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5-6

エーリュシオン大陸海の玄関口、モーゼバッケ港は、航海の神ネロウを信仰する町だ。


「船が来たぞー!」


 灯台守がそう叫び、カンカンと鐘を鳴らす。ネロウは勇気と成果を好む。危険な海にでて、それを乗り越え港へとたどり着いた者達に、ネロウとその信者たちは賞賛を惜しまない。

 船をつけると、歓迎の人足たちが集まってくる。口々に「よく来た」と歓迎の言葉を投げかけてくる。歓迎も彼らの本心だろうが、同時に荷降ろしの仕事にありつくためという理由もある。

 エーリュシオン大陸の人間は、肩幅が広く顔が四角い。髪は金髪か黒髪が多い。大抵酷いくせっ毛で、柔らかい髪質の癖にクシが通りにくい。肌の色は白く、筋肉質で手足が短い。

 人間以外にも、ドワーフやノームの人足も混じっているようだが、エーリュシオン人と並ぶと、同種族なのではないかとすら思えてしまう。


「悪いな、見ての通り六人旅で大した荷物も無いんだ。だが、船を係留する手続きを手伝ってくれるなら歓迎するぞ」


 人足同士で決まりがあるのか、誰がやるのかはあっさりと決まった。


「こっちだ」


 ホーカンと名乗ったひときわ背の低い案内人は、俺たちを港の事務所に案内してくれた。報酬は銀貨三枚。妥当なところだろう。


「相場は一日停泊で銀貨十枚だ。それ以上に値切ると見回りの手を抜くことがあるから止めておいた方がいい」

「そうか、ありがとう」


 停泊料としては安いほうか。エーリュシオンの港の相場も分からないし素直に従っておこう。


「何日になるか分からない時は金貨一枚渡すといい」

「分かった」


 このアドバイスのおかげか、交渉はスムーズに終わった。


「それじゃあ、俺はこれで。なんかあったら海潮亭の亭主に話をしてみてくれ。そこから俺に連絡がいくようになってるから」

「ありがとう、また何かあったら頼むよ」


 そう言って小柄のエーリュシオン人は夕暮れの路地へと消えていった。


「さて、とりあえず情報収集か」


 クロウは初めて来る町にウキウキしているようだ。生粋の冒険者であるクロウらしい。


「ここが聖騎士の聖地への入り口か、あんまりそういう雰囲気はないね」


 逆にミュウは初めてくる町に、少し警戒しているようだ。スリや強盗がいないか、ときおり周囲に警戒の視線を投げているのが分かる。警戒しているのが分かるというのも問題なのだが、そういう器用さはミュウの得意分野ではないし、仕方がない。


「まっ、飯でも食いながら考えようぜ」


 俺たちは、ホーカンが勧めてくれた酒場へと向かった。



「北に向かった商隊と連絡が取れないか」


 ブルーオブアナザーカラー事件が起きてから一ヶ月近く経とうとしているのに、聞けた情報はそれくらいだ。


「本来ならもうエーリュシオン外にまで情報が来ているはずなんだが」


 何か情報の拡散を妨げているものがあるのか。

 俺は宿のベッドに横になって考え込んでいた。

 ギシギシと硬いベッドがきしむ。クロウも相部屋なのだが、今は遊びに出かけている。情報収集も兼ねているので文句はないけど、一人でボーっとしているのも寂しい。


「ふうむ……」


 ジェイクもこのエーリュシュオンにいるのだろうか。なぜか俺を憎んでいたジェイク。原作小説では、強い意志と仲間を惹きつけるカリスマで多くの困難と戦い、勝利していたヒーローだった。


