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 現在、ダンジョンにはダンジョンコアしかない。

 またダンジョンコアから通路を挟んで、ゴブリンのダンジョンと接続している。防衛設備もクリーチャーもいない。

 俺とシシド、そして三賢者は自分の魔法力をダンジョンコアに注ぎ、まずはダンジョン運営に必須のクリーチャーを「招請しょうせい」する。


 召喚と招請は少し違う。召喚は一度に一回の召喚魔法しか使うことができない。例えば、下級悪魔ゴートヘッドを召喚した場合、その後で二匹目の下級悪魔を召喚することはできないのだ。次の召喚を使いたければ、最初に召喚した下級悪魔との契約を終え、元の世界に戻してやらなければいけない。また召喚契約には持続時間があり、十分程度の間しか召喚を維持することはできない。

 ただし、一度の召喚で二匹以上のクリーチャーを召喚することはできるので、俺はそれを使って攻城兵器を運用する下級悪魔を召喚している。


 それに対して招請は相手の意思によってくぐれるゲートを用意する魔法だ。招請の魔法は、相手がゲートをくぐった時点で終了しており、相手を束縛するのはまた別の魔法が必要になる。

 その代わり、何度でもクリーチャーを呼び出し維持することができ、ダンジョン運営にはこちらの魔法を使用する。

 招請は難易度も消費魔法力も高い。ダンジョンコアが無いととても運用できないものなので、今くらいしか使用することはないだろう。


 招請したのは地獄に住む悪魔である、イーヴィー。小人のような姿に、耳まで裂けた大きな口と、顔の半分ほどの巨大な目玉を持ち、頭頂は脂ぎった白い髪が張り付いている。

 背中には大きな背負い袋とシャベルを持っており、背負い袋の中は今は空っぽだ。

 彼らは地獄の最下級の悪魔とすら認められない悪魔だ。

 招請した俺たちを見てヘコヘコと頭を下げているが、気を許してはいけない。隙があればすぐサボるし、すぐ盗む。それでも地獄での扱いに比べたら、この世界は天国のような世界だと思っており、反乱を起こすこともない臆病な種族だ。


「ここのエリアを掘ってくれ」


 俺が指示を出すと、「うきぃ」とやる気の有りそうな声を上げ、悪魔たちは早速仕事に取り掛かった。

 イーヴィーは、多くの悪魔に見くびられていながら、いくつかの優秀なスキルを持つ。その一つが大地に対する親和性である。

 イーヴィーは普通のシャベルを使って、驚くほど器用に、そして高速に土と石の入り混じった壁を掘り抜くことができる。その上、その壁が崩れないように補強する技術も生まれた時から知っている。

 また、その小柄な身体からは信じられないほど大きなものを器用に運搬する。三メートルほどもある巨大な巨人ジャイアントを、一人のイーヴィーが難なく引きずりながら医務室に連れて行くことだってできる。

 魔法の知識もあり、ダンジョンコアがマナを吸収できるエリアを広げることもできるのだ。


 これだけ色々できるのに、生来の臆病さと怠惰の気質。そして戦闘能力の欠如によって、イーヴィーは多くの種族に使役される地位に甘んじているのだった。


 俺たちが呼び出した三匹のイーヴィーは俺たちが目の前にいることもあり、あっという間に小部屋ほどのスペースを刳り抜いた。

 次はそのスペースに工房を設置する。工房の設置はダンジョンコアに付随している魔法を使って行う。マナの他に魔法の構成要素となる鉄が必要なので、壁を掘った時に出てきた鉱石をダンジョンコアに突っ込んだ。

 あっというまに、ひどく粗雑だが、工具や炉まで備えた工房が完成する。排出される有害な煙はダンジョンコア内に吸収されるようになっており、空気の悪さもそれなりに安心だ。

