お小遣いをあげるのはどう? 大した金額にはならないだろうけど、しないよりは良いんじゃない?」


 美晴はそれで良いと言った。

 学校帰りに家に寄り、おばあちゃんと楽しそうに話ながら内職の手伝いをする日々。

 その中にあたしが入り、いつしかお兄ちゃんが入り。

 いつの間にか輪になって話するようになってた。





 美晴と一緒の高校に進学した。

 高校に入ってから美晴のバイトはうちの食堂と知り合いのイタリアンレストランの掛け持ち。

 帰りが遅くなるのに大丈夫?って聞いても『誰も心配してないから』とけろっとしている。

 家族がそんなに無関心だったら寂しいだろうに、


由希ユウキがいるし、由希の家族の方が家族って思えるし』


 笑ってそういうの。

 あたしも美晴が家族に思えていたから、


「いつかお兄ちゃんと結婚して、本当の家族になろうよ!」


 言ってみたら、大笑いして


「考えとく」


 って返事してくれた。あたしは本気だよ。

 多分、お兄ちゃんもあたしと同じこと考えてる。


 大学に入ったら、美晴はバイトを増やしてた。

 入った学部が学部だけに心配したけど、ちゃんと単位は取ってしっかりと進級してた。

 そして二十歳の誕生日。美晴はうちに来て、お父さんに頭を下げた。


「アパートを借りたいと思うので、保証人になってください」


 アパートなんて借りなくて良いのに。うちに来れば良いのに。

 あたしの家族は皆そう言った。

 でも、美晴は首を横に振った。

 

「まず自立したいんです。あの家族から離れるために、自分に自信をつけたいんです」


 そう言って譲らなかった。

 結局、美晴の保証人にお父さんがなる約束をし、アパート探しをあたしとお兄ちゃんと美晴で一緒に行った。

 『荷物は少ないから狭い部屋でいい。あと安ければ』と美晴は言っていたけど、セキュリティはしっかりしてた方がいいよねと、あちらこちらを探し回った。

 運よく大学とバイト先の中間地点位に満足できるアパートを見つけた。さっそく契約して、美晴は少しづつ荷物を運び出していた。

 それでもあの家の人たちは美晴が出て行くことに気づいていない様子。

 本当に『家族』なの?





 最終的に出て行く前に、家族との決別をと美晴は考えていた。

 決行は妹さんの誕生日。

 美晴はその日に完全にあの家と別れるつもりだ。


「妹へのプレゼントとして最高のものだと思うの。『家族』だけになれるんだもの」


 聞けば妹さんとは腹違いの姉妹とか。

 母親に邪険にされていた理由としては、世間では『よくある』と言われるだろうけれど、どうして美晴がそんな目に合わなければいけないのだろう。

 家を出ることで、幸せの風が美晴に吹くといいな。


 妹さんの誕生日当日。

 あたしは美晴のアパートで一人待っている。

 お兄ちゃんは美晴のところに行かせた。草食系男子のお兄ちゃんだけど、何だかんだでお兄ちゃんも男だ。いざという時には頼りになるはず。

 ついでに帰り道で告って来ればいいのに。美晴だってお兄ちゃんのこと意識してるんだけどな。

 


 あたしは部屋を見渡した。

 美晴が言ったように物が少ない、本しか見当たらない狭い部屋。しかも、持ってくるものは後はスーツケース一個分なのだという。

 本当に美晴には何も買わず、妹さんにだけ物を買っていたんだと実感した。

 美晴の服はリサイクルショップの物ばかり。流行りなんて関係ない、無難に着まわせるものしかない上に枚数も少ない。

 化粧品だって高価なものは買えないから、基礎化粧は自作で他はノーメイク。

 年ごろの女の子の部屋なのに、服も化粧品も装飾品も見当たらないって酷すぎる。


 時計を見ればもうすぐ10時になるところ。

 美晴の新生活の門出を祝う準備をしておこう。


 早く帰って来ないかな。



お読みいただき、ありがとうございました。

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