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5-11

「支配対策か」


 精神防護マインドシールドの魔法をかけておく。持続時間は六分。

 さらに大砲を森に配置して援護できるように。俺の常套戦術だ。


「まずは人形遣いの居場所からだな」


 人形遣いの支配は直接制御、あの場を見られる位置にいるはずだ。俺はさっきの戦闘で使った大砲に絆を伸ばす。着弾予測地点を知覚能力で周囲を探るのだ。


「いない?」


 戦いのあった場にはもう誰もいなかった。


「退き際をわきまえているな。手強い相手だ」


 待て、ミュウやシシドはどうした? あんな騒ぎがあったんだ、あいつらだって飛び出してくるはずだ。鎧を着る必要があるミュウたちはともかく、俺と同じで鎧を装備できないシシドはすぐにでも駆けつけられるはずだ。


「あいつらも襲われているのか?」


 攻城兵器スキルによる警戒をしながら、俺は村へと走った。



「静かだ」


 物音ひとつしない。ここがさっき俺が殺されかけた場所と同じだとは一瞬思えなくなる。だが地面に広がるおびただしい血は間違いなくここで戦闘が行われたこと示している。

 慎重に仲間がいるはずの村長の家に向かう。


生命感知ディテクトライフ


 感知の魔法が周囲に飛ぶ。対占術対策をしている忍者を見つけることはできないだろうが、他の生きている村人や仲間は見つかるはずだ。


「それぞれの部屋にそのままいる?」


 あれだけ騒ぎがあったのに眠っているのか? 生命感知は範囲は広いが一瞬で効果が切れる。動いているかどうかは把握できない。

 だが魔法力は節約しなくては。転移二回。さらに日中旅をしていたこともあり、あまり余力があると言える状態ではない。

 俺は縮小化した大砲を取り出し、警戒しながら玄関を開いた。


「旅人さん」


 カチャリと引き金を引く音がした。玄関の向こう側には村長を含む五人の村人がクロスボウを構えて並んでいた。

 とっさに大砲を投げる。魔法を解き、大砲が本来のサイズに戻ってクロスボウボルトを受け止めた。


「大砲はあといくつあるんです?」


 村長は無表情で言った。同時に後ろから扉の開く音がした。俺は後ろを振り返る。


「バカな……」


 向かいの家からクロスボウを構えた村人たちがかけだしていた。ありえない、これほど大量の人間を支配するなんて、そんな魔法もスキルも存在しない。


落とし穴の創造クリエイトオブピット!」

 本来は相手を落とし穴に落とすための魔法。だが今は自分の足元に作る。落下する俺と大砲の頭上をクロスボウボルトが飛来した。

 地面に激突し、俺は痛みで呻いた。だがこれくらいは忍者の攻撃にくらべたらかすり傷みたいなものだ。

 召喚魔法を唱え、いつもの下級悪魔たちを四人召喚する。


「砲弾を取りかえろ」


 その間に森に残した大砲に絆を伸ばす。だが。


「スキルが作動しない。大砲が破壊されただと?」


 大砲は金属の塊。しかもアナトリア製鋼鉄砲だ。そう簡単に破壊されるような代物ではないはずなのに。

 上から村人たちが覗き込んだ。手にしたクロスボウで穴の中にいる俺を狙うつもりだろう。


 だが!


 俺は大砲を発射する。飛び出した砲弾は天井にぶつかり激しい光を発した。


「照明弾だ」


 支配能力の弱点は反射的な行動が鈍ること。強力な光をまともに浴びた村人たちは視力を失ったはずだ。


「これで……なに!?」


 降り注ぐクロスボウ。狙いは正確だ。必死に回避するが肩に一発命中してしまう。また焼けつくような痛みが広がる。


「く……毒か!」


 このままではいい的だ。俺は素早くクリエイトオブピットを解除する。落とし穴が消え俺は元の床へと戻った。


「殺さず取り押さえろ!」


 村人くらいなら下級悪魔でも取り押さえられるはず。俺は指示を出すと外に走りだす。


「なぜだ、なぜ照明弾が効かなかった」


 村人たちは俺を見ていない。視力は一時的に失われているのは間違いない。なのになぜ当てられた?


