9話
あれから数日経った。主にレベル上げとDP稼ぎを行っていた。
増えた施設や箱は以下の通りである。
施設
・部屋(6畳)X2
・部屋(12畳)X1
・窯X1→X3
・壁掛け時計X1
無限箱
・柔らかいパン 0.5斤→1斤
・牛肉LV3
・布LV2→LV3
・醤油
・みりん
・砂糖
・ニンニク
雑貨
・食器類
6畳の部屋は俺の寝室とネクとタリスの寝室だ。
12畳の部屋は訓練をする為に作った。
一応中央の部屋でも武器を振れるが、万が一白熱して家具のある方にまで移動したら問題がある。
その為、何も置かない部屋を作ってそこを鍛錬場としている。
窯は寝室の暖を取る為に設置。無限箱は食料に余裕を持つ為に設置した。
この先、仲間が増えるかも知れないので、余裕があった方が良いだろう。
食料は余っても箱から出さなければ一定以上の量にはならないし、そのままなら腐敗もしない。
醤油などの調味料は肉を食べていて欲しくなったからとしか言えないな。
布はLV3になる事で絹が出来た。これで質のいい肌着が作れるようになり、かなり助かっている。
木綿でもどうにでもなるのだが、質が良いに越した事はないだろう。
俺たちのレベルは俺とネクが15、タリスが13になっている。
そろそろボス戦に挑んでも良い頃合だろう。
最初に討伐したという話を聞いてからかなり経つ。
その人らはどれだけ強行軍を強いていたのだろうか。
見る事は無いであろう先行者たちを思いある意味呆れてしまう。
競争という訳でもないのだから急いでも仕方ないだろうに。
とは言え、先行して情報をくれるのはありがたい。
そのお陰でボスや先の階層にいるであろう雑魚の話を聞いて、対応策を練れるのは大きいと思う。
スタミナポーションやマジックポーション、通常の回復薬も3人で使うには十分とも言える量が集まっており、ボス戦への準備は整った。
最後に掲示板を見て新しい情報が無いか確認をしよう。
この数日間でボスを倒したという人は急増していた。
仲間を増やせば楽になると思いきや単に数を増やすだけだとボスの強さが跳ね上がるらしい。
数が多ければ良いという訳でもないようだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【1階層】ボス対策【オーガ】
677 名前:名無しさん
たおせねぇぇぇぇぇぇ
そろそろトラウマになりそうです。
678 名前:名無しさん
構成を言え
そうじゃないとアドバイスのしようがない
679 名前:名無しさん
俺:剣LV13 骨:剣LV13、犬:槍LV13、玉:魔法LV10、妖:魔法LV10
680 名前:名無しさん
全種かよ
骨って動きが良くないからすぐ死なないか?
だとしたら外した方がボスが弱体化するから少しはマシになるぞ
あとLV15には上げた方がいい
681 名前:名無しさん
人数で強くなるって本当だったのか
確かに骨はあっさり倒されてた
動きは遅いが硬い鎧を着ければ雑魚戦で役に立つんだよな
682 名前:名無しさん
骨は噂の変異種以外は駄目らしいぞ
変異種の報告は2個見たが、かなり強いらしい
683 名前:名無しさん
マジで?探してみようかな
684 名前:名無しさん
探して見つかるようなもんでもないけどな
完全にリアルラック
685 名前:名無しさん
よし、ここに来る前日に宝くじが当たった
俺の運を試す時が来たようだな
686 名前:名無しさん
それって不運なんじゃね?
