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俺が領主になって一年と数ヶ月。俺は必死に初めての領地運営を頑張ってきた。ようやく周囲は落ち着き、最初にあった借金もずいぶん返した。
長い戦いだった。だが農業、工業技術の上昇、交易路の整備、各領地のと関係改善、その成果が今ここに現れたのだ。
「はい、借金は一年前の三十倍となっております」
「ほげえええええ!」
これだけ使わなければ勝てなかった。イザベラの選択は何も間違ってはいない。だが。
「ぐああああああ!」
「もう、モーンさんお下品ですわよ」
何度見返しても突き出された契約書には、桁が増えた莫大な借金が残っていた。
あうあう。
「はい、クッキー」
はむはむ。
「紅茶ですわ」
ごくごく。
現実逃避しても借金は消えない。
「まあ必要経費だったしな……仕方ない」
「そうそう仕方ありませんわ」
「ぐぬぬ」
その時、俺は過去最大級のダメージを受けていた。イザベラ恐るべし。
「それに」
「最悪踏み倒してしまえばいいですか?」
俺が先にそう言うと、イザベラはニコリと笑った。
「私の前でそれを言いますか」
金貸し商人は苦笑して、そんな俺達を眺めていた。
金貸し商人には、今後のことは明日話そうと別れ、俺とイザベラは久しぶりに二人で政務に取り組んでいた。
帆船を六隻失い。各領主の兵たちもかなりの数の人員を失った。だがそれ以上にドラゴンキングダムは大きな傷を負った。十年計画だったはずの大陸からドラゴンキングダムの勢力を叩き出す計画が、あと数年以内に達成できそうだ。
「それにしても」
「どうしました?」
「あのとき、モーンさん、私の事ベラって呼びましたよね?」
「え?」
「ほら、私を助けにきた時ですわよ」
そういえば、その前にレオン大公からイザベラのことをベラって呼べとか言われて、ついにそう言っちゃったのだ。
「あ、ああ、あれは、そのフィレロさんがそう呼んだ方が親しみがあるって」
「本人の了解も無しにですの?」
「う……」
じっと見つめられて、俺は視線を外した。そんな俺の様子を見て、イザベラはおほほと笑った。
「仕方ありませんわ、特別に、私のことをベラと呼んで構いませんわよ……ダン」
「それは光栄の至り……ベラ」
言葉とは裏腹に、俺達は貴族らしくない自然な顔で笑っていた。
翌日、俺と金貸し商人の代表は、ヤダルのダンジョンから引き上げた財宝の検分を行っていた。
「私も少々無理をしたもので」
金貸し商人はそういって苦笑する。限界以上に金を貸してくれたアナトリアの金貸し商人達は、現在、明日のパンすらままならないほど困窮しているそうだ。とはいえアナトリアにもすぐに支払えるお金はない。
そこで、ヤダルの財宝を換金し、それを返済にあてることになったのだ。
「とはいえなぁ」
三賢者達に協力の報酬として一番高価な魔法の道具のいくつかがすでに抜き取られていた。残った財宝はどれほどの価値を持つか。
「これとこれをいただきましょうか」
「サイ革鎧と炎の剣か」
どちらも庶民が三年は食っていけるほど高価な道具だが……俺達は領主と金貸しなのだ。十分とはいえない。ちなみにサイ革鎧は、ただのサイ革の鎧じゃなくて、サイのような突進パワーを与えてくれる魔法の鎧だ。
「ここらへんの宝石はどうなんだ?」
「宝石の需要は今落ち込んでいまして。今換金するのは得策とはいえません」
「相場の安定している魔法道具がベストか」
そんな話をしながら財宝を見ていると、俺は一つの財宝に気がついた。
「これは、あのときヤダルがもてあそんでいた」
それは王冠だった。今の時代では作られない完全な円形の王冠で、錆びない黄金で作られ、立派なルビー、サファイア、エメラルドがあしらわれている。
「魅力上昇の魔法もかけられているな」
ふむ、なかなかの逸品だな。
「ほう、王冠ですか」
金貸し商人も興味がわいたようで、近寄ってきた。
「見たところ魔人王時代以前のものようですね。人間王の時代のものでしょう」
「完全な円形というと、貴族の戴冠式で使われるものではない、本来の意味での王冠か」
「そうそう、人間王ノーマンの王冠が代表的ですな」
「どうも、この王冠、人間の頭部用に作られたように見えるぞ」
「ははは、そうなれば歴史上この形の王冠は一つしかありませんな」
俺たちは笑うのをやめると、お互いに顔を見合わせた。
「ヤダルは魔人王ドゥラスを討伐したメンバーの一人なのですよね?」
「そして魔人王は人間王亡き後混乱していた帝国を征服した男だ」
まさか……。
「ちょっと貴族学校の図書室行ってくる」
「わ、私もお伴しますよ!」
俺達は王冠を袋に詰めると、マジで? マジで? と繰り返しながら宝物庫を後にしたのだった。




