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4-20

 近隣諸侯からの返事は、予想通り頼りないものだった。降伏を進めるものもいれば、俺の領主としての資質を疑うものもいた。ただ、すぐに爵位簒奪のため実力行使にでる諸侯はいないようだ。

 また、俺の配下の貴族達も混乱状態にあり、中には公然と俺を批判するものもいた。反乱が起きていないのは、アナトリアの砲兵の強さを先の戦争で理解しているからだろう。


「さて、どこから手を付けるか」


 ずらりと並んだ問題、どれも深刻だ。


「資源調達から片付けるか」


 俺は準備を終えると、西へと向かった。


 三賢者のダンジョンは順調に拡張を続けている。この数ヶ月で周辺のダンジョンを次々に制圧し、百万迷宮の新参ながら上から数えたほうが早い強大なダンジョンキーパーとして知られるようになっていた。


「これは我様、このような薄汚いところへお越しいただき恐悦至極に存じます!」

「いや、ここ俺が設計したダンジョンだからね? 薄汚いとか言わないでね?」


 俺を出迎えたキーパー(代理補佐)であるポポンガは、ははーっとひれ伏している。


「ポポンガ、今日は別の仕事を持ってきたんだけど」

「はい! 我様のご命令なら給料次第でなんでもやります」

「相変わらずだねゴブリンは」


 ゴブリンという種族はこんなものだ。俺は持参した地図を広げて、ここから半日ほど歩いた場所にある谷を指さした。


「ここに鉄鉱石を含む岩盤があるんだ」

「しかしここの岩盤は少々硬く、採掘には向かないと思いますが」

「知っているのか。博識じゃないか」

「我様に褒められて恐悦至極。うへへ」

「それについては、こちらで対策を用意している。きっとゴブリンたちも気に入るさ」

「ほほぅ? それは楽しみですな」


 アナトリア秘中の秘である新技術を、ついに使う時が来たのだ。


「こちらがゴブリンたちをお借りする費用になります」


 俺は金貨の入った袋を渡した。今はどのみち交易を絶たれているため金貨の使い道は限られている。三賢者に渡しても問題はない。


「君のダンジョンにイーヴィーとグラデビル以外のクリーチャーは基本的に必要ないからね。ゴブリンならいくらでも貸せる」


 エルフのミイラは金貨を受け取ると、宝物庫に持っていくようイーヴィーに指示を出す。


「しかし、君からの要請が石材の交易とゴブリンを貸せの二つだけどは、てっきり我々にも前線にでろとくらいは言うと思っていたのだが」

「もうあなた方はアナトリアの住人ではありませんし、それにそんな要請したって断るでしょ?」

「もちろん、そのために我らはアナトリアを離れたのだから。君の時代を地面の下から見物させてもらうよ」

「時代を支配した蜥蜴人が倒れるところをお見せしましょう」

「期待しているよ。蜥蜴人は水辺では巨人や吸血鬼より手強い相手だ、それをどう攻略するか楽しみだ」


 エルフのミイラは虚ろな顔に笑顔を浮かべて言った。


 鉱山に資材が運ばれ、ゴブリンの生活のための小屋ができあがる。鋼鉄製の斧やつるはしが小屋の中に運び込まれた。


「我様、軽く調べてみましたけどやはりこの岩盤を採掘するのは無理です」


 ポポンガたちは素直に言った。ゴブリンの美徳はできないことや難しいことに対して、素直にそう言うことだろう。他の種族の支配下にあるとその性質のせいで損することも多いのだが。


「安心しろ、これから我の力を見せてやろう」


 俺は、アナトリアの秘密工房から持ってきた木箱を開いた。


 崖の下に小さな穴を空け、そこに木箱の中に入っていた筒状の物体を詰め込む。そして黒色火薬を芯にした導火線を伸ばして、十分に離れたところにセットする。

 ゴブリンたちは俺が指示したところで、これから起こる事を見学している。何度言っても近づいてくるので、最終的にロープを張って、これ以上近づくと我様の呪いで死ぬと言ってやらなければならなかった。


