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ブルー・オブ・アナザーカラー・オンライン:悪役貴族に転生したけど最強厨である俺はそんな弱クラスには興味が無い  作者: 浅間巧
第三章:いずれ俺を殺しにくる奴らの好感度がやたら高いんだけどどうすればいい?
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3-14

 警戒しながら宿に戻ったが、特にそれ以上の襲撃は無かった。俺達はロビーに座ると、ほっと一息ついた。


「ふぅ……」


 ロビーには俺達以外に三人の観光客がいる。髪がすっかり白くなった老夫婦と、黒髪の青年だ。青年は湯気の立つ飲み物を飲んでいて、老夫婦は夫が妻の白くなった手をしきりにこすっていた。


「俺達もなにか飲もうか」

「じゃあレモンティーを」 「俺もそれで」 「私も」

「あいよ」


 俺は右手を挙げて頷くと注文を取りに行った。


 そして俺はレモンティーの入った、湯気の立つ四つのコップと、もう一つ、洗面器を脇に抱えて戻ってきた。


「洗面器? どうしたんだそれ?」


 クロウが不思議そうに首を傾げながら、コップを受け取り、テーブルに並べる。


「ちょっとね」


 俺は洗面器を持って老夫婦のところへと向かった。


「差し出がましいかとも思いましたが、よかったらこれどうぞ」


 俺はお湯の入った洗面器を差し出す。血の通りが悪くなった指に温水は効果があるはずだ。


「お、おお、すまないね」


 老紳士は驚いた表情を見せるが、すぐに温和な笑みを浮かべて礼を述べた。


「ありがとう、親切な人だね」


 老婦人はきょろりと目を動かし、俺を見た。


「まぁ、ロバート。気が利くのね」


 ロバート……? 俺はちらりと老紳士を見た、老紳士の目には申し訳無さそうな色が浮かんでいた。

 俺はニコリと笑うと、執事のアルフレッドの真似をして退席の礼を取る。


「失礼致します」

「ええ、退席を許します」


 老婦人はシワだらけの曖昧になった顔に、きっと昔は魅力的なものだったと思わせる笑顔を浮かべた。俺はもう一度、ニコリと笑顔を浮かべた。


「ありがとう、君のような素晴らしい青年と出会えたことを神に感謝しなくては」


 老紳士は穏やかにそう言った。



 俺達は二階にある部屋で降りだした雪を眺めながら、焼き菓子をかじっている。


「ねえ、どういうことだと思う?」

「襲撃のことか?」

「それだけじゃない、ユルシェルのこともよ」


 なぜ俺が狙われているかか。


「私たちを襲った奴らはダン兄ちゃんへ私たちが加勢に行けないように惹きつけるための相手だったわ」

「そうだせ。俺達を襲ったのは中級悪魔だったぜ」

「ありゃ悪魔デビルじゃない、魔神クリフォトだ」

「魔神ってなんなのぜ?」

「なんでお前、俺と色々同じなのに知らないんだ」

「俺はステータスは憶えていても、背景設定なんて興味ないんだぜ」


 魔神クリフォトというのは、悪魔の住む次元、地獄ヘルとは別の、旧地獄パンデモニウムに住む人が生まれる前から存在する怪物たちのことだ。かつては多くの次元を支配する強大な種族だったが、人間が生まれ、地獄に最初の罪人から悪魔が生まれ、そして悪魔が罪から力を得る方法を得た時に強弱は逆転した。罪を犯す人間がいるかぎり力を増し続ける悪魔に魔神は敗北した。他次元界の支配を放棄し、旧地獄へと逃げた。そういう設定の種族だ。


「さすが兄ちゃん、詳しいね」

「召喚するなら利害を重視する悪魔のほうが都合がいい。魔神の目的は罪を生む可能性のある人間を根絶やしにすることだから、召喚には応じにくいはずなんだ」

「なぜその召喚には応じにくいはずの魔神がいたのかか」


 それに存在しないはずの異色病に、正義の味方であるはずの主人公ジェイクが俺を襲ってきた。ジェイクが俺と同じように誰かの転生で、俺が悪役だと思っているから襲ってきたとすると……。

 いやダメか。クリフォトを使う理由もないし、なによりミュウまで巻き込むなんてどうかしている。どうかしているヤツがジェイクに転生したとも考えられるが。

 そもそも俺を殺すことで何が変わる? ダンフォースはなにもしなくても正史通りに進めばジェイクたちに殺されるのだ。ここで無理をして俺を襲う理由なんてあるのか?


「わからないな」


 俺は降参と両手を挙げた。


「確かに分からないことだらけだぜ」


 シシドがガリっと焼き菓子を噛み砕いた。


「でも唯一つ分かっていることがある」

「おお、なんだ?」


 シシドがニヤリと笑った。


「俺たちは何があってもダンの味方だってことだぜ」


 ミュウが俺に飛びつき、クロウは俺の右手をパチンとタッチした。


「なんとまぁ……心強い」


 俺は自然と笑みが浮かぶのを……とても止めることはできなかった。



「あ……」


 俺の首に抱きついていたミュウが声を上げた。


「どうした?」

「あ、あ、あれ」


 ミュウのかすれた声が耳へと届いた。ただ事ではない。

 俺は振り返って、ミュウの視線の先、窓の外を見る。


 ファイヤトップマウンテンの冠。月明かりに照らされた名も無き赤い花がだんだんと消えていく。


「な、なんだ……」


 俺も、ミュウも、クロウも、シシドもみなかすれたうめき声を上げた。

 赤い花が踏みにじられていく。巨大な影に踏みにじられていく。赤い冠が蹂躙されていく。

 それは荒野の巨人たちがファイヤトップマウンテンを越え、マーグマニルに、そしてアナトリア領へと侵攻していく、無言の足音だった。

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