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4-13

 冒険者パーティー、ゾンガー団はこの百万迷宮地域を拠点とする冒険者達だ。


「俺達の前に新人がこのダンジョンにやってきたって話ですが三日たっても戻ってないらしい。新人の装備もいただけるかもしれないですぜ」


 副リーダーである戦士のレードはそう言って地図の右端にあるゴブリンダンジョンを指で示した。


「まっ、生きていたとしても関係ねえわさ」


 血気盛んなオークのパドムは鼻を鳴らしながらレードの提案に同意した。


「いいだろう、今日はここで稼ぐとしよう」


 リーダーのキリアン・ゾンガーは剃り上げた頭を撫でながら、そう言った。


 ゾンガー団は二人の戦士と一人の盗賊ローグからなるパーティーだ。

 腕前は大したことはないが、経験は豊富で楽な稼ぎ方を知っていた。彼らは相手の強さを見抜くのに長けていた。

 不相応な戦いはしない。確実に勝てる相手を殺さず、何度も奪い取る。それが最も効率よく稼げる方法だと、ゾンガーは思っていた。

 新人冒険者は彼らにとって良いカモだ。ダンジョンで倒れていれば助けて外へ運びだしてやる。ただし、身ぐるみを剥いでおく。

 街の中で暴れるのはご法度だが、外のことまでは街の奴らも関知しない。というより、街の有力者だって、昔はこういう稼ぎをしたはずだと、ゾンガーは確信していた。


 ダンジョンの入り口に普段と変わった様子はない。いつものようにゴブリンの見張りが面倒くさそうに三人立っている。


「それじゃあ稼ぐとしようぜ」


 ゾンガーたちは剣を抜くと、茂みの中から躍り出た。


 盗賊のクラスであるゾンガーにとって、このダンジョンの罠など大したものではない。ないのだが、どうも奇妙な印象を受ける。


「新人冒険者がやってきたにしては、どの罠も壊された形跡がないな? どれも綺麗なもんだ」

「へぇ」

「なんだよ、反応薄いな。綺麗なんだぞ? つまり罠は最近再装填されたってことだ」

「てことは、新人は罠に片っ端からかかっていったのか? ははは、とんでもねえ馬鹿野郎だな。そりゃやられちまうわ」

「おおかた治療魔法があれば乗り越えられると思ったんだろう。経験の少ない素人がたまにやる勘違いだな」


 ゾンガーたちは時間をかけながら罠を一つずつ解除して進む。ただし罠は壊さない。ゾンガー達より弱い冒険者たちがここでやられて、金や装備をゴブリンに提供してくれたほうが都合がいいのだ。


 やがて二層目に続く道へと辿り着き、下へと降りた。


「一見変わらないが」


 二層も一層と同様、静かなものだ。だが、長年盗賊をやってきたゾンガーは違和感を覚えていた。


「団長、なにやってるんで?」


 壁に耳を当てたゾンガーは「シィィ」と指を唇にあて、黙るように言った。


「音が聞こえる、工房の音だ」

「へ? たしかこのダンジョンには工房は無かったはずじゃ。新しくできたんですかね?」

「いや、ここのキーパーは工房を扱える能力は無いはずだ。どうやらこのダンジョン、何か変わったようだぜ」


 オークのパドムは不安そうな顔をした。


「どうしやす? 危険なら引き返したほうが」


 ゾンガーは顎の無精髭を撫でながら、少しの間悩んだ。


「見張りはゴブリンのままだった。つまり、ダンジョンキーパーが変わってしまったわけじゃない。せいぜい流れの小人ノームがやってきて、ゴブリンの奴隷にでもなったんだろう」

「ノームですかい」

「ああそうだ。だがこれは俺たちにとっては問題だ」

「と言うと?」

「小人野郎がゴブリンの鎧を直しだしたら、俺たちの稼ぎが減っちまう。第一層にあるものは、やつらが修理できないガラクタだから、あそこに置いてあるんだ。それが修理できるようになったら、一層に宝物がなくなっちまう」

「そいつは困る!」

「だろ? 幸い音は下から聞こえてくるわけじゃない。ゴブリンどもめ、奴隷用の工房だからと三層に配置しなかったんだろう。しょせんはゴブリンよ」

「さすがゾンガー団長」

「今回の最優先事項は小人野郎をぶっ殺しておくことだ。新人冒険者の死体あさりは二の次にしておこう」


 そう言って、ゾンガーは先へと進んだ。


 東の壁にあった隠し扉はすぐ見つかった。なかなか巧妙に隠されていて、普通の盗賊には発見できないものだろうとゾンガーは思った。ゾンガーも新しい工房区画ができているはずだと思って注意していたから気がつけたのだ。


「鍵はかかってねえな、罠もない」


 ゾンガーはオークに扉を開けるように指示をした。罠を調べるのはゾンガー、扉を開けるのはパドム。いつもの通りだ。

 扉を開けると、廊下はすぐに右へと折れていた。


「ずいぶん長い廊下でやすね」

「そうだな」


 長い。確かに長い。しかし長いだけで罠も部屋もない。


「ローリングストーンの罠があるかもしれねえ、調べながら進むぞ」


 長い一本道の廊下といえば、凶悪な転がる大石、ローリングストーンの罠が定番だ、横に逃げる道がないため、為す術なく踏み潰されてしまう。

 とはいえ、それほど大掛かりな罠なら跡も残る。この廊下には石が転がった痕はない。それにどんな罠にもトリガーがある。張られたロープ、感圧式の床などだ。そうした兆候を見逃さなければ、強力な罠も問題はない。