「いくぞ……点火」


 火をつけると、導火線がじじじと燃えていく。俺も急いでゴブリンたちのところまで避難した。


「あんな小さな火が、我様の力ですか?」


 近くにいたゴブリンががっかりしたように、導火線を走る火花を眺めていた。


「まあ見てろ」


 俺は耳をふさいで、これから起きる轟音の対策をした。


 石鹸を作るときに、油からグリセリンが分離される。

 肥料である硫酸カリウムを作るときに、硝石から硝酸が分離される。

 硝酸に硫酸を混ぜ混酸として、その混酸とグリセリンを混ぜることでグリセリンが反応しニトロ化する。

 つまり、ニトログリセリンが生成されるのだ。これをおがくず(木材の屑)に染み込ませ筒状に包めばダイナマイトの完成だ。

 これが、一見攻城兵器と関係のない石鹸を作る知識を俺が得られた理由。攻城兵器製作に関する知識について、俺は人より簡単に知識を吸収でき、応用できる。

 石鹸はダイナマイトを作るための副産物だったのだ。


 激しい轟音と、地面を伝わる振動が俺たちを襲った。


「ひぃぃぃ!?」


 ゴブリンたちは想像もしなかった、大破壊を目にして悲鳴をあげていた。

 崖が崩れ、鉄鉱石を含む岩が次々に地面へと落下していく。あとは落ちた岩をゴブリンたちが砕いて運べばいい。


「気に入ってくれたかな?」

「すげえです我様!」


 炎と破壊を好むゴブリンたちは、ダイナマイトの破壊力を目にして歓声をあげていた。


 ダイナマイトの取り扱いと発破箇所の指示については、アナトリアから連れてきた職人に任せ、俺は早急にこの一角を鉱山村にするべくアナトリアへと戻った。

 新しい商売先に領内の商人も少しは不満が減るだろう。これで物資調達と領内の商人への対策ができたはずだ。


 次は各領主への外交対策だ。


「レオンさん、この方法で行こうと思いますので草案を見てください」


 俺は紙に記した資料を見せる。極秘文書だが、レオンになら見せてもいい。


「ふむふむ……各領主の館の側にモーン流砲術の学校を設立する?」

「ええ、砲術に関しては公開しようと思います」

「……モーンさん、あなた本当にえぐいこと考えますわね」


 途中まで読んだところで意図を理解したレオンはそう言った。


 まだ半年ほどしか訓練できていないとはいえ、すでにこの世界の砲術水準を遥かに上回る知識と用兵術を得た生徒たちが各領主の元へ向かう。

 そこで領主の兵に、これまで攻城専用の武器であった大砲を、より効果的に、そして野戦にも使えるように、幅広い技法を伝えるのだ。

 お代はいらない。領主たちは、俺が砲術を教える代わりに河賊との戦いに加わるように言ってくると警戒したようだが、それも無いと念を押した。

 要求は唯一つ。彼らの教育は終わっていないから、年に数回、研修のためアナトリア領に自由に戻る許可だけだ。

 砲兵たちは俺の書いた砲術の教本と、俺がプレゼントしたハンドキャノン。教習用の大砲数門。そして身の回りの世話をする鋭い目をした従者を引き連れて旅立っていった。


「従者の皆さんの中に盗賊ローグ学校の卒業生の名前があるのですけれど。これ合法的にスパイを配置するようなものじゃないですの。しかも大砲を相手の領内に持ち込むとかえぐいですわ」

「そうとも言う」


 俺の意図に気が付かなかったのか、それとも河賊に逆らって先のない領主と侮ったのか、この申し出を受け入れる領主は少なくなかった。

 これで近隣諸侯の動きも把握できる。


「日本では大筒みたいな攻城兵器を扱うのは忍者の仕事だったんだっけな?」


 攻城兵器使いはスペシャリストなのだ。

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