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2-2

 現実問題、戦闘力と汎用性に乏しいことを除けば、貴族は貴族の役割を果たすのに最適な能力を持っている。当然と言えば当然だが。


 そもそもクラスとはその人間の生き方だ。いくら強いからといって、蛮人バーバリアンになる市民コモナーはいない。市民は市民の生き方をするから市民なのだ。


「だからといって、貴族になるつもりはないけどね」


 俺の生き方は最強厨だ。ソロ、パーティー、戦闘、探索、交渉、空中戦、水中戦あらゆる状況に対応できる、万能かつ最強の構築。限られた条件ならば、限られた条件の中でも最強を見つけるまでだ。

 このとき俺が発した何気ない一言が、この後騒動を起こすことになる。そして俺は独り言をつい口に出す癖を直そうと決意することになるのだが……。


 構築ビルドとは、完成形をまず思い浮かべ、その完成形に至るためにはどうするのか、無数の選択肢から探し当てる作業だ。

 この構築と試算を繰り返す作業は、苦しくも楽しい。BOACは、時折コンパニオンクエストといって、指定されたレベルで新しいキャラクターを自由に作り、そのキャラクターを引き連れて戦闘や探索をこなすというクエストがある。俺が上位ランカーの中でも、さらにトップクラスにはいれていたのは、コンパニオンクエストで無類の強さを発揮するからという部分もある。


 だけど、今は資料が足りない。幸いなことに、クラスについて思い浮かべると、データがぼんやりと感覚的に分かるのだが、俺も忘れているクラスがあるかもしれない。

 BOACの無駄に多すぎると評されるクラスとスキルはとても暗記できる量ではない。ここには情報サイトもないし。


「たしか、父上の図書館にクラスについての資料があったような」


 貴族のたしなみとして、父上も自前の図書館を所有している。印刷機など無いので、本は高価だ。そうした本を集めた図書館を作ることは、貴族のステータスなのだ。



 そう考えて部屋を出た俺を、1人のメイドが呼び止めた。


「坊っちゃん」

「あ、マリーさん」


 青い髪をした背の高く、おっとりとした顔のメイドだ。本名はメアリ。俺がもっと幼いころから世話をしてくれている人だ。


「坊っちゃん、もう体調は戻られましたか?」


 そうだった、俺は体調不良を理由に部屋に引きこもっていたんだった。


「うん、もう大丈夫だよ、ごめんね心配かけて」

「いえいえ、坊っちゃんさえ元気になっていただけるのなら、心配なんていくらでもかけてもらって構いませんよ」


 そう言ってマリーはにっこりと笑った。


「これから父上のところに行ってくるつもりなんだけど、今父上、お忙しいかな?」

「今日はお部屋でお勤めをなされていたと思いますが、アルフ様に確認して参りますね」

「いやいいよ、父上に会うのに一々、執事の手を煩わせることもないから、直接父上に今忙しいかどうか聞いてくる」


 俺は前世の記憶を認識したことで、少し価値観が変わっていた。本来なら迷わずメリーの言う通りにしただろう、それが現代日本の価値観によって、親に会うのに伺いを立てるなんて面倒だと感じたのだ。

