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4-38

 フィレロさんが来てから一週間後のこと。

 会議室には俺、カミラ、シシド、ウルト前アナトリア領主。そして、フィレロ大公、ペチュナーグ公爵、モーン伯爵が揃っていた。

 最後に部屋に入ってきたイザベラは、部屋の様子をみてぎょっとしていた。


「本当なら上クマ公爵もお呼びしたかったんだが、今もドラゴンキングダムとの戦争の指揮を取っておられてな、お三方だけに来ていただいた」

「私に相談も無くですの?」


 イザベラは不満そうだ。


「内密な話だったからな」

「公爵以上二人……失礼、今ダンフォースさんもノーマンランド公爵閣下でしたわね」

「公爵以上三人、有力伯爵一人、アナトリアの中枢メンバー。今回の話はここにいるメンバーだけに伝える話だ」


 俺がそう言うと、イザベラの表情がすっと引き締まった。


「よっぽど重要な事なのですわね」

「ああ、とてもだ」


 イザベラは席についた。テーブルの上には布をかけられた何かが置いてある。


「これが、今回の集まりのテーマですの? まさかフルーツが置いてあるなんてことはありませんわよね?」

「もちろん」


 俺はすっと布をとった。


「こ、これは王冠?」

「ああ、人間王ノーマンの王冠だ。吸血鬼ヤダルのダンジョンから発見された」


 イザベラは扇で口元を隠すことも忘れて、驚きの表情を浮かべていた。


「ま、まさか王冠が見つかるとは……」

「私たちもノーマンランド殿から見せられた時には驚いたよ」


 フィレロさんがそう言った。ペチュナーグ公爵も頷いている。


「これは天命だと、我々は思っている」

「天命ですか?」

「ああ、今回の戦争で、領主たちが一つにまとまればドラゴンキングダムとも戦えるということが証明できた。これまで奪われ続けてきた領地を、はじめて取り返すことができたわけだ」

「ええ、歴史的快挙ですわ」

「我々には統治者、つまり新しい王が必要なんだ」

「王……」


 イザベラはすっと目を細めた。何かを考えている仕草だ。


「イザベラはどう思う?」


 俺が聞くと、イザベラは言葉を選ぶよう、慎重に、だけどはっきりと答えた。


「私が思うに、王冠は今起こっている歴史的快挙を成した領主にこそ贈られるべきだと考えますわ」

「確かに」


 モーン伯爵がうなずいた。


「であれば、強力な砲兵を作り上げ、産業を活発にし、河賊を打ち破った、ダンフォース・マク・ノーマンランド公爵閣下こそ相応しいのではないでしょうか?」


 イザベラはそうはっきりと言った。


「父君であるレオン大公はではなくかね? あるいは君の兄弟たちは?」


 ペチュナーグ公爵がたずねる。イザベラは、迷いなく首を横に振った。


「父上のことは素晴らしい領主だと尊敬しています。また大公であることも王冠を戴くのに相応しいとも思いますわ。ですが、父上だけでは今回の勝利はありえませんでした。それはレオン大公領で暮らしてきた私だからこそ、理解していますわ。父上は偉大な大公ではありますが、大公を超えるほどの功績は成していません」

「ふむ……」


 ペチュナーグ公爵は感慨深げに頷いた。


「手厳しいな」


 フィレロさんが苦笑いしている。


「それはここにいる全員がそうでしょう。我々は自分の役割以上のことは何も成し得ていません」


 モーン伯爵がそう言うと、ペチュナーグ公爵も頷く。


「どうでしょう、みなさん。私の言った通りでしょう?」


 最後に俺がそうまとめた。誰も異論はない。


 そしてイザベラを除く全員が、イザベラの前に跪いた。


「な、何事ですの?」

「イザベラ・ドーラ・レオン伯爵。畏れ多くもノーマンランド領を預かる領主として、また各地の領主全員の代表として申し上げる。この王冠、あなたにこそ相応しい。どうか王位についたいただけないだろうか」

「ちょ、ちょ、ちょっと! 何をおっしゃっていますの!」


 イザベラはあたふたと驚いていた。それはそうだろう。だが、俺たちの気持ちは変わらない。ペチュナーグ公爵が言葉を続けた。


「先ほど、あなたは父君の前であるというのに、家のことよりも全体の利益を優先させた。あなたこそ王に相応しい」

「そ、それならダンだって!」

「俺は……あのとき君を優先させた。勝てる勝算があったとはいえ、自領も、人間の未来さえも優先させて、君を助けることを選んだ」

「で、でも……」

「イザベラ、君が王位についてくれるのなら、ノーマンランド公爵位は君に譲る。今回の戦争の主戦力となったノーマンランドの軍事力があれば、各領主も素直に従うはずだ」

「そ、それでは……」


 ノーマンランド公爵領は、アナトリア子爵領を内包している。つまり。


「君の勝ちだ、イザベラ。俺は君の直臣となる」


 俺は、イザベラに向けてそう言った。俺とイザベラのライバル関係は、こうして終わろうとしていた。


 その夜、俺はイザベラの部屋で月を眺めていた。隣にはイザベラが椅子に座って、じっと考え込んでいる。


「悪かったな、こんなこと言い出して」

「……本当ですわ、反省してくださいませ」


 ふぅとイザベラはため息を吐いた。イザベラが少し考えさせて欲しいといったことで、今日の会合はお開きとなっていた。


「だけどベラ、君が王に相応しいというのは本心だ。君が言った通り、この戦争で最も活躍した……各領主をまとめあげた君こそが、王冠を戴くべきだと、俺は思っている」

「でも、そのための下準備はすべてダンがやってきたことですわ」

「君が言ったんじゃないか。貴族の役割は、よきにはからえって言うことだって」


 イザベラが俺のやり方を批判した時の言葉だ。


「下準備は俺たち領主がやる。それをしっかりと利用するのが王の役割だ」

「そうでしたわね」


 イザベラは立ち上がると、俺の近くへとやってきた。


「……月が綺麗ですわね」

「すこし雲があるけれどね」

「いえ、それでも綺麗ですわ」


 俺たちは二人で、長い時間ずっと月を眺めていた。


「分かりましたダン……どこまでやれるか分かりませんが、私が王冠を戴きましょう」

「ありがとうベラ。君は人間王、魔人王をも凌ぐ、偉大な帝王になるよ。俺がそう言ったら絶対だ」

「ふふ……ダンがそう言うのなら絶対なのでしょうね」


 夜は更けていった。

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