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4-33

 カミラは椅子に深く座っている。精神探査ディテクトマインドの魔法は、いわゆる催眠術に近い。魔法をかけられる対象はトランス状態となり、自分の思考を口にしてしまうのだ。

 その魔法を使って、ヤダルのつながりによってカミラの無意識に送り込まれているヤダルの思考を読み取る。ヤダルの見ているもの、感じているものをカミラから引き出すのだ。


「何が見えるカミラ?」


 俺がカミラの頭に手を触れながら質問をする。土気色の顔にうつろな表情を浮かべて、カミラはかすかな声で答えた。


「柔らかな椅子、獣の臭い、規則的な音、振動……ここは馬車……の中です」


 馬車? アナトリアか周辺の集落に馬車を用意しておいたのか。日光が嫌いな吸血鬼に馬での移動は厳しいのかもしれない。


「外の景色は見えるか?」

「草原……が見えます」

「太陽はどちらにある?」

「見えません……窓のある両側に太陽はありません」


 今の時間だと太陽は東南か。


「何か目印になるようなものはあるか」

「…………」

「カミラ?」

「う、うぅ……」

「これ以上は負担が大きいか」


 俺は魔法を解除した、カミラはがっくりと肩を落として気絶している。


「ありがとうカミラ」


 俺はカミラはベッドに運んだあと、地図を広げた。


 両側にある窓から見えなかったということは進行方向は西から南西にかけてかその反対。太陽は背後か全面にあったと考えられる。この道で草原を通る街道は……。


「西か」


 ヤダルは西へと向かっている。



「で、アナトリアはどうするんです?」


 意識を取り戻したカミラに聞かれる。


「カミラのお陰で最悪の状況は脱した。あとは……」


 ヤダルの方は俺とシシド、クロウ、そしてカミラの四人で対応する。問題は船と大砲だ。アナトリア防衛とレオンへの援軍の二方面作戦を行うには数が足りない。

 それに俺が直接指揮を執れない大勝負というのも初めてだ。勝てるのか?


 だが、それでも俺はアナトリアを出発した。


 西へ追いかける俺たちだったが、ヤダルの馬車は魔法の力がかけられているのか馬と同じぐらい速かった。毎朝カミラのつながりを利用して、状況を確認するのだが、一向に追いつかない。


「大丈夫なのか?」


 シシドが不安そうに言った。


「多分大丈夫だ、この進路だと目的地はおそらく」


 指さした先にあるのは俺もよく知っている場所。


「百万迷宮」


 アンダーランドからやってきた吸血鬼は、アンダーランドへ帰ろうとしているのだ。


「だが、すでにアンダーランドのダンジョン周辺は三賢者のダンジョンが制圧している」


 アンダーランドからやってくる奴隷狩りもこのルートは諦め、今はもう別のルートへと移動していた。


「そうだ、ここまで来たんだ」


 アンダーランドからの略奪も途絶える所まで来たのだ、河族が消え人間達は団結しようとしていた。これからだったのだ。


「……いくぞ」


 俺たちもヤダルを追い、百万迷宮を目指して進んでいった。


 ヤダルのダンジョンは比較的簡単に見つかった。もともと俺をおびき寄せるために、領地中を探したら見つかる程度の情報は残しながら百万迷宮地帯を進んだようだ。馬車を使ったのもそのためかもしれない。

 俺達は暗い口を開けるダンジョンへと入った。


 ダンジョン内部の攻略は問題ない。襲いかかるクリーチャーも、危険な罠も、俺を食い止めるにはまるで足りない。ダンジョン内での野営二日。三日目には最奥に到達するだろう。


そして俺たちは最奥にたどり着く。ヤダルが竜人の開戦を告げてから二週間と一日後のことだった。

 賽は投げられた。アナトリアと人間世界の命運を決めるのは誰なのか。


「予想よりずっと早い。驚いたよ若き英雄よ」

「イザベラの魂のため、カミラの復讐のため、お前の呪われた生命に終わりを与えに来た」


 古ぼけた王座に座り、大きな宝石のついた王冠を手で弄んでいたヤダルは、ニヤリと笑うと立ち上がり、神の巨人の青銅ティターンズブロンズと呼ばれる希少金属でできた剣を抜いた。剣の形をしているが魔法の杖でもあるのだろう、効果は見たところ魔法威力上昇だ。

 ヤダルは短期決戦型の魔法使いか。勝負は長引かない。

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