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4-21

 ここまでは順調、鉱山村と百万迷宮で産出される石材の交易集落の二点との交易は、領内の商人にとって美味しい交易路となる。


「免税や補助についてはカミラとウルトさんで詰めてくれ。俺は水軍を調達してくる」

「それは構いませんが、水軍ですか? どこにそんな勢力が」

「一つアテがあるんだ」

「モーン君がそういうのなら本当にあるのであろうね。私には見当もつかないが」


 カミラとウルトに調整は任せて、俺は北へと向かう準備を始めた。



「ここが北の荒野ですか、来るのは初めてですわ」


 俺とレオンは護衛の兵士たちを伴って、開拓中である北の荒野を馬に乗って歩いている。案内人のオークは毒を持たない大蛇ジャイアントボアに器用にまたがり、先頭に立って荒野を進んでいった。


 荒野というと砂漠のような場所を想像するかもしれないが、この荒野は湿原だ。水はけの悪い土地で、草木がまともに育たない。細く背の低い植物だけが泥濘ぬかるむ大地に頼りない根を張っていた。


「こんな不毛の大地で巨人のような巨大な生物が暮らしていけているというのが不思議ですね」


 アナトリアから連れてきた軍馬は、ときおり蹄に付いた泥をうるさそうに払い落とし、不快な地面にブルルと文句を言っていた。


「こんなところを開拓して、何かの足しになるのです? 作物なんて育たないように見えますけど」

「まあ一番の理由は巨人の勢力が再興しないように支配下に置きたかったというのが理由ですが」


 俺は服についた泥を指ですくった。


「一見不毛の大地でも、結構役に立つんですよ」


 俺の言葉にレオンも同じように指で泥をすくってみたが、分からないというように首を振っていた。

 荒野の開拓拠点となっているニュールヴリンにたどり着いたのは夕方を少し過ぎた時間だった。


「明るいですわね」


 ニュールヴリンの姿をみたレオンは意外そうにそう言った。

 この場合の明るいとは雰囲気のことではない。文字通りの意味、物理的に明るいということだ。

 どの家も明かりが灯っている。たかが明かりとい思うかもしれないが、電灯どころかガス灯すらないこの世界の照明は、すべて燃料を燃やすランタンや松明だ。


「こんな木々もまばらで、湿気も多い場所なのにどうやって燃料を?」

「泥炭だよ。ここの泥は燃えるんだ」


 泥炭、石炭の先祖とも言われる燃料で、湿原などで枯れた植物が堆積してできた泥だ。沼地でなければ土に分解されるところだが、沼地では分解しきれず積み重なるため、このような可燃性の泥が生成される。


「レオン領にはありませんわね」

「レオン領は木炭も豊富ですし、沼地も少ないですからね。ドラゴンキングダムから流れてきた開墾技術もありますし。わざわざ沼地に手を出す必要もないのでしょう。この知識はレオン領ではあまり役に立たないかもしれませんね」

「知らないことを知るのに役に立つもなにもありませんわ」


 興味深そうに、レオンは街の灯を見つめていた。



「明日はここに向かうのですわね」


 その日の夜、部屋で俺とレオンと護衛兵の隊長は地図を広げて明日の旅程を確認していた。


「そうです。目的地は川の巨人リヴァージャイアントの集落地です。開拓民とは何回か小競り合いを起こしていますが、先の戦争で戦力の大半を失い、影響範囲を少しずつ失っています」


 川の巨人。巨人との戦争で、尖兵として温泉地マーグマニルを襲った巨人たちだ。名前の通り川の周囲で生活する巨人たちで、荒野の主勢力である荒野の巨人ムーアジャイアントとは従属同盟に近い形の同盟を結んでいた。

 盟主であったその荒野の巨人がアナトリアとの戦争で大敗し、弱体化したことで、部族連合である荒野の勢力は混乱状態にあるのだ。


「川の巨人も蜥蜴人と同じくらい水に長けた種族です。先の戦争では、船を使ってこちらに気が付かれないよう迅速に山を登り、温泉地マーグマニルを強襲するという奇策を取ってきました」


 この地で蜥蜴人にも劣らない技術を持つとしたら、彼らしかいない。俺はそう考えていた。


「ですけど、川の巨人が人間に協力してくれますの?」


 巨人は基本的に人間を、矮人わいじんと呼び、自分たちより劣った種族と見ている。蜥蜴人や竜人と違い、巨人と人間は身体的特徴が似ていることからその思いは他種族より強く、巨人の神話では巨人を泥から作った神を真似て、余った泥を巨人たちが千切ってこねてみたところ生まれたのが人間だとされていた。彼らはそういう信仰を持っていた。


「彼らは名誉を重んじるような種族ではありませんが、自尊心は高く、人間の言いなりになるとは思えませんわね」

「確かに難しい交渉になると思います。だからレオンさんを連れてきたんじゃないですか」

「へ?」

「交渉なら私よりレオンさんの方が得意でしょ? 頼りにしていますよ」

「そ、そういうことなら頑張りますわ。おほほ」


 この川の巨人との交渉にアナトリアの命運がかかっていた。俺たちはこちらの持っている交渉カードを確認し合い、巨人との交渉に向けて、夜遅くまで打ち合わせを続けた。


 それから二日後。昼ごろに俺たちは目的地である川岸へとたどり着いた。警戒している緑の肌をした川の巨人たちが、棍棒や岩を構えて威嚇している。丸太で作られた門の上にはリーダーと思われる、頭に羽飾りをつけた巨人がこちらを見下ろしていた。


「我々は交渉に来た者だ、争いに来たのではない」


 俺はほとんどの種族で通じる共通語ではなく巨人語でそう叫んだ。共通語を話せる巨人も大勢いるだろうが、少しでも安心感を与えるために巨人すべてが理解できる言語を使いたい。

 事前にかけていた言語共有の魔法は、話しかける相手の言語能力を得ることのできる便利な魔法だ。俺たちの脳は川の巨人訛りのある言葉がはっきりと理解できた。


「いいだろう、よく来た矮人どもよ」


 木製のへいと、川から流れ込む堀にによって囲まれた川の巨人の集落の門が、ゆっくりと開かれた。

 ギラギラとした殺意を感じながら、その門をくぐり俺たちは川の巨人の集落へと入っていった。

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