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俺とカミラ、そしてウルトとシシドの四人で、会議を行うことになった。
「なるほど、革新的な政策ですね」
それぞれ二、三の質問だけで、意図を察知したカミラは驚いて唸る。現代知識を交えた政策を、こんなにも簡単に理解するとは、元は帝国の政治顧問だったというのも嘘ではなさそうだ。
「ですが、この政策はだめですね」
「なんだと」
「戦後の今が変革のチャンスだとは理解できますが、政策の大半がアホ主人にしかできないことじゃないですか。こんなものオーバーワークになってあたりまえです。ぷぷぷのぷー」
「私もそう思っていたのだが、少々モーン君の才能に目が曇っていたようだ」
ウルトまでそう言って同意した。シシドも頷いている。
「う、うーん、俺が悪いのか?」
「はい、なんでもできる優秀な才能の持ち主ですが、アホ主人です」
そう言われると、弱い。
「それじゃあいくつかプロジェクトを凍結して、順次解決していくしかないか」
「そうするより他ありませんね」
俺は断腸の思いでリストにチェックをつけていく。借金返済が遠のいていく……。
「うぅ、無念だ」
やれば成功するのが判っているのにできないとは、なんという辛さ。
「盗賊については、私の時代の方法で対処しましょう」
「なにか策があるのか?」
「盗賊たちを兵として雇いましょう」
「おいおい、資金の問題もあるが、なによりそんなやつらを街に入れたら治安が悪化するぞ」
「いえ、街にはいれません。全員荒野の探索に当てます」
「ふむ……だがそんな危険な任務、受けてくれるかね?」
「荒野はちょうど誰の所有物でもない白紙の状態です」
カミラはぐるりと紙にパイの絵を描いた。
「なるほど、パイそのものはアナトリアのものだが、切り分ける権利を与えるのか」
荒野の探索に応じて荒野における爵位を与える。貴族になれるチャンスとあれば、盗賊の頭目たちも、勝負にでるはずだというわけか。
「帝国時代の侵略戦争にはこの手を使っていました。尖兵たちが土地を奪い領主となる、土地を奪われたものは新しい土地を得るために、帝国の尖兵として次の土地へと向かう。そうして帝国は巨大な版図を築いたのです」
「ふむふむ、盗賊問題はそれである程度は抑えられるか」
頭を悩ませていた問題が一つ片付きそうだ。荒野の探索の人員増加にもつながる。
「俺からも一つ提案があるぜ」
この会議の場で、初めてシシドが声を上げた。
「俺の手下……ええっと、学校の友人たちにも攻城兵器スキルをあげようとしているやつがいるんだぜ。前の戦争で大砲が大活躍したし、軍人も効果的な大砲の運用について頭を悩ませているのぜ」
「砲術学校の設立か」
「ダンの専売特許というわけにはもういかなんだぜ。その技術を公開して、ダンのような戦術を取れる指揮官を増やすべきなんだぜ」
「攻城魔術師の代わりは無理でも、大砲を交えた野戦については教えられるか」
「そうなればダンはもう戦場にでなくてもいいんだぜ、トップは椅子を温めておけなんだぜ」
ふむ……こうして相談すると色々解決策が出てくるな。
「最後に」
そろそろ議題が尽きようとしていた時に、カミラが言った。
「あと一人、顧問が必要です」
「何?」
「私は帝国時代のやり方です。もうこの時代では時代遅れもいいところ。次にアホ主人は未来的過ぎるやり方です。シシドさんは一般的視点からの意見を期待できますが、あとこの場に現代のやり方に詳しい人が必要です」
「それならウルトさんがいるじゃないか」
「いえ、ウルトさんはダメです」
ウルトさんは苦笑しながら同意した。
「私はモーン君の才能の眩しさに目が眩んでいるのだよ。対等な立場で意見を言えない」
「そういうことです」
「つまり俺と対等な立場で意見がいえる、現代の貴族をスカウトしろか」
アナトリアに貴族はたくさんいるが、俺は前の戦争でアナトリアを防衛した英雄となってしまった。今も革新的な方法をいくつも生み出したことで、どの貴族も俺に対して一歩距離をとっているというのが客観的に見た事実だろう。
「難しいな……誰か……」
いや、一人いた。俺に対して堂々と貴族のあり方について説いた奴が。
「イザベラ・ドーラ・レオン女伯爵」
金髪ロールでオホホと笑うレオンの顔が、俺の脳裏にははっきりと浮かんでいた。
さて、なんと言ってレオンをスカウトするか。
「と考えつつも、すでに手紙を用意しているわけだが」
封蝋した手紙を内心ドキドキしながら手で触れて確認する。
「モーンさん!」
向こうからレオンがなにやら思いつめた様子でつかつかと歩いてきた。なんだろう?
「やあレオンさん、ごきげんよう」
「モーンさん! 私決めましたわ!」
「???」
俺は頭に三度クエスチョンマークが浮かんだ。
「もうモーンさんがやつれていくのを見ていられません! このイザベラ・ドーラ・レオン、アナトリアのために力を使うことにしましたの。私を顧問としてお雇いになってくださいませ」
「はあ!?」
「まぁ! 私の力をお疑いですのね? あなたの永遠のライバルたるこの私を。いいでしょう。では手始めに、あなたが出て行かないと解決しないと仰っていた、河川交易の取引について、このレオンが解決策を提示して差し上げましょう」
流れるような動作で扇を閉じると、びしっと俺にそれを向ける。
「河川交易の商人たちの本拠地であるボーダーランドの街を治めるボーダーランド男爵、その娘が嫁いだのがアナトリアの南にあるサルマン子爵家ですわ。そのサルマン子爵は長い間実子に恵まれず、やむなく養子取ったのですが、困ったことにその後すぐに実子が生まれてしまったのです。案の定お家騒動に発展し、どちらが後継者になるか揉めていますわ。サルマン子爵は実子を応援しているようですが、継承権は本来長子である養子の方が上。養子を援助する貴族たちも多いのですわ」
「そうか、アナトリアで実子を援助するというのか」
「ええ、兵を動かせば大事になるでしょうが、格安で武器、特にご自慢の大砲をお譲りなさいませ。そうすれば各地はサルマン子爵と実子が制圧し、実効支配は実子側になるでしょう」
「貴族たちもアホじゃない。その状況で無理をすればサルマン子爵領がバラバラになる。そうなったら困るのは養子を推していた貴族たちだ」
「そして孫が継承権第一位となったことでボーダーランド男爵も喜ぶというわけです。河川交易で大きな利益を上げている商人たちとはいえ、拠点の領主の意向を無下にすることはできません。今後はこちらに有利な交渉ができることでしょう」
レオンはドヤ顔で俺のことを見ている。
「え、ええっとだなレオンさん」
俺はおずおずと手紙を差し出した。
その後、顔を赤くしたレオンが、なぜもっと早く言ってくださらなかったのと、ぽかぽか胸を叩かれたが……俺はレオンをスカウトしたことに早くも喜びを感じていた。