 まあ全部吸収できるわけじゃないから、他の部屋と離して設置する必要があるが。


「よし、次はこっちのエリアを掘れ、一気に三部屋分だ」


 イーヴィーに指示を出したら、クリーチャーの代わりに工房で作業だ。カミラにも手伝ってもらう。


「よし、カミラ、全速力で作るぞ」

「アホ主人の手伝いとか、ようやくメイドらしい仕事です」


 カミラはウキウキとした様子で俺と一緒に工房に入った。攻城魔導師の製作スキルがここで役に立つ。

 製作するのは木製の扉。ただし、反対側は土壁に見えるような造りになっている。隠し扉というやつだ。即興品で、慣れた盗賊ローグならすぐに気がつくのだろうが、今は少しの間ゴブリンの目を欺ければいい。どうせ、あとで撤去するものだ。


 完成した隠し扉をゴブリンダンジョンとの境目に設置する。

 新たな三部屋には、食料小屋、寝室、そして三賢者の魔法によって、招請ゲートが設置された。

 招請ゲートとは、クリーチャーを呼び出すためのものだ。

 さきほどイーヴィーを招請した魔法は例えるならスカウトだ。別次元にいる条件にあったクリーチャーを探し、こちらの世界に誘う。

 それとは違い、このゲートは、例えるなら求人の張り紙だ。ダンジョンに興味の湧いたクリーチャーが、別次元から勝手にやって来る。どんなクリーチャーがくるのか選べないのが欠点ではあるが、マナを大幅に節約することができた。

 なお必要のないクリーチャーも多いので、お断りする勇気も必要だ。


 食料小屋は、マナをエネルギーに迷宮羊ダンジョンシープという半魔法生物を生み出すことができる。ただし死ぬと高速で腐敗し、またダンジョンの外では生きていくことができない。貯蓄も輸送もできない地下世界の食料だ。カロリー満点だが、栄養がかたよるため外との交流も大切にしよう。

 最後の寝室は……文字通り寝室だ。床に布を敷いてあるだけの部屋だ。普通のクリーチャーはみんなここで雑魚寝だ。


「ふぅ、とりあえず最低限の設備は揃ったな」


 ここで俺は一息ついた。イーヴィーたちにも休憩を指示した。

 イーヴィーたちは歓声を上げたと思うと、これまでの数倍の速度で寝室に駆け込み、一瞬で眠ってしまった。


「やっぱりダラダラ仕事してたなあいつら」


 そういうクリーチャーなのだから仕方がない。


「で、これからどうするのかね?」


 エルフのミイラが俺にたずねた。クリスタルタワーから持ってきた品物も搬入していないし、三賢者の部屋も研究室もまだない。


「少し待てばマナが溜まって、もう一匹イーヴィーを招請できるでしょう。そこで仕事を分担して、外に掘り進む組と、ダンジョンコアへの道を大回りで寝室に接続するように改築します」

「たしかに今のままだと、ダンジョンコアが入り口の目の前だからな」

「その後で、通路に部屋を設置し、訓練室と広間を造ります」

「広間? 部屋は設置しないのかね?」

「はい、罠を設置するための部屋ですね」

「すると、罠メインのダンジョンにするわけか」


 そういうことだ。俺はクリーチャーは少なめ、罠マシマシのダンジョンを作るつもりだ。


 これにはいくつか理由がある。

 まずクリーチャーはタダではない。定期的に給料を要求するし、食料を供給してやる必要がある。さらに彼らは知性を持つ生き物であり、娯楽を要求したり、仕事が忙しすぎると不機嫌になったり、逆にやることがないと不機嫌になったりする。

 元の次元に帰るだけならいいが、たまに反乱を起こしてダンジョンキーパーを攻撃したりするものもいた。

 次に、クリーチャーは感情のある生き物だ。同種のクリーチャーなら大きな問題は起こらないが、様々な種族のクリーチャーが増えると、種族同士の対立が起こり、同士討ちを始める。

 ゲートから現れる中では最強のイモータルホーンという強大な異形の怪物は、なぜかイーヴィーが大嫌いで、暇になるとダンジョンを歩きまわり、侵入してきた敵のダンジョンキーパーのイーヴィーであろうと、健気に仕事をしている味方のイーヴィーであろうと見境なく、踏み潰し始める。

 こういったクリーチャーごとの関係を考慮し、生活空間を別々に用意してやらねばならない。

 三賢者のダンジョンにゴーレムなど人造クリーチャーしかいないのは、この関係調整をやっていると、自分の研究をしている暇がなくなるからだ。


 要するに、人事は面倒くさいのだ!


