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5-9

 モーゼバッケ港を出て、俺達は大陸中央を目指し北上した。ロバを購入し、荷物はそちらに乗せている。

 もちろん、俺も一緒だ。ティティス神の預言はたしかに気になるが、だからといって今更ここで帰るなんてできるわけがない。そもそも神の預言は絶対というわけではない。預言が絶対なら神々の争いなんて起きるわけ無いのだから。


「寒いね」

 はぁっとミュウが自分の手の平に白い吐息を吹きかけた、


「冬にはまだ大分時間があるはずなのに」

「そうだな、だけどここからは常冬の世界だ、極北からの風が常に吹き込んで、一年の大半が雪で覆われているはずだ」

「よく知ってるね」


 ゲームでは四季は再現されていなかったが、この世界ではこういう解釈になったらしい。ここからは雪の道をひたすら進む。


「もう少し北にいけばソリが使えるようになるんだろうけどな」


 今は雪が積もったり、積もっていなかったりする状態だ。馬車の移動もソリの移動も困難な状況だな。


「火薬の調合も変えておかないとな」


 金属薬莢式と違って、火薬が大気に触れる大砲では、火薬の調合を、土地や気候によって変えなくてはいけなかった。



「次の目的地はネブストロウム村よ」


 ミライが大雑把にしか描かれていない地図を広げて言う。


「たしか妖精語で川下って意味だったか?」


 シシドは意外にも妖精語の知識があったようだ。魔法使いなんだから知識関係は詳しくて不思議はないんだが、シシドに限っては意外だった。


「妖精語には詳しくないから分からないけど、たしかに川の辺りにあるわね」


 俺も横から地図を覗きこむと、スミ川という河川の辺りにあると描かれている。


「川下村ね、そう大きくはなさそうだな」


 こういう分かりやすいネーミングの村は、その名前で事足りる程度の規模ということだ。他の集落との付き合いも最小限なのだろう。


「その村には寄らないといけないのか?」

「ここを通り過ぎると、隊商ルートの道と街道に分かれてるんだけど……」

「隊商ルートと街道が別なのか?」

「ええ。山岳地帯を抜けて西の集落を抜けるみたいね。商隊はそれでいいだろうけど、パラディンパレスへは大きく遠回りすることになる。私たちは直通の街道を進むことになるわ。そうなると、ここの村で補給しておかないと、しばらく補給できる場所がないのよ」


 なるほどそういうことか。


「分かった、じゃあネブスロウム村を目指すか」


 さくさくと薄く積もった雪を踏みしめながら、俺達は進んでいった。



「へぇ、南から来なすったんで」


 初老の村長婦人がそう尋ねた。村に宿は無かったが、村長の家の部屋を借りることができた。

 俺達は火鉢を囲んで、マシュマロを炙って食べている。村では砂糖が特産品らしい。卵白、家畜の皮から作ったゼラチンを材料に作られるマシュマロは美味しい菓子でもあり、そして保存食でもあった。


「ええ、パラディンパレスを目指してるんです」

「聖都を、巡礼ですかい?」

「まぁそんなところです」

「そりゃご苦労様です。最近多いんですかね、聖都への巡礼っての」

「多い?」

「ええ、二日前もここに立ち寄ってくれた巡礼者がいてね」


 ふむ、関係ないか?


「どんな人だったんですか?」

「三人組だったよ。男三人の巡礼者」


 男三人の巡礼者。エーリュシオンの異常をいち早く察知した聖騎士だろうか?


「うまうま」


 シシドはのんきに炙ったマシュマロを頬張って幸せそうにしている。トロリとマシュマロがとろけ、ほんの少しだけキツネ色に染まっていた。


「くるくる回すんだぜミュウ。一面だけ焼いたら焦げちゃうんだぜ」

「ええっと、こう?」

「そうそう」


 そんな仲間の様子に苦笑すると。俺もマシュマロが無くならないうちに食べることにした。おい半分以上食い終わってるのかよ、少しは遠慮しろよ。


 夕方、納屋を借りて俺は火薬の調合を行っていた。隙間風が入り込む納屋は寒いのだが、火薬を扱う以上火鉢を持ち込むわけにはいかない。


「ふぅ」


 ゴリゴリとすり鉢で火薬を細かく磨り潰す。細かくすると燃焼性は良くなるが湿度に弱くなる。かといってあまりに荒くするとあまり威力がでない。火薬の扱いに関しても砲術に必須な知識だ。


「ん?」


 気配を感じて入り口の方を見ると、小さな子どもが二人、俺の作業の様子を覗きこんでいた。


「ふむ」


 子どもたちは俺が何をやっているのか興味が有るようだ。さて、攻城魔術師としてこの期待にどう応えるか。

 俺は火薬をひとつまみ、近くに落ちていた藁の先に水滴で粘性を出して付着させる。


 俺が子どもたちのところへ向かうと、怒られると思ったのか子どもたちは慌てて逃げようとした。


「待った、待った」


 俺が呼び止めると二人はおずおずといった様子で俺の顔色を伺っている。

 男の子と女の子だ。女の子の方が背が高く、男の子の方は大人しそうだ。

 俺はろうそくを取り出し、魔法で火をつける。


「?」


 子どもたちは何をするのか不思議そうだ。


「いいか、見てろ」


 俺はそっと、ろうそくの先に藁の先端を近づけた。

 パチパチと音を立て、そして小さな火花を発しながら火薬がゆっくり燃えていく。


「わぁ」


 初めて見る火薬の神秘に子どもたちは目を奪われていた。線香花火の咲かせるオレンジ色の花びらは、夕闇の中小さく、でも美しい姿を見せていた。


「ほい」


 俺は同じように作った線香花火を二人に渡す。


「いいの?」

「ああ、やってみろ」


 最初は恐る恐る、段々大胆に、二人の子どもは初めての線香花火を楽しんでいた。


「ね、ねえ! これどうやって作るの?」


 興奮した様子で男の子が俺に尋ねた。その顔には知的な好奇心がはっきりと現れている。


「これがもっと大きければ狩りにも使えそうだね!」


 女の子はそう言って小さな炎に目を輝かせている。


 まるで、昔の俺とシシドのようだ。


「そうだな、ちょっとだけ教えてあげよう」


 理解できるとは思っていない。だけど、明日くらいまでは今日の興奮を忘れずにいてくれると思うから。

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