 これは、この世界でもありえる考え方だった。だけど、考え方そのものより、変化にも注目されることを6歳の俺は分かっていなかったのだった。


「父上」


 俺は執務室の扉をノックした。小さな俺の手が、コンコンと乾いた音をたてた。


「ダンか? 珍しいな、入れ」

「失礼します」


 部屋の奥には大きな机が置かれ、書類が山のように積まれている。貴族の仕事の半分くらいは書類を右から左に動かすことだと言ったのは、ラジオドラマの貴族だったかな。


「父上は今お忙しいでしょうか? 急ぎの用事ではありませんので、お忙しいなら夕食後にでも構いません」

「ふむ……いや、いい、私もそろそろ休憩したいと思っていたところだ、軽く何か食べながら話すとしよう」


 少し思案した後、父上は珍しく笑顔を浮かべながら言った。


「ありがとうございます父上」



 そういえば俺は父上のことを父上と呼んでいる。裕司だったころの俺は父親のことを父さんと呼んでいた。もし、父上のことを父さんと読んだら、どんな反応をするだろうか。


「体調を崩して寝込んでいたと聞いたが、元気そうだな」


 父上は俺の顔を見てまた笑った。俺の記憶にある父上は、もう少し厳格なイメージなのだが。


 まてよ。俺は前世の記憶から、スピンオフ小説についての情報を探した。ええっと、ダンフォースの父親モーン伯爵は……。

 そうだ、たしかダンフォースがモーン伯爵を暗殺する直前に独白があったはずだ。確か、良い貴族の手本となるように接した結果、ダンフォースが伯爵のことを貴族としか見れなくなってしまって、父親として教えるべきことを教えられなかった、そういうことを言ったはずだ。


 ダンフォースを救うために爵位を捨てようとしたモーン伯爵を前に、ダンフォースは「いまさら貴族以外の生き方はできない」とモーン伯爵を殺害し、これまで多少あくどいところはあれど、主人公ジェイクのコミカルなライバル的立ち位置だったのが、どんな手も使う悪役へと変貌するのだ。

 こうして父上の自然な笑顔をよく記憶しておくことも、悪役人生から逃れる1つの転機かもしれない。


「それで、私に用があるそうだが」

「はい父上、図書館を使わせていただけないかと」

「図書館? 急にどうした」


 父上は怪訝な顔をした。


「あそこにあるのは難しい本ばかりで、お前の気に入るような本があるとは思えないが」

「僕も、何年もしたらモーン家を離れ学校へ行きます。そこでは様々な学友と出会うでしょう。そのときに自分の家の図書館がどれほど素晴らしいか、その魅力を語れずにいるのはモーン家の長男として情けないではありませんか」


 父上はじっと俺のことを見ている。あれ? 父上が気に入りそうなフレーズを並べたつもりだったのだけど。


「いいだろう、あそこにあるのはモーン家自慢のコレクションだ、くれぐれもイタズラするんじゃないぞ」

「ありがとうございます!」


 良かった、反応が悪かったのは気のせいだったようだ。



「いつのまにか交渉の真似事なぞするようになったのか。大きくなったものだ」


 俺が去ったあと、父上は穏やかな笑みを浮かべそうつぶやいていたのだが、俺の耳には届かなかった。



 それから俺は、離れの図書館でクラス、スキル、魔法についてをの書物を読みあさっていた。

 一度、条件を整理しよう。


1・魔法を使えること。(できることが飛躍的に増える)


2・ソロでも戦えること。(戦うための最低条件を他人に預けない)


3・火力、盾、回復のどれかの役割は最低限こなせること。(パーティーの役割は全うすべし)


4・不可視の相手が別の次元から背後に瞬間移動からの急所攻撃してきても対応できること。(目標レベル50)


5・空中戦、水中戦、魔法封じアンティマジック、物理無効、無視界戦闘、大規模戦闘、長時間戦闘に対応できること。(最強とはあらゆる状況でも最強でなくてはならない)


6・罠に対して対応できること。(盗賊クラスがいないと、対応できないなんてことは避けたい)


 これが普段の俺の条件で、これに貴族としての条件をつける。


7・宮廷での交渉に対応できること。(貴族の交渉補正はそんなに高くはないが、補正0よりははるかに高い)


8・領内の生産を向上できること。(生産活動一つ一つにボーナスをつけていくような方法を探したほうがいいだろう)


9・貴族としての生き方をして、周りが納得してくれること。(これが一番難しい)


 こんなところか。魔法使いか魔法剣士あたりが候補か。聖騎士パラディン勇者ヒーローは、神々から天啓を受けて成れるという設定のクラスであり、悪役貴族のダンフォースでは期待薄だ。これらのクラスもゲームではボタン1つだったのに。


 本を前にウンウン唸っている俺を物陰から、じっとマリーさんが観察していたことに、俺は気が付かなかった。クラス:子供のスキルはあまりに低い。

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