表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/108

4-28

「ここからは私が説明したしますわ」

「レオン女伯爵」

「今は、アナトリア政治顧問のイザベラですわ」


 レオンが立ち上がり、食器を片付けるようにメイドたちに指示を出す。食器の代わりにテーブルの上に広げられたのは近隣の地図だ。


「ふむ、各領地が記されているな」


 モーン伯爵が興味深げに地図を覗きこんだ。そこにはどの土地がどの領に属するのが、大雑把に記されている。


「さて、地図を見ればわかると思いますが、河賊が拠点にしていた、この土地……蜥蜴の荒野リザードムーアとでも呼びましょうか。ここはどの領地にも属していません」

「それはそうだ、この地はかつては人の入り込めぬ土地であったし、その後は河賊によって支配されてきたのだからな」


 上クマ公爵が言った。


「つまるところ、この土地をアナトリアのモノとしたいというとか?」

「それもありますわね」


 レオンは上品に笑って答えた。


「ちょっと待て、それはつまり河賊に代わって、アナトリアが交易路を牛耳るということではないか」


 フレグ伯爵が怒鳴った。モーン伯爵とフレグ伯爵は領地問題で敵対しており、モーン伯爵の息子である俺がこの交易路を得るのは好ましくないと考えているのだろう。


「そうは言うがなフレグ殿、河賊を討ち取ったのはアナトリアの功ではないか。この領地に新たな爵位を創設することは道理にかなっておる」

「上クマ閣下、土地をアナトリアのものとすることへの異存は、このフレグにもありません。しかし、交易路のこととなると話は別です。これではアナトリアが新しい盗人となったようなものではありませんか!」

「交易路で通行税を取るのは、どの領主もやっていることではありませんか。それに河賊のような膨大な通行税を徴収するつもりもありませんわ。他の交易路と同様の水準にいたします」

「私にも問題はないように思えるよフレグ殿」


 ペチュナーグ公爵もそれに続けた。


「くっ……」


 フレグ伯爵は苦虫を噛み潰したような顔で黙る。


「そして、今後はちゃんと税金さえ支払っていただければ、どの商人でも交易路を使用できることにしますわ」

「ま、待ってくれ!」


 今度はボーダーランド男爵が叫んだ。河川交易路を独占していた商人たちの拠点は、ボーダーランド領にある。これらが分散することは、ボーダーランド男爵の収入が減ることを意味していた。


「交易とは複雑怪奇なもの、経験豊富な商人たちに任せてこそうまくいくのではないか? 愚かな素人商人が流入してくるとなると、どのような混乱が起こるか分かったものではない、ここは……」


 パチンと扇が音を立てた。レオンが鋭い視線をボーダーランド男爵に向けている。男爵はびくりと肩を震わせ、口をつぐんだ。


「河賊が壊滅した今、従来の交易のルールは通用しなくなります。であれば、これまで河川交易を独占してきた商人も、これから新しく参入する商人も条件は同じでありましょう」


 堂々の言い放ったレオンの言葉に、ボーダーランド男爵はそれ以上何も言えなかった。


「アナトリアはその水軍力を使って、すじを通さずに河賊になることもできた。そのような手段を取らずに爵位を創設して公正な形で支配しようというのだから、我らも頷くしかありますまい」


 最後に、モーン伯爵がそう結論づけた。


「それで、創設する爵位はどうするのかね? アナトリアは子爵位だから、男爵以下というのが通例だが、リザードムーアは男爵領にしては少々広く、そして価値が高過ぎるな。ここをアナトリアの封土とするのには違和感を感じる」


 ペチュナーグ公爵が言う。フレグ伯爵はそうだそうだと追従した。


「そのためのこの会合なのだろ? 余やペチュナーグ公爵の名を使って、リザードムーア子爵領を創設しようではないか。これでアナトリアとリザードムーアは対等、今はアナトリア殿が二つの称号を保有することになるが。それぞれの称号の力そのものが強くなりすぎることはあるまい」


 ヨーロッパと同じように、この世界の爵位は土地の所有権の正当性を表すものである。

 アナトリアとリザードムーア、どちらかがどちらかに属するとなると、爵位の価値が高くなりすぎてしまうため、それぞれの称号を対等という形にしようと上クマ公爵は提案したのだ。


「ええ異存はありませんわ」


 レオンはニコリと笑う。


「いやはやお若いのに大したものだ、さすがレオン大公の愛娘」


 ペチュナーグ公爵は上機嫌に言った。フレグ伯爵とボーダーランド男爵は上品に笑うレオンから目を背けている。


「これで今日の話し合いは終わりかな? あとは酒でも酌み交わしながら、交友を深めるとしようじゃないか。聡明なアナトリア殿やレオン女伯爵殿とは、ぜひ語らいたいものだな」

「しかし聞きしに勝る美貌に才知。このウィルスン、感服致しましたよ。レオン大公がいらっしゃればイザベラ様と我が愚息の縁談を持ちかけるところです」

「やめておけやめておけ、あのアナトリア殿を敵に回すおつもりか?」

「それは怖い」


 一転、室内にはなごやかな雰囲気が満ちようとしていた。だが。


「みなさまもうしばらくお待ちを。創設したい称号はもう一つありますの」


 レオンの言葉に、諸侯たちはみな話すのを止め、部屋はしぃんと静まり返った。


「創設したい称号はこの領地の爵位ですわ」


 レオンはテーブルに広げた地図に、羽ペンでぐるりと大きな円を描いた。


「アナトリア、ルブリン、ボーダーランド、北の荒野、西の百万迷宮、リザードムーア、サルマン……」


 ペチュナーグ公爵は円の中に含まれる領地を数える。これだけの領地を封土とする称号は、もはや伯爵位でも収まらない。


「アナトリアはノーマンランド公爵領を創設することを提案いたしますわ」


 レオンの言葉に、諸侯たちはみな、押し黙ったまま地図を睨みつけたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