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2-1 第二章:貴族になんてなりたくない

 物心がついた。そう言い切れるのは何歳からだろうか? 大体3~4歳くらいだと言う人が多いような気がする。

 俺は遅かった。6歳になってようやく物心がついた。


「え? 俺何してんの?」


 召使いたちが奇妙な顔をして俺のことを見ている。ごまかすためににこりと笑うと、向こうの方から目をそらして仕事に戻った。


 いやいやいやいや、なんだこれ? 俺どうなってんの?


 記憶自体は3歳くらいの頃まで大体憶えている。昨日食べた夕食が、ビックリフィッシュ(出目魚)のムニエルだったこともばっちり憶えているし、味も思い出せる。

 問題はその前だ、ぼんやりとした0~2歳の記憶の壁の向こう側に、はっきりと、別の記憶がある。

 俺の名前は、ダンフォース。ダンフォース・マク・モーン。親しい人からはダン。代々伯爵として広大な領地を支配するモーン家の長男。

 そして現代日本でBOACを楽しむゲームプレイヤー、榎宮裕司だった。プレイヤーネームはミナト。

 なんてこった、もしかしてこれは来世ってやつか?


 とりあえず俺は体調が悪いと言ってベッドに潜り込んだ。実際に頭が混乱しているせいで、真っ青な顔をしており、すんなりと信じてもらえた。

 考えることは沢山ある。だが、どんなに複雑な状況でも、要素を一つ一つ取り出せば、かならず攻略できる。そうやって、俺はたくさんのボスを倒し、上位プレイヤーとなったのだ。ドラゴン退治に比べたらなんてことないだろう。


 まず情報を整理しよう。俺は、ええっと今の俺じゃなくて前世の俺は、ダンフォースを知っている。

 こいつは、BOAC小説版の悪役だ。ゲームの方にも顔を出している。

 主人公であるジェイクを目の敵にする嫌な貴族で、なんどもジェイクたちを追い詰めている。最終的にはイベントで千人以上のプレイヤーに領地を攻められ、命を落とすことになるのだが。

 ダンフォースである俺が知っている地名や用語も、BOACの知識と一致する。

 ここはBOACの世界……とみて間違いはないだろう。

 つまり……


 仮定1・BOACオタクである俺は夢を見ている。

 反証・試しに頬をつねってみたけど痛みがリアルすぎる。


 仮定2・BOACの新機能

 反証・ヘッドマウントディスプレイで痛みが再現できるわけがない。


 仮定3・これは来世。本当にありがとうございます。


 なんてこった、仮定3が正しいとしか思えない。

 と2時間ほど、唸っていたが、観念して来世を受け入れることにした。理由は思い出せないけど、多分、俺は一度死んだんだろう。現実世界に死者蘇生レイズデッド再出発リスポーンも存在しないのだ。


「おっと、今の現実には再出発はないけど、死者蘇生はあるんだったな」


 死んでみたら再出発もできるかもしれないが、試してみる気にはなれない。



 とりあえず状況は分かった。分かったことにしておこう。

 では次は未来の話だ。この今世をどうやって生き抜くかだ。


 まず、俺は悪役貴族ダンフォースで、そのうちにジェイクとミラと冒険者たちに寄ってたかってボコボコにされる。家は断絶、俺は短い人生をあっさり終えて、みんなは幸せになるハッピーエンド。

 対策は簡単だ、俺が悪役にならなければいい。楽勝だ。ジェイクとミラにあったら、気持ちよく「おはよう冒険者」と挨拶していればいいのだ。


 次に、この世界で生き抜くためには。これもまぁ難しくないはずだ。俺は名門貴族モーン家の長男。領地からは十分な収入があるし、内地だから隣国との争いも関わりない。

 本来のダンフォースは、領地拡大のため陰謀に奔走するのだが、べつにそんなことしなくても十分偉い身分なのだ。のんびり暮らせば、俺でも生きていけるだろう。


 大体のところ、転生先として、ダンは優良物件だ。まぁ陰謀をしたがる貴族は他にもいるから、巻き込まれることはあるかもしれないが。小説で、ダンフォースに巻き込まれた貴族みたいに。

 それは父さんたちとよく相談して解決しよう。ダンフォースは穏健派の父親を暗殺したが、俺は厳格だけど息子に甘く、それゆえに深く苦悩するあのキャラ嫌いではない。

 この俺は父さんとも仲良くやっていこうと思う。



 そこまで考えて、俺はハッと気がついた。


「いや、ダメだ、最大の問題が残っている」


 俺は気がついた問題にぐるぐると目が回った。なんということだ、こんなことはとても耐えられない。


「貴族はだめだ! そんな雑魚クラスのレベルを上げるなんて堪えられない!」


 俺にとっては、とんでもない大問題だった。



 貴族は無数に存在するBOACの上級クラスの1つだ。一応は生産クラスにあたる。条件は領地を持つことなので、今の俺はレベル1から貴族を選択できる。

 自分の能力については、なんとなく理解できる。奇妙な感覚だが、ここがゲームの世界であることを考えたら当たり前なのかもしれない。


 ダンフォース:子供チルドレン、レベル0。


 暫定的なクラスだ。ちゃんと訓練を積むまではこういう表示なのだろう。

 訓練が開始されるのは7歳から、12歳の時点でレベル1のクラスを得る。もちろん修練でより早くクラスを得ることもできる。ただ、この世界の教育課程がそういう風になっていた。


「うぅ、祭司になりたいなんて許されないしなぁ」


 祭司は設定上は門外不出の秘密組織。ゲームではボタンひとつで得られるクラスも、現実となるとそうはいかない。


「石の騎士は無理か」


 ミナトの再現はできないだろう。



 なら貴族のクラスで強くなる方法を検討してみよう。

 貴族は、領地の生産効率を上げる能力を持つ生産クラスだ。つまり本人は何もせず、領地内の生産クラスにボーナスを与えることができる。


 最強厨である俺には耐えられない無能さだ!


 まてまて、他にも特徴はある。もう一度検討しよう。

 まず近接戦闘能力は重い鎧を装備できず、特別なスキルもない戦士といったところだ。同じような制限の決闘者デュエリスト軽戦士ライトアーマーには、攻撃を受け流すスキルや、強力な攻撃回数倍加といった利点がある。貴族に何もない。


 魔法はどうか? 使えない。

 スキルは? 交渉にボーナスがあるだけ。


 ダメだ、俺には耐えられない!

 領地を豊かにし、他の貴族との交渉を有利にするんだから、役割には合っているのだけど。とにかく俺には耐えられない。


 どうにかして、俺は今許される最強の構築を探さなくてはならない。

 それに何の意味があるかではない、そこに最強の構築があるから探すのだ。


 6歳児である俺の悲壮な決意は、誰にも知られること無く毛布の中に熱く燃えていた。

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