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「さすがにそれは道理に反するだろ」


 上クマ公爵がつぶやいた。


「公爵領を設立できるのは王のみ。我らは王から権利の一部を預かっている身だ。預かっている権利以上のことはできないのだよ」


 ペチュナーグ公爵もそう言って首を振る。


「言うに事欠いて、公爵位の創設などとは、失礼ながらアナトリア殿は恥知らずでありますな」


 フレグ伯爵が皮肉めいた笑みを浮かべて言った。


「アナトリア殿、今の話は私も初耳……」


 ウィルスン侯爵が焦ったように言う、ここからは俺が話すとしよう。


「テーブルの上の地図を見てください」

「何を……」

「ここには何がありますか?」


 俺は地図の一角を指さす。


「そこにはヒドラの巣があるな」

「ではここは?」

「オーク部族連合の土地だ」

「ではこちら」

「エルフの領域だな」

「ならばこちらは」

「虚無の王ダンマーの支配域だ。いいかげんにしてくれ、何が言いたいのだ」


 しびれを切らしたようにウィルスン侯爵は言った。


「すべて間違いですよ閣下、ヒドラの巣は下クマ伯爵領、オーク部族連合の地はボルテ子爵領、エルフの領域はボレアス伯爵領、ダンマーの地はフレグ公爵領のものです」

「だがそれは……」

「そう、それはすべて我々が失った土地です。これらの爵位は現在空位となっています」

「そんなことはここにいる皆が知っている。何が言いたいのかはっきりしてくれ」

「我々は新しい時代を迎えるべきなのです。いつまでも過去の栄光にすがりついていても、我々は我々の土地を少しづつ怪物どもによって奪われていきます」

「そうならぬよう、余は戦っておる。アナトリア殿が荒野の巨人と戦ったのもそのためであろう」

「上クマ公爵閣下、北東の海に浮かぶアリタ諸島は本来上クマ領の一部だったはずです」

「……いかにも、いまは魚ヅラどもに預けておる」

「もし我がアナトリアの水軍を持って閣下の兵を島々に運ぶことができれば、魚人から領地を取り戻すことができますか?」

「無論だとも、島にさえたどり着けるのなら魚人など恐れるに足りん」

「我々は協力さえすれば土地を取り返すことができるのです」

「そのために公爵位が必要なのだと?」

「団結するためにはリーダーが必要なのです、本来この地にも公爵位はあって当然のもの、帝国時代、ここは帝王の直轄領だったため公爵位が存在しなかっただけではありませんか」

「言葉を慎めモーンのせがれ。王より賜りし王冠の重みを忘れたか」

「フレグ伯閣下、はっきりと申し上げましょう。帝国は滅んだのです。我々は次の時代へ進まねばなりません」

「き、貴様!」

「我々は賛成ですな」


 これまでじっと黙っていた河川諸国の小王たちが初めて発言した。


「アナトリアはそれだけの力を見せた。公爵の位を得るのに相応しいではありませんか」

「成り上がりものどもが、誰が貴様らの発言を許した」

「フレグ伯。目の前の円卓が見えないのですか? 会合の間、我らは同等。我らも閣下と同様、一領主として参加しております」


 会合は紛糾した。それはそうだろう。こんなことは前例の無いことだ。


「サルマン殿、レッドランド殿、仮にアナトリアと貴殿らが戦争するとしたら勝ち目はいかに?」


 上クマ公爵が尋ねる。アナトリア近隣の二人の貴族はじっと考え込んでから答えた。


「我らだけでなく、ボーダーランド男爵まで加えたとしても勝ち目はありますまい。単独で荒野の巨人と河族を打ち破ったアナトリアの砲兵にはかないませぬ」

「ですよなボーダーランド男爵」

「……ええ、まぁ、そうかもしれませぬな」


 ボーダーランド男爵は言葉を濁した。


「ふむ、するとお二方はアナトリアの封臣になることに異存はないのか?」

「公爵位の創設に賛同するわけではありませんが、仮に創設されたのだとしたら我らはアナトリア殿を主として認めまする」


 二人の子爵の静かな降伏宣言に、ざわりと諸侯たちがざわめいた。

 もちろん、事前に根回ししてある。数ヶ月の間にモーン流砲術学校は、各領地に根付き、親アナトリア派の勢力を増やしているのだ。封権領主でも配下の意向をすべて無視することはできない。