折角当たったのにろくに使えずに意味なくなるとか
687 名前:名無しさん
(´・ω・`) ショボーン
688 名前:名無しさん
(`・ω・´)シャキーン
689 名前:名無しさん
禁句だったようだ
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
特に目新しい情報はなかった。
どうやら自力で長期戦を想定して戦うしかないらしい。
今回、俺は毒が使えるのか確かめるつもりだ。
調合スレを覗いている人が少ないのか、使えたかどうかという話を一切聞いていない。
もし効果的なら討伐がかなり楽になると思う。
この世界の毒はかなり強力なので、手足の1本でもなくなればかなり攻撃手段が限られるだろう。
そうすれば長期戦になったとしても戦い易くなる。
時計を見ると18時を越えていた。
薬品を揃える為に調合をしていてかなりの時間が経過していたようだ。
ボス戦は明日にする事にする。さすがに疲労が残った体で長期戦は挑みたくは無い。
俺は背伸びをして夕飯の準備に取り掛かった。
その後、後は寝るだけになるとお互いに寝室へと向かう。
俺は1人、使い魔2人は同じ部屋だ。
スケルトンとフェアリーとは言え、女の子と一緒に寝るのは出来れば控えたい。
主にタリスの寝相が悪い為、色々と見えてしまうのが禁欲を続けている俺には辛い。
ベッドに寝転がり、目を閉じていると扉をノックする音が聞こえた。何だろうか?
「タリスだけど、入ってもいい?」
「いいぞ。どうしたんだ?」
俺は入室の許可を出すと、タリスとネクが入ってきた。
2人とも扉の前で立っている。どうしたのだろうか?
「明日はボス戦なんでしょ? ちょっと不安になっちゃってね。一緒に寝てもいい?」
「ああ、そうか。そうだな。今日は一緒に寝ようか」
以前ボス戦で全滅していた。その件でネクが仲間が死ぬかも知れないという不安を持っていたのかも知れない。
それを察したタリスが一緒に寝る事を提案したのだろう。
タリスは何だかんだで気配りが出来るようだ。
俺がベッドに寝転がるとタリスが俺の体の上に、ネクは右腕の抱き付くように引っ付いてきた。
この部屋には窯はあるもののそこまで温度は高くは無い。
ネクの体温は無きに等しいのでひんやりしているのは困るが、不安な使い魔を追い払う程俺は非道でもない。
逆にタリスは暖かいので腕と体の温度差がかなり違うようだ。
「タリス、その羽ってどうなっているんだ?」
「羽? 自分では良く見えないからわからないのだけど……触りたいのならいいわよ」
許可が出たので俺はタリスの羽に触れる。半透明の虫の羽のような感じだ。思ったより硬く丈夫なようだ。
撫でてはいるが、特にタリスは何とも思わないようなので、もしかしたら感覚は通っていないのかも知れない。
この羽を強く動かしても飛ぶのは難しい気がする。
何か得体の知れないエネルギーでも発するのだろうか。
そうしているといつの間にかタリスの寝息が聞こえてくる。
どうやら早くも寝てしまったようだ。
フェアリーからしてみたら男女なんてないのだろう。
そういう緊張とかがないのは寂しいものがあるが、変に寝不足になるよりは良いだろう。
俺も目を閉じて左手でタリスを抱えるように眠った。
翌日、準備を終えるとミーティングだ。
ボス戦という事で知っている情報を伝えなければならない。
「ボスはネクも知って居ると思うがオーガだ。3m程の巨人で丸太を手に持って攻撃してくる。攻撃自体は良く見れば避けられないことは無い。だが、一番恐ろしいのはその体力にある。武器のせいか、俺たちのレベルのせいかは解からないが、何時間も戦わないと倒れてくれないらしい」
ここで切ってネクとタリスを見る。2人は真剣な表情でこちらを見ている。
ネクに限っては表情が解からないので雰囲気だが。
