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ダンジョンは隠し扉を普通の扉に替え、鍵を設置した。これはイーヴィーが勝手にゴブリンダンジョンの方に行かないようにするためのものでもあり、そしてゴブリンたちにここにダンジョンキーパーがいるとアピールするためのものでもある。
東のほうに掘り進んで作った地上への道も完成した。そこから三賢者の道具も搬入した。泥の道にはレールを設置し、そこに荷物を乗せ、すべらすように生活区画に運べるようになっている。泥よりは歩きやすいが、細いレールを伝って走るのは鎧を着た冒険者やゴブリンには難しいだろう。そうでなくも普通に走る速度でというわけにはいかない。
準備は整った、しばらくはこれでゴブリンたちを倒し続けてもらおう。
「そのうち交易所を設置するか」
だがそれは盗賊ゴブリンが弱体化してからになるだろう。
それからしばらくは貴族学校の授業に戻り、レオンと共に勉強に励んでいた。
「おーほっほっほっ、今回は私の勝ちですわ」
「ま、満点だと?」
俺は八割程度だった、ここまで差がついたのは初めてだ。
うおおお、悔しい、すごく悔しい。領主の仕事で忙しかったと言い訳したいところだが、レオンだって同じくらい忙しい。
「つ、次は負けないからな!」
「そうですわね、次はもう少し差を縮めていただけると、私も張り合いがありますわ」
いけない、最近は学業を疎かにしすぎた。俺に貴族としての知識が足りないことは分かっているのに。現代知識だけじゃ足りない。
「……なあレオンさん」
「なんですのあらたまって」
そうだ、俺は変わる必要がある。成り行きで領主になったとはいえ、アナトリア領民の生活は俺にかかっているのだ。
「頼みがあるんです」
「頼みですの? まあ私でできることなら考えないこともありませんわ」
俺は決心をして告げた。
「付き合って欲しいんです」
「ええよろこ……付き合う? え? はわわわ!?」
なぜかレオンは顔がぽんと赤くなり、「不意打ちは卑怯ですわ~」とか言いながら逃げていった。
あれ? 俺は勉強に付き合って欲しいと……。
「あっ、そう」
ようやく追いついてもう一度「一緒に勉強しよう」と告げると、レオンはがっくりと肩を落とし、俺のことを恨みがましい目で睨んでいた。
「はぁはぁ、レオンさん、意外に足速いですね」
俺はぜぇぜぇと肩で息をしている。レオンもさすがに疲れているのか、いつもは見事な金髪のロールもぐしゃぐしゃに乱れてしまっていた。
「それで、どうでしょう、付き合ってくれませんか?」
「その言い方はお止めになってくださいまし……ええ、構いませんよ、では次のお休みに図書室をお借りしましょうか」
「ぜぇぜぇ、そうですね」
「全く……」
レオンはぶつぶつと口の中で文句をつぶやいていた。
後でそのことをシシドに話すと大爆笑された。
「お前、最初俺がお前のこと悪いやつだと誤解してたときにさ、周りの奴らに相談しただろ? そのときもシシドと二人っきりで話すにはどうすればいいのかーって相談したって聞いたぜ。ダンは六歳の頃からまるで成長していないんだぜ」
「そうかなあ」
「自覚がないあたり、どうしようもないんだぜ」
そう言うと、我慢できなくなったのか、シシドはまた腹を抱えて、赤い髪をプルプルと震わせながら笑い出した。失礼なやつだ。
休日、アナトリアの貴族学校の図書室に俺たちはやってきていた。魔法使い学校の蔵書数とは比べ物にならないが、貴族の作法や歴史の本が並ぶこの図書室も、そんじゃそこらの図書館には負けない蔵書数を誇っている。
「それじゃあ、あっちの個室でやろう。あそこなら会話もできるし」
「必要な資料があったらこっちの戻って借りてくれば良いですわね」
俺たちは二人揃って四角いテーブルに椅子の並んだ部屋に入った。壁には黒板がかけられており、脇には数本の白いチョークが置かれている。
レオンが座って席の隣に俺も座ると、ノートを広げて授業で学んだことをおさらい始めた。
ときおり質問や、議論を交わし合いながら、俺たちはカリカリとペンの走る音をお互いに聞いていた。
「そろそろお昼にします?」
俺はぐっと伸びをした。ぽきぽきと背骨が音をたてた。
「あら、もうこんな時間ですの、ではもう少しでここまでまとめ終わりますのでしばしお待ちを……」
レオンはそう言って、まとめを進めようとしている。
その時、クゥゥと可愛い音が部屋に小さく響いた。
「…………」
レオンは手を止め俯くと、プルプルと震えていた。
「あーえーっと」
困った、なんて声掛けよう。腹の音なんて俺は気にしなことがないからなぁ。
「か、可愛い音ですね?」
「お食事に行きましょう!」
怒鳴られてしまった。どうやら俺のフォローは失敗したようだ。
またシシドに笑われる気がする。