 しかし何事も無く、廊下は今度は左へと折れた。


「今後は罠を追加していくつもりなんだろう。まだ未完成というやつだな」


 ゾンガーはそう言って頷いた。二人の部下も、なるほどと納得している。

 少し進むと廊下は左へと折れている。その先は、またずっと廊下が続いている。


「うへえ、この通路水が湧いてやすぜ」


 廊下を見ると、通路は湿った泥でグチャグチャになっている。試しに剣を突っ込むと、ずぶりと沈んだ。深さは足首程度まではありそうだ。


「壁に道があるぞ」


 壁の部分が少しだけ繰り抜かれており、壁際に細い岩の道が作られていた。なるほど、通路を掘ったら水がわいたから、側面に歩行用の道を設置したのか。

「よし、俺が調べながら進む。ついてこい」

 罠かもしれない、という気持ちもよぎったが、こんな泥の道ではローリングストーンの罠は使えない。三人は壁に掘られた細い足場をそろそろと進んでいった。


 しばらく進んだその先にあったのは扉だ。だが鉄で出来た立派な扉だ。


「少し待て」


 ゾンガーは扉を念入りに調べる。だが罠も鍵もない。仕掛けが一つだけあるが、奇妙なものだ。


「この扉、開けるのは簡単に開くが、閉めるときは時間がかかるようになってやがる」

「どういうことなんで?」

「そのまんまだよ、中に滑車があって、開くときはそれが開放されてすぐに開くんだが、閉めるときは負荷がかかるようになってやがる。おそらく裏側に滑車を回すハンドルがあるはずだ」

「でも開けられるんだよな?」

「そうだ」

「小人野郎の考えることはよく分からねえや」

「まったくだ」


 ゾンガーは苦笑しながら扉を開いた。ガララと滑車が回転する音が響いた。ああ、なるほど、無駄に手のこった警報の罠ということか。馬鹿らしい、小人野郎が何人いようがあんな弱っちいゴブリンの奴隷になるようなやつ、気が付かれたところでなんの問題もない。ゾンガーはそう思って笑った。

 だが、その笑いは、即座に凍りつくことになった。


「な、な……」


 ゾンガーは絶句した。扉の先にあったのは無数の魔法罠、マジックボンバードだ。それも一つや二つじゃない。大部屋の半分ほどにズラリと並べられている。その上側壁や天井にまでびっしりと罠が設置されていた。

 料理に使う大釜のような形をしたその罠は、範囲内にいる敵を目掛けて魔法力を炸薬にして、石や鉄の弾を飛ばす罠だ。

 威力はさほどでもないが、単純な仕掛けと魔法力そのものを投射する必要が無いため、費用も魔法力コストも安い罠である。

 だがこいつは他の罠と違い、トリガーを感知するすべがない。こいつのトリガーは周囲に投射している魔法力であり、この魔法力を感知できる距離に盗賊がたどり着いた時には、罠も起動している。

 とはいえ、普通は問題にならない。この方式は、遮蔽物があると機能しないため、この罠は堂々と露出している必要があるからだ。マジックボンバードは弓に比べれば射程も短く、遠くから射撃武器で破壊すればいい。


「そのための扉か!」


 射程範囲内まで罠を守るための扉。そのための仕掛けだったのだ。しかも後ろは狭い通路に泥の道、範囲外まで歩いて逃げるのは難しい。


「飛び込め!」


 ゾンガーはそう叫んで、部屋の中へと飛び込んだ。

 大丈夫だ、冷静に対処すればいい。マジックボンバードは自動的に狙いを定めるが、その狙いは正確だ。つまり、相手の動きを予測するなんて機能はない。機械的に狙いを定め、タイミングなど関係なしに発射する。


「前に出て動き回りながら突き進め!」


 そうだ、異様な風景に驚いたが、しょせんは安いポンコツトラップだ。多少の被弾はするだろうが、ジグザグに走り抜ければ通り抜けられるはずだ。

 その言葉を聞いて、部下の二人も部屋の中へと飛び込んだ。

 そして、三人は自分たちが「詰んだ」ことを理解した。


「鈍足の罠だと!」


 バカな、こんな高度な罠を仕掛けられる奴が、なぜマジックボンバードのような安い罠なんかを……もはやまともな動きもできなくなり、飛んでくる石つぶてを絶望した気持ちで眺めながら、ゾンガーはこの奇妙で、恐ろしいダンジョンを作ったやつへの恐怖を感じていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ、隠し扉を突破してきた冒険者がやってきたんだって」

「おお、それでどうなったんだ?」

「無事、大砲部屋で食い止めたって」

「えぐ、アホ主人えぐ」

「前々から思ってたんだよ」

「なにをです?」

「ダンジョンの中にいるやつらを煙でいぶしだしたら楽なのにってやつがいてさ。それを聞いて、そんなことをしたらダンジョンの中にいるやつら全員と一度に戦わなくちゃいけないけどいいのかって?」

「……それで普通各部屋に設置する罠を一箇所に集めたのか」

「戦力の逐次投入はダメだって、みんな言ってるし」

「なんて面白く無いダンジョンなんだぜ……」


 俺たちは、三賢者に渡されたテレパシーの指輪で送られてくる情報を聞きながら、アナトリアへの帰途についていた。

 俺がグラデビルたちに効率の良いやり方を教え、マジックボンバードの量産体制は完成している。

 それにマジックボンバードの修繕材料などが必要になるはずだ、こうした材料と、ダンジョンで得られた資源を交易する。いずれはアナトリアの良質な小型大砲をベースにマジックボンバードが作れないか試してみよう。

 俺は、これからこの指輪でダンジョンアドバイザーの仕事はすることになるのだった。

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