「手強い、本当に手強い相手だ」


 俺の知識に無い未知の敵。そして俺の戦い方を研究し尽くしている相手。


「上等だ、叩き潰してやる」


 毒が回り暗くなりつつある視界と共に、俺の頭は強敵に対しどう戦うか計算を始めていた。



 物陰に隠れ、俺は体勢を整えた。


毒遅延ディレイポイズン


 魔法力を節約するために解毒ではなく毒の効果を一時的に遅らせる魔法を使う。消耗した体力はまた偽りの生命で充填した。


「みんなはどうしたんだ?」


 不意を打たれて拘束されているのか? まさかもうやられて……。


「あいつらに限ってそんなことは無いはずだ」


 念のためもう一度生命感知を走らせる。反応はさっきと全く同じ。どうやら生命感知を誤認させるアイテムと、占術防御を村人全員に持たせているようだ。


「……どうして気が付かなかった」


 さっきと違う場所に二人。俺は何が起こっているのか理解しつつあった。


 生命感知の反応があった場所に向かうと、二人の人影が立っていた。


「クロウ、ミライ」

「ダン! 無事だったか」


 クロウが安堵したように笑みを浮かべている。


「急に村人たちが襲ってきて、手を出すわけにもいかないからここに逃げてきたんだ。ダンがいなかったからもしかしてやられちまったんじゃないかと心配してたんだ」

「ああ、俺も安心したよ」


 俺に駆け寄ろうとした二人の間にさっき放置した村長の家の大砲から粘着弾が発射される。


「な、なに!?」


 不意をつかれた二人は完全に粘着弾に飲まれ動きを止める。


「そのまま事が終わるまで大人しくしててくれ」


 すっと二人から表情が消える。そして二人は笑った。無機質で無感情な声。ただ肺から空気を押し出しているだけの笑い声で。


「ははははは」


 その時、影が動いた。


「しまった!?」


 忍者が二人、隠密スキルで不意打ちの機会を待っていたのだ。俺が自分の作戦が上手く行ったことを確信する瞬間。その気の緩みを狙っていた。

 びゅうと風をきる音がした。


「アホ主人!」


 飛び出してきたカミラとミュウが忍者と俺の間に割って入る。ガキンと甲高い音を立て、刀と剣がぶつかり合った。


「横に跳べ!」


 ばっと、二人が横に跳ぶ。射線の開いたところにハンドキャノンを打ち込む。今回はマスケット銃の弾丸サイズを大量に詰めた散弾だ。

 本日二度目の散弾を受け、ようやく忍者はよろめいた。魔法力を込めて威力を上げた砲弾は、レベルカンスト忍者にだって通用する。

 その隙をついてミュウとカミラの剣が走り、二人の忍者を斬り結んだ。


 ほっとしたのも束の間だった。この結果すら、人形遣いは読んでいたのだろう。


「シシド……」


 忍者の更に後方、不可視の魔法をかけて隠れていたシシドの最大火力魔法。全員の行動が終わった瞬間を狙って放たれたその炎の魔法に対応することは誰にもできなかった。



「さすが火力バカだな」


 俺たちの身体からぶすぶすと全身から煙が上がっている。


対火結界プロテクションフロムファイヤーがなければヤバかったよ」


 カミラは吸血鬼のタフネスで、ミュウは正義の恩寵で、そして俺はここに来る前、シシドとの戦いを想定して火と電撃に対する防御を行っていた。それでもシシドのスキル、抵抗貫通でミュウも俺も少なくないダメージを負っていた。

 

