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支配されていたときの記憶は無くなる。全員何が起きたのか分からず、首を傾げていた。ただそれなりに高価な下級占術妨害のマジックアイテムがたくさん手に入って、今年の冬は楽に越せそうだと呑気に喜んでいた。
「あちゃあ、修理するのには時間がかかるな」
手持ちの大砲が一門破壊されてしまった。シシドの魔法で破壊された大砲は、修理するのに数日の時間と設備が必要だ。
「そんな時間はないか」
この大砲はもう使えない。攻城兵器で無くなったものに俺のスキルは届かない。
「いやぁ、操られるとは面目ない」
ミライは謝りながら頭を掻いていた。
「仕方ない、俺だって事前準備無しじゃ相手の支配を無効化できなかったよ。聴覚で知覚する人間がいるだなんて思いもしなかった」
「聴覚による擬似視覚持ちは音の反射で周囲の状況を知覚するものです。数百メートル範囲の受動擬似視覚だなんてクリーチャーでもそうそういないですよ」
カミラは未だに信じられないといった様子だ。
サウンドマンは音を拾う道具を使っていた。だが、その拾った音から正確に状況を把握することは、俺には不可能に思えた。
間違いなくあいつは与えられたレベルカンスト能力に頼らない超人だった。
「で、他にもあいつくらいのバケモノが居るの?」
「さ、さあ、俺たちあんまり上のことは知らなくて」
二人の忍者、ゼブロとクランドは首を横に振っていた。
レベルカンストだけあって死んでなかった二人は、その後俺たちと戦うことはなく、自分から降伏してきた。牢屋でおとなしくしていたら、サウンドマンがやってきて支配されてしまったらしい。
「で、降伏したんだから俺たちも連れて行ってくださいよ」
「やだよ足手まといだし」
「そんなー。もうジェイク派にはついていけないですけど、元の世界に戻るためにはジェイクたちのアジトに行かないといけないし」
困ったことに二人の忍者は俺たちに同行したいと言い出したのだ。
「レベルカンストなんだから自分で何とかしろよ」
「無理っすよ俺たちまだ未成年なんですよ」
「知るか! この世界じゃクラスレベル持ったら成年扱いだ!」
付き合いきれない、ミライにこいつらのことは任せて俺は退席することにした。
「シシド」
村外れでシシドは座っている。クロウやミライは操られるのは仕方がないと割り切っていたのだが、シシドはひどく落ち込んでいた。
「大丈夫か?」
「ダン……」
声をかけてもいつもの元気がない。俺の方を振り向こうともしなかった。
「支配されるのは仕方ないだろ。格上相手の精神操作は事前準備なしじゃ俺たちには回避できないよ」
対策するための魔法の効果時間は戦闘中に効果が切れるほど短いものばかりだ。本来なら相手から視認されないと魔法はかけられない分、対策も可能なのだが今回は相手が規格外過ぎた。
「スリープの魔法で眠らされたようなもんだろ。どうしようもなかった。だから気にするなって」
「気にするんだぜ」
重症だな。なんでこんなに落ち込んでいるんだ。
「俺は、ダンを守りたかったんだぜ」
「いつも助かってるさ」
シシドは俺の大切な幼馴染で親友だ。前世のことも、今世のことも、腹を割って話せるのはシシドだけだ。シシドの火力バカからの意見は重要だし、どんな危険な戦いだって恐れず俺と一緒に来てくれる。
「お、おれ……あたしは!」
「し、シシド?」
「あたしは……あたしは絶対……ダンの仲間でいようと……絶対……」
シシドは泣いていた。
「シシド……」
もう言葉を続けられなかった。気が付くと俺はシシドを抱きすくめていた。
「ごめん、ごめんダン……」
なんて言葉をかければいいのか分からない。だから俺はただシシドの赤い髪を優しく撫でることしかできなかった。
「恥ずかしいところを見せたんだぜ」
「い、いや、大丈夫、そういう時って俺にもあるし」
「テキトーなこと言うなだぜ」
「本当だって」
「本当なら遠慮無く俺の胸に飛び込んでこいだぜ」
そういってシシドは薄い胸をトンと叩いた。まだ目は涙で赤くなっているがいつもの調子にもどっていた。
「じゃあその時は借りようかな」
「お、おう」
シシドは自分で言っておいて顔を赤くしていた。
こんこんと音がした。
「え?」
振り返ると、そこには分厚いフルプレートを着た女重戦士が気まずそうな、そしてちょっと顔を赤くして立っている。どうやら彼女が自分の鎧を叩いて、ここにいることを知らせたようだ。
「久しぶりねシシド」
「まさか」
その女重戦士の顔に見覚えはない。だが、その最高級の鎧には見覚えがあった。
「ケント?」
「ええそうよ」
ミナトの仲間の一人だった女重戦士。そこにいたのはケントだった。