「それがなんで、あんなことに」


 あいつは憎悪に血走った目で俺を睨んでいた。両腕に人面瘡ジンメンソウを浮かび上がらせ、ミュウにさえ剣を振るった。

 あの姿は一年以上経った今でもはっきりと憶えている。

 何がヒーローをあそこまで狂わせたのか。それは俺が原因なのか。


「ロビーで何か飲み物でももらってくるか」


 俺はそう言ってベッドから立ち上がった。ギシリとベッドがまたきしむ。杖は持たない。俺は扉へと近づいた。

 窓から差し込む、エーリュシュオンの夕日がゆっくりと沈んでいく。影が伸びて、その境界線が曖昧になっていった。


 ハンドキャノンの轟音が俺の背後に響く。


「ぎゃああ!?」


 黒装束を着て、忍刀を振り上げていた忍者ニンジャが骨の砕ける音を立てながら悲鳴をあげた。


「ば、バカな、レベルカンスト忍者の隠密攻撃スニークアタックに気がつけるはずが!?」


 部屋には二人の忍者が俺を取り囲むように構えている。レベルは110。カンスト。ハンドキャノンの直撃を受けても、まだ余力が残っているようだ。


「転移者か」


 ジェイクたちの仲間の転移者だろう。俺たちがエーリュシュオンに来たことを察知したのか。


「どうやって俺たちに気がついた! 攻城魔術師の知覚能力じゃ、絶対にばれないはずだろ!」

「対感知防御もせずただ隠れだだけだろ。周辺感知ディテクトサークルで、お前たちの動きは手に取るように分かったよ」

「そんな低レベル魔法なんて使いやがるとは」

「たしかに周辺感知は、低レベル魔法だけあって魔法やアイテムで無効化する方法が多い。だがそういった対策をしていない相手に対しては絶対に発見できる魔法だ。消費魔法力も低いし、効果時間も長い。使わないわけがないだろ」


 ゲーム中では、採集中などに不意打ちされることを防ぐたための魔法だ。だが実際に使えば、その便利さは高レベルの魔法にも劣らない。


「忍者の能力じゃ対応できない? そのためのアイテムだろうが、工夫が足りないな」

「うるせえ! どのみち最強クラス忍者が二人、不意打ちなんてもともといらねえんだ!」


 二人の転移者はそう言って、とびかかってきた。


「俺は229位、ゼブロ!」

「俺は215位、クランド!」

「自己紹介どうも」


 そういえば順位なんてあったな。転移者と違って、俺はこの世界に来て長いせいか、もう自分が何位だったか忘れてしまった。


鉄化アイアンボディ


 俺は魔法で自分の身体の表面を鉄に変える。回避を捨てて防御力を大幅に上げる魔法だ。

 ガキンと鈍い音がして、忍者の攻撃は俺の身体へと食い込んだ。


「ぐっ……」


 鉄の皮膚を貫き、鮮血が吹き出す。レベルカンスト強クラスだけあって、防御魔法の上からですら、すさまじいダメージを俺に与える。忍者はセオリー通りすぐに間合いを取った。魔法使い相手なら接近したままの方がいい気もするが、攻略サイトにはそんなことは書いてなかったな。


「仲間が来るまで二分はかからないだろうな」

「だがそれまで俺たちはお前を殺せるぞ!」


 得意気に忍者は言った。


「そうやって剣で斬りつけて俺を倒すのか?」

「そうだ、忍者は回避と攻撃が高いクラス。敵の前に立って戦えばいいんだよ」

「最高評価上級クラスの忍者だ。攻城魔術師なんかに勝ち目はないね」


 二人は自分たちの勝利を疑っていないようだ。たった一撃加えただけだというのに、すでに勝ち誇っている。


「……なるほど」


 強クラスでレベルを上げて物理で殴ればいいだなんてそんな戦い方じゃあ、この世界では通じない。


「レベルが上がればできることが増える。それをすべて把握して、同じくらいできることの多い相手にどう対策するか考え続ける。高レベルで生きるってのはそういうことだ。本来ならレベルを上げる過程で自然に身につくんだろうが、最初からレベルカンストじゃあそれも無理か」


 俺はニヤリと笑った。


「かわいそうにな」

「なんだとテメエ!」


 安い挑発に乗り、顔を赤くした二人はさらに一撃を加えようと、俺の側へと飛び込んだ。

 その瞬間、轟音と共に窓から飛び込んできた砲弾が炸裂し、中から白い液体が飛び散る。


「なんだこりゃ!?」


 久しぶりに使った粘着弾は、俺たち三人を壁や床に縫い付けた。


「自分で食らうのは初めてだけど、結構痛いもんだなこれ」


 俺は両手両足を扉にくっつけられながら苦笑した。


「この野郎! だが、こんなのレベルカンスト忍者の力なら一分もあれば……」

「攻城魔術師じゃあ五分くらいかかるな、だが一分ものんびりしてていのか?」

「うるせえ、てめえだって動けねえくせに!」

「やはり話にならないな。俺が動けない? 一体お前は何を見てきたんだ」


 ぐいっとハンドキャノンがひとりでに動き出す。


「俺は攻城魔術師だぞ、手も足も使わず攻城兵器を操作できる。二回も見せただろ?」


 不意打ちを防いだ一回。外に配置してある大砲を使った一回。


「残念だが、ここまでだな」


 これから起こる痛みに対する恐怖で顔を歪ませた二人に、俺は容赦なく砲弾を叩き込んだ。

 なんだ、情報が向こうからやってくるとは、なかなかよい街じゃないか。

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