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4-37

 貴族学校の図書室は以前、イザベラとの勉強でも訪れた。その時は個室で勉強したのだが、今は小太りの金貸し商人が隣にいる。


「失敬な、これでも若い頃はモテたんですよ」

「マジで?」


 俺は金貸し商人の武勇伝を聞き流しながら、めぼしい資料を探していた。


「あら、アナトリアさん」


 そんな時、よく授業を受けられない俺のために、補習をしてくれたルーブウエストサイド先生が俺たちに声をかけてきた。


「何か調べ物ですか?」


 ルーブ先生はそう俺にたずねた。人間王の王冠が見つかっただなんて、まだ公にはしたくないな。


「ええ、人間王ノーマンの歴史を調べてるんです」

「なるほど、それでしたらこちらの本棚がいいでしょう」


 ルーブ先生は親切に、俺たちを人間王の時代の資料がある本棚へと案内してくれた。


「ありがとうございます先生」

「いえ、お役に立てて光栄です」


 そう言って、ルーブ先生は目を細めた。


「あなたのような勉強熱心な生徒がもうすぐ卒業してしまうと教師として、寂しく思います」


 俺は貴族のクラスは取らず、ただ貴族に必要な知識だけ学んでいたのでカリキュラムが短いのだ。春の収穫の前に卒業となる。魔法使い学校も同じ時期に卒業を迎える。俺の学生時代はもうすぐ終わる。

 俺より先に入学し、数年間学んでいたイザベラも同じ時期に卒業だ。怠けていた学生たちはもう一年は学校にいることになるので全員卒業というわけではないが。


「どうですか? 我々は閣下のお役に立てましたか?」

「ええ、この学校に通わなければ、俺は今ほど多くのものを手に入れてなかったはずです」

「そう言ってもらえると嬉しいです閣下。私も、閣下のような素晴らしい貴族の助力ができたこと生涯の誇りとします」


 そう言ったルーブ先生の表情は、とても優しかった。


 俺たちは資料を広げて調べてみたのだが、これだ! という記述は見つからない。


「こっちはエメラルドの記述が抜けていますね」

「こっちは大きさが違う」


 後世の歴史家が書いたものも混ざっており、正しいものも想像が混じったものもあった。唯一間違いないのは、人間王が書類に使っていた印章の形くらいだろう。


「上手くいかんもんですなぁ」


 金貸し商人はため息を付いた。限りなく人間王の王冠に近いが、それだと断定できる情報がない。


「あ、そうだ」

「おや? 何か思いつきましたか?」


 俺には魔人王時代から生きている仲間がいるじゃないか。



「それで私のところにきたのですか」


 財務関係の帳簿を書いていたカミラのところに、俺達はやってきた。仕事中だというのに、カミラは手早くコーヒーを準備してテーブルに置いた。


「ノーマン王の王冠ですか、そういえばドゥラス様が宝物庫に放り込んでいましたね」


 ヤダル打倒以来、カミラはドゥラスのことをアホ主人と呼ばなくなっていた。


「宝物庫に? 被ってはいなかったのか?」

「はい、頭が痒くなるとおっしゃってましたね。帝王の証は自分の剣を使っていました」

「ふむふむ、ちなみにその剣は?」

「第二の魔人王が誕生することを恐れた勇者が、溶かして海に捨ててしまいました」

「勿体無い」

「それで、これはその王冠なんですか?」


 金貸し商人が王冠を指さしていった。カミラは思い出すように眉をハの字に曲げてじっと王冠を見つめた。


「うん、思い出した」


 そう言うと、カミラは腰に指していたナイフを抜くと、王冠の額にあるルビーにナイフをあてる。


「よっと」


 カコンと音がして、ルビーが王冠から外れる。こぼれ落ちたルビーがテーブルに落ちて、音を立てた。


「あ、やっぱりこれ本物ですね」

「そ、そうなのか?」

「ほらここ」


 カミラがルビーがあったくぼみを俺たちに見せた。

 そこには、人間王ノーマンの印章が刻まれていた。資料室で見た印章と全く同じものだった。


「お、おおお!?」


 金貸し商人は驚きの声を上げ、恭しく王冠に頭を垂れた。

 だが俺は、この王冠をどう使うか、すでにそれを考え始めていた。


 翌日、俺はフィレロ・ドーラ・レオン大公にアナトリアに来て欲しいと伝令を出したのだった。

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