 その点、罠は初期費用がかかるが裏切らない、文句も言わない。罠には機械式と魔法式があるが、今回は魔法式を使う。

 魔法式は、ダンジョンコアから供給されるマナを消費して維持、発動、再装填を行うものだ。ダンジョンから得られるマナと罠によって消費されるマナを計算する必要があるが、一部の超強力な罠を使わなければ、大体は問題はない。

 というわけで、ダンジョンの部屋は必要最小限にする。俺が必要なのは、イーヴィーの他には一種類のクリーチャーだけだ。


「それで、何を待っているのかね? 寝室と食料小屋と工房、この条件でやってくるクリーチャーはあまり多くないが」

「他の設備を後回しにしたのは、やってくるクリーチャーを限定したかったからです」

「ふむ」


 イーヴィーたちにはまた壁を掘るように指示をだす。壁からでた鉱石類を保管するため、そろそろ宝物庫も必要か。そうこう言っているうちにゲートが開いた。


「おいらは牙を持つゴキブリ、ファングコックローチ、今後ともヨロシク」

「不採用」

「ぎゃわー」


 弱い、不潔、他のクリーチャーと仲が悪い。ゲートから出てきたそばからお帰りいただく。


「俺は地獄生まれのコボルド、ヘルコボルド、どんなダンジョンだって生活できるのが特技だ。雇ってくれ」

「不採用」

「ぎゃわー」


 普通なら他のクリーチャーと問題を起こさない上に従順で給料も安い序盤のお供だが、今回は使わない。


「私は色欲の悪魔、サッキュバス。小さめの寝室さえあればいいわ」

「不採用。あとうちの寝室は個室じゃない、もともと小さいだけだ」

「ぎゃわー」


 ビジュアル人気は高いが最強厨である俺は性能しか見ない。不採用。


 そうしてしばらく不採用を繰り返したところで、ようやくお目当てのクリーチャーがやってきた。


「俺は貪食の悪魔、グラデビルずら。食料庫があればいいずら」

「採用!」


 グラデビルは貪食を司る悪魔の眷属だ。とにかくたくさんの食い物があれば満足するというお手軽な好みのクリーチャーだ。

 ただしこいつはアンデッドが大嫌いで、アンデッドクリーチャーが近くにいると不機嫌になり、ときには襲いかかってしまう。


「アンデッドは食えないだろ? なんて勿体無い、あれは悪いものずら」

「そういう理由だったのか」


 見事な三角形の形をした、例えるなら鏡もちのような悪魔は、そう俺に話しかけながら、マナを餌にで高速生成されている迷宮羊を手づかみでわっしゃわっしゃと丸呑みしている。

 この悪魔は、非常に頑丈で力も強い。戦闘でも頼りになり、毒に対する強力な耐性と、毒ガスを吐くことができる。

 その上手先も器用で工房で働くことができる。反面、鈍重で、とにかく足が遅い。というか足だけじゃ太った身体を支えきれないらしく、腕の力でお尻を引きずるように歩いていた。


「俺が言うのもなんだけど、グラデビルだけじゃダンジョン守りきれないんじゃないのかずら?」


 たしかに足が遅いグラデビルでは、どんどん広くなっていくダンジョンをカバーするのは不可能だ。すぐ近くに食料庫がないと、食料庫に移動中に飢餓状態になって不機嫌になるという困った性質もある。


「大丈夫だ、お前の普段の仕事は工房で働くことだ。すぐ近くの食料小屋と工房を往復するだけの簡単な仕事だ。防衛は敵が近くに来たときだけでいい」

「そうなのかずら? それなら任せておけずら」


 さて、ダンジョンコアへの道を改築していたイーヴィーたちの仕事が終わったようだ。

 罠の作成に取り掛かろう。

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