 それに今のアナトリアは、周辺諸侯と一気に戦争しても勝てるだけの力を持っているのも事実だった。


「ふうむ、しかし……」


 有力貴族たちは、最初よりはずいぶんと否定の勢いを和らげた。だがまだ公爵領の設立を認めるには一押し足りないか。

 では、もう一手。


「何を悩む必要があるのかね?」


 扉を勢い良く開け放って現れた、金髪の美しい髪を持ち、貴族の礼服に身を包んだ中年の男がよく響く低い声でそう言った。


「れ、レオン大公!?」


 彼こそが、旧帝国領最大勢力であり、西のドラゴンキングダムを長年抑え続け、そして俺の右腕であるイザベラ・ドーラ・レオンの父親。


 フィレロ・ドーラ・レオンその人だった。


「余は認めよう、公爵領の設立を」

「か、閣下! 何を仰るのです、このような暴挙が許されるはずが……」

「暴挙? 厳密に言えば勝手に爵位を追加している現状も同じようなことではないか」

「う、むむ……」

「それにアナトリア殿から構想を聞かせてもらったよ」

「構想?」

「うむ、アナトリアの水軍を持って海を周り、竜人によって奪われた土地の海域を封鎖する。ドラゴンキングダムの援助を絶ち、竜人どもを殲滅する」

「そ、そんな夢物語」

「あれは夢物語ではなかった。アナトリア殿は実現できる未来として、具体的な数字をもってこの構想を語ってくれたよ。そのためには、莫大な資金と、そしてその莫大な資金を作り出す公爵領という経済力が必要だとね。公爵領が生み出す力については、二公のお二方もよくよくご存知なのではないか?」

「……ええ、それは確かに」


 上クマ公爵はじっと考え込んだ。俺も話を加える。


「いまこそ反撃の時です、バラバラにではなく団結することで、我々は失ってきた土地を取り戻すことができる。そのためには変えるべき点は変えなくてはいけません。上クマ閣下、魚人から領地を守り続けてきたあなたには、権力を集中することの利点をよくご存知のはずです」

「……そうだな、たしかに余が余の大地を守り続けてきてこられたのも、公爵の位とこの位に従う臣下あってこそ。いいだろうアナトリア殿、余も貴様の暴挙に賛同しよう」

「ありがとうございます閣下」

「ふむ、上クマ殿もそう仰るか……モーン殿はどうかね?」


 ペチュナーグ公爵が値踏みするような目で父上を見た。


「アナトリア殿に賛同致します」

「モーン! 貴様!」

「黙れフレグ。もし私にフレグ公爵位があったなら、虚無の王ダンマーなど叩きだしているところだ。貴様のようにやつの言いなりになって領民を差し出したりはしない」

「な、な……」


 フレグ伯爵があの南方の海からやってきた犬の頭に蜥蜴の身体、そして捻くれたヤギの脚を持つ混沌の落とし子スポーンオブケイオスに領民を生贄として捧げていることは、公然の秘密だった。


「我が息子である前に、アナトリア子爵であるダンフォースは、ダンマーを滅ぼす構想を私に教えてくれました。アナトリアの技術を各地で共有し、レベルの差をその技術で補うのです」

「ふむ、これで有力貴族のうち反対しているのは私だけか」


 ペチュナーグ公爵はつぶやいた。


「公爵領になれば、商人の交易ルートに関して、このアナトリア、少し考えがあります」

「何だね?」

「各領地に市場を設置するのではなく、国際市場として一都市に大規模な市場を設立します。遠方からの商人はこの国際市場を目指すだけでよく、各地の商人は国際市場と自分の拠点とを交易するだけで良くなるのです」

「ふむ、それを実現するためにはこの地の領すべてを把握できる権限を持つ公爵位が必要だというわけか。しかし商人の移動が効率化されては通行税による収入が少なくなるのでは?」

「通行税による収入よりも、経済の活発化と物資の潤沢な供給による収益の方が大きくなると試算しております」

「アナトリア殿は算学にも長けているのか」


 大砲の扱いには弾道計算が必要なのだ。数学知識だって勉強してある。


「ふむ、非の打ち所は無いな。私も認めよう」

「ありがとうございます閣下」


 有力貴族の四人が賛同したことで、もはや各領主もこの提案に異を唱えるものはいなくなった。一人、また一人と賛同の声を上げ、最終的にはフレグ伯すらも悔しそうな表情をしながら賛同の手を上げた。

 こうして俺は、ダンフォース・マク・モーン・オブ・アナトリアに加えて、ダンフォース・マク・ノーマンランドという名が増えたのだ。

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