「大砲はシシドに壊させたんだな」

「ああそうだよ」


 人形シシドを通して、はじめて人形遣いは俺と会話した。


「よく俺たちの事を調べあげていたな」

「君は有名人だからね。この一年、ずいぶん活躍したみたいじゃないか」


 お互い必殺の手段を準備する。


「だが仲間については情報不足だったようだな」

「噂通り勘がいいようだな」

「勘じゃないさ。ミュウは正義の恩寵があるから支配が効かなかったのは分かる。だがなぜカミラが無事だったのか」

「…………」


 無表情はシシドには似合わないな。俺はそんなことを一瞬思っていた。


「カミラが呼吸をしない不死者アンデッドだからだ」


 シシドが再び魔法を発動する。俺は同位の水の魔法を唱えて相殺した。


「シシドは味方の援護があってこそ輝くタイプだよ」


 シシドが次の呪文を唱えるより早く、ミュウがシシドを取り押さえていた。


 俺は最初に飛んだ森へと向かった。


「驚いただろうな」


 俺は森の中へ言った。返事はない。


「いきなり隠れ場所のすぐ近くに俺が来たんだ、さぞ驚いただろう」


 がさりと音がした。


「転移者……なのか?」


 現れたのは杖をついた三十代くらいの男だった。そして、その目は白濁していて目に障害があることがはっきり分かった。


「ふふ、やられたよダンフォース」


 そいつは俺の方を見ずに言った。


「三十九位、人形遣い(ドールマスター)のサウンドマンだ」

「俺も驚いたよ、音だけで俺たちの位置を把握するなんて。魔法は知覚していないと使えない……普通なら視認していないと使えないものなのに」

「ふふ、この世界はいいな」


 目が見えないというハンデを逆に聴覚を第一の知覚器官となるまで鍛えあげることで、より強力な技術に昇華するとは。


「だから呼吸をしないカミラの位置が、カミラが部屋で静止している間分からなかったんだ。それで支配するタイミングを逃した」

「ここの大砲を処理したのは悪手だったかな」

「ああ、聴覚で知覚できるなら街の中にいる必要はない。どこか離れて隠れていることは明白だ。だとするとここの大砲を処理できるのはおかしい。ここは街から離れているからな。となれば答えは唯一つ。お前の隠れ場所はここから街の間のどこか、ということだ」

「ご名答」

「だが一つだけ分からないことがある。俺の知る限り、人形遣いのスキルは同時に一人だけ。どうやってこれだけの支配を一人で成立させたのかが分からない」


 男は楽しそうに笑った。


「スキルは改善できる。ここはゲームではなく現実なのだから。俺はこの一年余り、人形遣いのスキルの研鑽だけを続けてきた。研究、理論、実践。ひたすら繰り返し、俺だけのスキルを求め続けた。その結果だ」

「大したヤツだ」


 俺は心からそう言った。


「ここなら誰も俺を憐れまない、いい世界だよ」


 がさりと木々がゆれ、森の影からオーガが現れた。


「ブルーオブアナザーカラーはヘッドマウントディスプレイを使うゲーム。よく目が見えないのにプレイできたな」

「苦労したよ、だが俺は三十九位まで登ることができた」

「異世界に飛ばされて後悔はしていないのか?」

「ああ良い夢を見れた、俺はこの世界では目明めあきより強くなれた」


 俺はハンドキャノンを構えた。こいつは強い。そしてあの忍者たちと違って、殺さないと必ずまた殺しに来る。そういう真の強さを持った相手だ。


「心拍数があがったぞダンフォース。外したら次はないぞ?」

「外さないさ」


 殺気を感じたのか夜だというのに鳥が飛んだ。


「最後に一つ聞きたい」

「なんだ?」

「最初に俺を支配すれば、もっと簡単に事が済んだはずだ。なぜそうしなかった?」


 サウンドマンは口元をニヤリと歪めた。


「ミナトに勝ちたかったのさ」

「それは……」


 どういう意味かとは聞けなかった。オーガが斧を振り下ろし、俺はハンドキャノンの引き金を引いた。すべての魔法力を込めた砲弾はサウンドマンの胸板を貫いた。


「ふ、ふふ……良い夢だったが、勝てなかったのは……未練だな」


 サウンドマンは膝をつくと、胸から血を流したまま動かなくなった。

 糸が切れたかのように、オーガは急に力を失い転倒した。人形遣いの支配が解除された証拠だ。


「アンタ、強かったよ」


 穏やかな死に顔を浮かべているサウンドマンの亡骸を見て、俺はそう呟いていた。

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