サツジン
月明かりが眩しく輝いている。秋も終わりを告げ、季節は冬に差し掛かっているようだ。吐息が白い。男は閑静な住宅街の中から目ぼしい一件を見つけると、気付かれないように窓から中を覗き込む。子供が二人と両親がテーブルを囲んで楽しげに食事中…みたいだ。確かにもうそんな時間か。美味しそうな獲物を前に腹が鳴る。幸い誰にも感づかれていないようだ。男は懐から肢にイヤホンを刺しているナイフを取り出すと、お気に入りのヘッドホンを耳に付けた。
「よし、今日の獲物はアイツら四人だ…」
男は小声でナイフに語りかける。
「リョウカイシタ」
ヘッドホンから返事が来る。すると男は待ってましたと言わんばかりに窓を叩き割った。男はガラスの砕け散る音より小さな声で呟く。
「美味そうな肉共だ」
窓から進入する際再び呟くと、男の姿は消えていた。代わりに飛び散る血飛沫、断末魔、肉片。子供は煩いから真っ先に喉をかっ裂いた。何が起こっているのかを理解できず恐怖で凝り固まる親の顔、最高だ。目の前で大切なものが突然消えた苦しみを味わえ。
僅か数秒、この間に消えた男は子供を二人殺し、怯えた妻を殺し、恐怖に憑かれた旦那を殺した。正確には子供一人と妻のみ…を切り裂いたのだが、結果的に一家は全滅した。もうこの家には誰もいない。
窓を割ったり叫ばれたりしたから、すぐにヒトがワラワラ来るだろう。男は小さく舌打ちをすると、転がっている死体から耳を削ぎ落とし、それを持参したジッパーに入れ、家を後にする。外に出るとサイレンの音が聞こえた。近所の奴らは警察を呼んだのか。まあいい。男はガラスを踏まないように気を付けながら、野次馬が集まる中、のらりくらりとその場を悠々と立ち去っていった。
同時刻、いくつもの巨大モニターに囲まれた一室。顔の右頬に火傷のある若い白衣の男がモニターを見ながら、隣に座る眼鏡を掛けた若い女性に話しかけている。
「……彼らは、役割を果たしてくれているようですね」
女は男を見向きもせず、「ええ、そうね」とだけ答えた。
第一話、これだけでは話がわかりませんよね?それもそのはず、これはプロローグです。次回から、主人公が登場します。……、これからもよろしくお願いしますm(__)m
各週日曜日更新でアップしていきます…。