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4-5

 俺が一日休むことを告げると、ウルトも宮廷で働く人達も、そして領民さえホッとした様子だった。久しぶりに、領主になる前から仲良くしていた肉屋に行くと、精のつくものをといろいろ見繕ってくれた。

 悩みながらぶらぶらと通りを歩く。気が付くと、俺は人気のない路地へと来ていた。無意識のうちにひとりで考え事をしたく、ここに足を運んだのかもしれない。


「はぁ……」


 明日からどうしたものか。やるべきことはたくさんある。その上に、俺は倒れてはいけないという難題まで追加された。



「あの」


 ふいに声をかけられた。振り返ると、逆光になっていて顔がよくわからないが、フード付きマントを着た女性と思われる人影があった、


「ダンフォース・マク・オブ・アナトリア様ですよね?」

「そうだけど」


 言葉を聞くや否や、人影は地を蹴った。手には片刃の長剣が握られていた。


「ご主人さまの仇!」


 俺は手にした鋼鉄の杖でそれを受け止め、火炎バーニングの魔法を円錐状にばら撒いた。


「あちゃちゃ!」


 マントに火が着き、慌てて人影はマントを脱ぎ捨てた。


「って、お前は」

「なんてことするんですか、しみったれご主人様のもとで何十年もかけ溜めたおこずかいがパーになっちゃったじゃないですか!」


 いきなり襲ってきたというのにブーブー文句を言っている。黒髪、黒の瞳をした端正な顔立ちの女性であり、マントの下には古めかしいメイド服を着ている。スカートだけはなぜかミニでフレンチ的だ。

 そして、その肌の色は血色が悪く、土気色と言っていい。

 不死従者メイドイズゾンビーのカミラ。ゲームの代表的キャラクターであり、この間、俺が見逃した相手だ。


「仇討とは、見上げたやつだ」


 折角の休日が潰れてしまったが仕方がない。俺はハンドキャノンを相手に向け。


「タンマ! タンマ! ギブアップ! 白旗です!」


 カミラは剣を捨てると慌てて両手をあげていた。



「いまのはテストです。あなたが私の主人に相応しいかどうかテストしたんですよ」


 口調は偉そうだが、視線は俺の向ける砲口をビクビクと窺っている。


「俺が? お前の?」

「はあい!」


 さっきの一撃はそんなに気合の入ったものではなかったが、当たれば大怪我していた程度には威力があったぞ。


「私はカミラ。メイドのカミラと申します。この世に生を受けて325年、うら若き乙女のメイドでございます」

「え?」

「……さすがニューご主人様。すみませんサバ読みました。本当は346歳です」

「いや、そこじゃなくて。というかそのサバ読み意味あるの?」

「乙女心の分からないアホ主人ですねぇ」


 カミラは憤慨している。ゲームでもそのネタ使ってたな。


「ちょっと待て、まずお前は何しに来た」

「ほら、前のご主人さまやっつけられちゃったじゃないですか。だからあなたは私を雇用する義務がある。幸いアナトリア様も貴族でいらっしゃいますし、前のご主人は腐っても伯爵でしたので、ちょっと格落ちしちゃったなぁとは思いますが。そこは我慢しましょう」

「アナトリアは子爵位だけど、そのうち俺モーン伯爵位も相続するよ」

「うっひょー、優良物件じゃん。やったぜ。デズモンドとかクソですね」


 カミラはガッツポーズをしている。いやいや待て待て。


「悪いが俺は今自分のことで手一杯だ。カミラの面倒を見ている余裕はない」

「何をおっしゃりますか、私はメイドですから面倒を見るのは私の方ですよ。もしかしてアホ主人はメイドを見たことがないのですか? メイドを雇うお金もないとは、アナトリアって貧乏?」

「知っているよ! 貧乏なのは事実だけど、とりあえず落ち着け」

「これが落ち着いていられますか!」

「逆ギレするなよ」

「私の就職先がかかっているんですよ、私にはかじる脛なんて335年前にとっくに亡くなっちまってるんですよ。ギブミージョブ」


 めんどくせえ!


「分かった、じゃあ紹介状書いてやる、確か南に別のヴァンパイアがいたはずだ」

「お知り合い?」

「顔も見たこと無いし、交流があったこともない」

「意味ねえじゃないですか!」

「ええい、じゃあ冒険者でもやってればいいだろ。普通の人間よりは大分強いんだから」


 カミラは吸血鬼の落とし子、レッサーヴァンパイアともいわれる半死人だ。吸血鬼に血を吸われ、このあと大量の血を与えれば後継者たる吸血鬼に、そしてほんの数滴の血を与えれば、カミラのような劣った吸血鬼になるのだ。

 劣ったと言っても、治療魔法を受け付けない体質以外は、大体人間より優れている。とくに腕力と生命力が高く、戦士向きだろう。ゲーム中ではプレイヤーは使えないけど。


「私みたいな半端者、下手すりゃ僧侶からすぐに浄化されますよ!」

「それもそうだな」


 カミラには吸血鬼を増やす能力は無いとはいえ、アンデッドの存在を認めない神は多い。生死の理を無視するアンデッドは、社会的にはかなり厳しい存在だ。カミラが俺に雇用主となれと言い寄っているのは、身分を保証してくれる人がいないと生きていけないからなのだろう。いや、アンデッドだから生きていないけど。


「し、しかしさっきも言ったけど俺は今イッパイイッパイで」

「だから、そういうときこそ私の出番ですよ。お役に立ちますよ?」

「でもなぁ、俺の役に立つとはとても思えないけど」

「このカミラを舐めてもらってはこまりますよアホ主人。炊事洗濯戦に夜伽、なんでもできるスーパーメイド。私を雇ったあかつきにはアホ主人は、怠惰地獄で労働を禁じられた悪魔たちのようにぐーたらな生活を送れることまちがいなしです。あ、でも私への給金は滞らないようにお願いしますね」

「不採用」

「なぜですか! 不採用を不採用します」


 画面越しだとオモシロメイドだったけど、こうして現実に接するとホント厄介だなこいつ。


「最初に言った通りだ。俺は領地運営の問題でイッパイイッパイなんだ。魔法使い学校の死霊術師にでも口きいていやるから、俺のことは諦めて……」

「なんだ領地運営のことですか。それもできますよ」

「はい?」

「だって私、魔人王ドゥラスの政治顧問でしたし」


 え、何その隠し設定。今とんでもないネタバレを聞いたのではないのだろうか。

 驚く俺を見て、カミラはニコニコしながら、雇ってくれますよねと俺にもう一度尋ねたのだった。

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