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西で暴れていたゴブリンの報告がだんだんと途絶えてきた。定期的な討伐の結果だとアナトリア騎士団は思っているようだ。
もちろん、それも要因の一つだ。
だが、最も大きな要因は、彼らの本拠地である百万迷宮で新しく作られたダンジョンに戦力を集中しているからだ。
突如現れた、自分たちのダンジョンに隣接するダンジョン。偵察にやってきたゴブリンたちはすべて壊滅している。本隊が動き出すのは時間の問題だった。
やってきた数十体のゴブリン達も、無数のマジックボンバードと鈍足の罠を前に突破できず壊滅した。
そうなれば他のゴブリンたちも黙ってはいない。
やられた仲間を助けるのか? いいや違う。ゴブリンという種にはそう言った協調という文化はない。
弱体化した仲間がいれば、襲って奴隷にする。それがゴブリンのやりかただ。ゴブリンたちは、こぞってこのダンジョンへやってきて、戦いを始めた。そしてその一部がこちらのダンジョンへと侵攻し、装備や資金をダンジョンへと運んでくれる。虎の子の三賢者やゴーレムを使う必要はない。というより万が一にもゴーレムが倒されるようなことがあったら大損だ。
そういうことがあり、地上で盗賊活動をしていたゴブリン達は西の先にある百万迷宮へと戻っていったのだ。
そろそろ、攻めこむべきだ。
俺はダンジョンに指示を出す。ゴブリンダンジョンをこちらのダンジョンコアの支配下に置くと。
ダンジョンコアの支配領域が広がれば、吸い上げるマナの量が増える。ダンジョンの広さはそのままマナの生産量に直結するのだ。こちらはグラデビルの食料やマジックボンバードの燃料にマナを消費しているので、マナはいくらでも欲しい。
訓練室で十分な訓練を積み、たるんだお腹を勇ましく震わせながら、グラデビル達が勇ましく行進する。大体人が歩く速度の半分くらいの速度で。
これがグラデビルの弱点、とにかく鈍い。これをどうフォローするかがグラデビルを使役するときの鍵となる。
足が遅い、食料が無いとすぐに不機嫌になる、遠くにやると戻ってくるのに時間がかかって怒り出す。つまりは兵站をしっかり確保してやらねばいけないわけだ。
「そういう時は逆に考えるんだ、足が遅いなら敵のダンジョンの中に自分のダンジョンを作ってしまえばいいさって」
第三層、降りたところにいたゴブリンたちを一気に制圧する。部屋を占領後、工房で準備したマジックボンバードを即座に配置し、部屋の中に工房、寝室、食料小屋をダンジョンコアの力で配置する。
「ウキィ!」
ゴブリンが怒りに燃えて襲撃してくるが、頑丈なグラデビルと大量のマジックボンバードによる防衛ラインを突破することはできない。
この時点で、第三層入り口から第一層まで、ゴブリンたちのダンジョンコアとの連絡が途絶え、未支配領域へと変わる。もちろんそこにはイーヴィーを一人派遣し、せっせと自軍の支配領域へと変えていく。ゴブリンたちのダンジョンコアはマナの生産量が激減していった。
「L字状にマジックボンバードは配置しろ、破壊されたらすぐに補充だ」
グラデビルは防衛にも製作にも使える優秀なクリーチャーだ。だけど、その足の遅さや長期戦向きの能力なのに戦っていると腹が減ったと文句を言い出すところか、肥満したビジュアルのせいか、それとも口から毒ガスを吐くときに盛大なゲップをするせいか、実力の割には人気の低いクリーチャーだった。
俺はダンジョンドラゴンやブラックエンジェルより役に立つと思うんだけどね。
こうして相手のダンジョンの中へと段々と侵攻していく。前線が上がれば後方に作った部屋は破壊してマナに戻し、占領した区画に新しい部屋を配置する。
本来なら寝室に他の部屋を隣接させると環境が悪化するのだが、グラデビルは食事以外の欲求が極端に低く、多少の環境悪化は問題にならない。
「ゴブリンって口の中でしゃぶっていると旨みがあって良いズラね」
敵に回したくはない事を言いながら、グラデビルは侵攻する。ダンジョンコアの破壊は時間の問題だった。
こうして、我がダンジョンは、ゴブリンダンジョンを制圧したのだった。
「終わったら部屋とマジックボンバードの再配置だな。グラデビルの半分はダンジョンコアのところに戻して食料と休憩を与えてあげて。残り半分は前線の食料小屋で」
「君は機動戦を好むのかと思っていたら、こういう戦術も執るのだね」
「俺はその状況に合った戦術をとりますよ」
「ところで、このダンジョンキーパーはどうする?」
「おや、まだ生きているので?」
「ああ、全滅する前に降伏してきた」
「ふむ、そうですね、そちらのゴブリンと話はできますか?」
「できるぞ、少し待て」
エルフのミイラはテレパシーの指輪をゴブリンにつけたようだ。
「聞こえるか?」
「わわ、頭のなかに声が! 邪神様! 邪神様なのですか!? なんということだ、おいらは邪神様と戦っていたのか。このご無礼お許しをぉぉぉ」
「落ち着け。ただのテレパシーの指輪だ」
まあテレパシーの指輪もかなり高度なマジックアイテムで知らなくても仕方がない。三賢者だからこそ簡単に俺に貸してくれたのだ。
「わわ、わわわ」
全然落ち着いてくれない。面倒だからこのままでいいか?
「で、ポポンガだっけ?」
「なんということだ、名乗ってもいないのに名前を知っているなんて、やはり邪神様だ、あわわ」
「いや、町で名前を聞いていて……」
ダンジョンを攻略されたショックで混乱していたところに、テレパシーによる念話を受けたことで、完全に混乱してしまったようだ。ポポンガが魔法使いではなく神と対話する僧侶だったことも、状況を悪化する要因なのだろう。
「まあいいや、おいお前!」
「ははー」
「我は貴様の信じる邪神にあらず、また別の力を持つ者なり。このまま殺されるか、我に忠誠を誓うか選べ!」
「邪神とかぽいします。我様ばんざい」
忠誠心ないなこいつ。
「なんと、こいつを配下として加えるのかね?」
エルフが驚いたように言った。指輪をはめていないのにテレパシーに割り込むとは、さすがはボスキャラ。
「はい、三賢者の皆さんはダンジョン経営よりも研究がメインでしょう? 重要な事はこれからも皆さんが直接管理することになりますが、私からの指示くらいはこのゴブリンキーパーに任せてもいいかなと」
「なるほど、確かにそれはこちらとしても助かる。しかし信用できるのかね?」
「彼なら裏切ってもすぐに制圧できるでしょう? ダンジョンキーパーは前線で戦うわけじゃありませんし、愚直に命令を聞いてくれるキーパーの方が俺には都合がいいんです」
「悪どいな君は」
ボスキャラには言われたくないのだけど……そんなに悪どいかな?
こうして、ダンジョン運営は当初の目的を達成し、次の段階へと進んでいった。
次は周囲のダンジョンを制圧しつつ、略奪を目的とした冒険者を適度に誘い込める造りへと改造していかなくてはいけない。
いつか百万迷宮地帯を制圧し、ダークランドの入り口を支配下に置き、そしてやつらが地上に上がってこれないようにするために。




