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4-35

 俺はヤダルと対決することを選んだ。つまり、レオン大公領への援軍、そしてアナトリアへ向かい来る竜人たちへの防衛に、俺は参加していないことになる。数日でかき集めた軍勢を率いて、俺のいない軍隊はそれぞれの戦場に向かった。今から追いかけても戦場には間に合わない。


 竜人の操る海戦用の三段ガレー船は、蜥蜴人の作る船より粗雑だが巨大だ。中には数百人の竜人がひしめいており、二十隻のガレー船には五千人以上竜人が乗っていることになる。

 優れた農耕技術と従順な性質により常備軍を維持できる竜人と、統率する王すらいない人間との差だ。


「ふん、出てきたか」


 アナトリアの帆船十隻。大陸の河は日本の河とは比べ物にならないほど広いとはいえ、竜人の三段ガレー船に比べたら、河での航行用に作られた帆船たちはまるで小人のようだ。

 だが、その巨体には遠隔武器は船首と船尾のバリスタしか備えられていない。戦闘方法は突撃しての白兵戦。砲撃戦の経験は、竜人たちにも無かった。

 そして竜人たちは蜥蜴人ほどすぐれた水夫ではないのだ。


「落ち着け! 落ち着くんだ!」


 竜人の指揮官が吠えるが、炸薬弾の威力に浮足立った竜人の水夫たちは混乱し、オールの動きが鈍くなる。巨大ガレー船を動かすのに必要なのは一糸乱れぬオールの操作。これまでは接敵までは安全な状況だったため問題は起こらなかったのだが、初めての砲撃戦は、竜人たちの士気に効果的なダメージを与えていた。


「くそ、これが蜥蜴人を破った人間の新型船か!」


 ジャイアンツリヴァー卿バンカニルの指揮のもとに撃ちだされ、雨のように降り注ぐ砲弾に、ガレー船は混乱状態に陥っていた。


「だが、ここに船を出したということはレオンは見捨てたのだな。それなら我らの任務は達成しているぞ」


 劣勢の指揮官は、そう言って笑ったのだった。


 レオン大公領を進撃する竜人たちは、防衛線を打ち破り内地へと進行していた。もうすぐ最大の拠点であるレオン大公直轄領へと辿り着く。境界にそびえる巨大な砦は、この土地の守りの要であり、ここを失えばレオン大公領の半分以上が竜人たちのものへと変わってしまうだろう。

 竜人たちは連れてきた飛竜ワイバーンへと跨る。人の作った城壁などドラゴンの眷属たる彼らにとっては問題にならない。


 今日までは。


「ば、バカな!」


 飛竜が次々に落とされていく。空中の相手に有効な一撃を与えられるのは、これまで腕の立つ戦士や魔法使いだけであった。弱兵たちはあてにならない弓矢を大量に無駄撃ちすることで、なんとか追い払うことができた、そういう世界だった。


「おーほっほっほっ!」


 砦の中央、指揮官たちの座る天幕で、金髪ロールのお嬢様が派手な扇を口元に当てて笑っていた。

 砲弾にはキャニスター弾と呼ばれる特殊な砲弾が使われている。これは薄い金属でできたケースの中にぶどう弾を詰めたもので、空気抵抗によってケースが速度を落とすと、中の砲弾がケースを破って外へ飛び出すという砲弾だ。

 これにより砲弾が発射されてから時間差でぶどう弾がばら撒かれることになる。空を飛び交う飛竜にとっては致命的な攻撃だった。


「モーン式砲術の前には飛竜など恐れるに足りませんわ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺はアナトリア発つときにイザベラに全権を委任した。俺が与えた策は百万迷宮の大砲をレオンに移動させれば、防衛できるかもしれないという程度だ。

 イザベラはそれを最大限に活かした。アナトリアの大砲は帆船に乗せアナトリア防衛にあてる。

 ではレオン領はどうするか? もちろん次善の策として、イザベラは各地に戦争の準備をするように伝令を出した。だが電話なんて手段の無いこのファンタジー世界で、馬に乗った伝令を飛ばし、軍備を整えることは数週間で終わらない。

 イザベラはすぐに動ける兵を連れて出陣した。その数三百。水夫にただでさえ少ない兵を取られ、アナトリア自慢の大砲すらない。

 だがイザベラは道中の領主、集落から兵を集めた。他領の領民なんて、部外者が集めて良いものではない。ノーマンランド公爵の爵位はまだ浸透するには時間が足りない。

 それを可能にしたのは、ただイザベラの交渉の手腕と、そしてアナトリアの金貸しから引き出した多額の貨幣だった。


「貨幣はあらゆる取引で通用する、そうですわよねモーンさん」


 行き先で食料、武具、そして兵を集めつつ、イザベラは河へと向う。そこで船を買い取り、さらに移動しながら各村々で次々に船を増やしていった。

 ばら撒いた金貨と銀貨は途方も無い量になる、これだけの借金ができたのは河賊を倒した実績があったからだが……それを使い切る思いっきりの良さは俺には無いものだ。

 大小様々な船からなるイザベラの船団は、レオン領に運ばれた百万迷宮の大砲を受け取り、大軍となって砦へと入城したのだった。


 ヤダルは見誤った。英雄は俺だけではない。もう一人いたのだ。


「イザベラ・ドーラ・レオン閣下!」


 人々はイザベラの名を讃えた。

 三日間続いた戦いの後、ついに竜人たちは突撃を諦め包囲戦へと移行する。

 それは悪手だ、アナトリアの水軍は大陸内の彼らの港を封鎖しようとしていた。そしてアナトリアで集結しつつある領主連合は、ゆっくりとだが確実にレオンへとやってくるのだ。


 後の竜人の歴史家は、電撃作戦であるはずの竜人の侵攻を漏らした吸血鬼ヤダルこそが、この歴史的大敗の原因である断定している。

 ヤダルの名は不名誉な名として知られ、ドラゴンキングダムでは二度とその名を尊ぶものはいない。

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