今年も一年
とてつもない武術の達人だとしても防ぐことができない事象があった。
「肌年齢は20代をキープしている。筋肉、骨格、体調、細胞、それらは未だに活性化中だ」
正月を過ぎ。何かと世間は風邪だの、新型インフルだのと、騒いでいた。マスクやらサプリメントは軒並み好調の売れ行き。対策方法も流行っていた。
そんな時期であるのに、人込みがやや減ってきた神社への道をマスクもなく、それほど厚着もしていない男女が歩いていた。
「しかしまぁ、……なぜ今年もやってくる?」
「それが時間の流れだ。そんで、いつもの事だろ?」
今年も一年。そう言いつけると始まったのか、終わりそうなのかのどちらか。だが、どっちにも同じことを言っているのは年齢が一つ上がることを自分に伝えている。
「1月11日は参拝者も少ねぇし、縁起の良い数字の並びじゃねぇか?」
「天草。私は恒例行事に付き合うのはごめんなのだがな。恒例行事って、やるたびに私の年齢が一つ上がっている気がするんだ」
「それが恒例って言葉だよな」
木見潮は少し不満気に遠くにある神社の社を見ていた。神社にやってくるなんて、この時期くらいしかなく。なんでか去年と変わりない場所でムスッとする。
「神社は楽で良いな。ちゃんと建て替え作業や、補強工事がいくらでもできて。人間は1人でやるしかないんだぞ」
「建造物にグチグチ言うなよ」
「私はな!生まれて○○年だが、1000年と続くこの神社がしっかりと存在していることに腹が立つ!!どれだけ私が苦労して肌年齢を若く保っていると思っているんだ!」
「大丈夫だ。姐さんの戦闘力はバリバリ現役かつ、若々しいじゃないか」
天草は、鵜飼組の組長らしく。姐さんなどと呼ぶが部下でもある木見潮をフォローする発言をしたつもりだが、
「今年くらいはモテたいんだよ!仕事ができ過ぎたらな、いつしか結婚なんてできない年齢になっているの!!っていうか、なっちゃったの!!いい!?肌年齢だ、体力だ、筋肉だ、もう私はそれらを保つことしかできないんだよ!?それがどれだけ深刻か分かる!?もう、あの頃の肉体には戻れないの!!」
「お、落ち着いてくれ。悪かった。頼むから腹いせで神社を破壊するんじゃない。拳を振り上げるのは止めてくれ」
仕事ができるや、バリバリ現役などという言葉は本人に年齢があると伝えているようなものだ。木見潮にとっては何一つフォローになっていない。
今年もまた嫌々で一段登ってしまう年齢に苛立ち。
「正月なんて潰れてしまえ!一年という基準があるから、私が歳をとるハメになる!」
「歳をとらないのは人間としてどうなんだ?みんな、歳をとるだろ」
みんな、1月と12月は嫌いだろう。
まずは寒いし、風邪が流行る季節だし、年が一つ増えるわけだ。必然的に年齢も上がってしまうと実感する。
「誕生日よりも性質が悪い。ケーキも出ないし」
「……誕生日、1人ケーキは寂しいとか去年言ってたよな?」
「五月蝿い!!みんなで祝われても嬉しくないわ!こんな歳だし!」
木見潮と天草は楽しく話しながら、賽銭箱の前までやってきた。ようやく、お願いどころだ。
「違うだろ?お金をタダで投げるところだろ?」
「バチが当たるぞ、天草」
「お祈りに金は要らないと思っている」
「やれやれ、いかんなぁー」
そう言いながら、木見潮は一円玉を賽銭箱に放り込んでお願いする。たったの一円か!っと、賽銭箱は叫びそうだった。
「今年くらいはモテますように。残りの金は化粧品にします」
モテることよりも、若さを保とうと考えているのは幼少の頃から武道一筋を貫き、傭兵仕事を任された今を考えている。
恋愛という感情よりも自分を優先しているのは木見潮の素直じゃないところだ。というか、その先を考えてないだろうと天草は思う。
「天草は何を願う?」
「金は出さないぞ?」
1円すら出さずに、見えない神様にお願いすることがある。両手で叩いて、祈って、……2秒で
「終わった」
「は?で、何を願ったのよ?」
「願ってねぇよ?ただの恒例行事だから来ただけだ」
「なにそれ」
「いいじゃねぇかよ、祈るだの、お願いするだの、俺は見えない奴には頼る柄じゃねぇよ。やっぱり、見える物に金を出すべきだ」
天草は特別に祈らない。ただここに来た理由はある。所持金わずか1000円。残りのほとんどはカード払いで生活している男にあるやるべきこととは、神社を出る帰り道にある。やるべきことはやった後で見回ることが何よりも良い。
「なぁなぁ、木見潮!あそこにあるチョコバナナやたこ焼きを食わねぇか?」
「お前………」
「俺が奢るからよ!祭に合う食い物でもどうだよ!」
「お前な……」
「別にデートじゃねぇぞ?」
「当たり前だーー!!ただの付き合いだーー!」
初詣よりも大切なのは食い物だった。
良い食べっぷりと、良いはしゃぎっぷりで色々な店を周る天草にとっては、仕事疲れを癒す丁度良い息抜きであった。今年を乗り切るための休暇は必要である。一方で木見潮はカロリー計算や栄養管理を気を配りながら、たこ焼きを食べていた。
今年も一年が始まったのか……。