「長期戦を想定しなければならないので、スタミナポーションやマジックポーションは惜しみなく使ってくれ。この為に多すぎるほど用意はしてある」
ここまでが、他のプレイヤーがやっている部分だ。
ここからが俺のやりたい部分になる。
「そうして長期戦を行うのがセオリーらしいが、俺は毒を使ってみようと思う。もし、手足の1本でも腐敗させる事が出来れば、長期戦も楽になるだろうからな」
俺が言うとネクが頷いている。胴体はかなり硬い上に高さがある為、刃が通り難い。
捨て身で突っ込めば可能かも知れないが、それで倒せるとは限らないので挑戦するにはリスクが高い。
狙い目は足あたりだろうか。片足だけでもなくなれば、タリスの遠距離からの魔法で一方的にどうにか出来るかもしれない。
「説明はこれで終わりだ。今度こそは勝つぞ!」
俺が締める様に言うとネクは強く頷き、タリスは、はい! と元気の良い返事をする。
2人とも気合は十分のようだ。
「よし、行くぞ」
転移の石を使い、ボス前の部屋まで移動する。
そして、目の前の重い扉を開くと相変わらずオーガが中央で仁王立ちをしていた。
俺たちを見つけると置いてあった丸太を手に持つ。
以前の傷は全て癒され、最初からのようだ。
俺はネクと視線を交わしお互いに頷き合うとオーガに向かって走る。
タリスは後方で詠唱を開始した。俺たちがオーガの前まで着く前に火の矢がオーガへ迫る。
だが、その矢はオーガの丸太によってかき消された。
俺は剣をオーガの足に突き刺す。大体1cmくらいだろうか、先端は結構深く刺さった。
痛みすら感じないのかオーガは何も反応をしない。
俺はステップで距離を取るとアイテムボックスから毒の塗り薬を取り出し、剣の先端に塗る。
ネクは自分の方に注意を向ける為か積極的に攻撃をしている。
鎚で足ではなく胴や丸太を持った腕を攻撃している。
俺が足に攻撃をする予定だからそちらに集中させない為だろうか。
打ち合わせはしていなかったが、これは助かる。
俺は盾を捨て、剣をオーガの太もも辺りに深く突き刺さるように体重掛けて、両手で突き刺す。
その突きは結構な深さまで刺さり、毒が塗ってある先端全てが埋まる。
さすがに深く突き刺さった事で痛みを感じたのか、オーガがこちらへ振り返り丸太で攻撃してくる。
俺は咄嗟に剣を手放して距離を取る。
剣はオーガの足に突き刺さったままだ。
武器が無いのでは攻撃出来ないだろうと、アイテムボックスから予備の武器を取り出そうとする。
だが、アイテムボックスには武器が1つも無かった。
「あ……」
この迷宮での武器は劣化しない。その為、武器を複数持つ理由が余り無かった。
このように戦闘中に手放す事は滅多に無い。
なので、全てのいらない装備は売却していた。
ボス戦ではどんな事が起こるのか解からないから用意しておくべきだっただろう。
俺はオーガのもとへ走ると盾を回収して剣の柄を握る。
そのまま力を入れて抜こうとするが全然抜けない。
どうやら深く突き刺さりすぎたようだ。丸太での攻撃がきたので、また手放して距離を取る。
俺に出来る仕事は早くも終わってしまったようだ。
ネクがこちらを見て呆れた感情を向けてくる。凄く恥ずかしいです。
タリスの方を見ると、オーガの丸太での攻撃が届かない場所で詠唱をしている。
前に高度を下げて攻撃をされた事から、反省をしたらしい。
丸太を投げられたらどうしようもないが、そうでなければ攻撃されないだろう。
短いスカートなので、下から見ると下着が丸見えなので俺の士気も上げてくれる。
とは言え、武器がないのでは戦い様が無い。
やる事が無いので俺は盾でずっと殴り続ける。
恐らく大したダメージにはなっていないだろう。
しばらくそうして戦っていると、オーガが丸太を持っている右腕を下げる。
嫌な予感がする。
「タリス! 投擲に備えろ!!」
俺はタリスに注意を呼びかける。
あの構えが丸太を投げる動作で、当たったらタリス程度のサイズと防御力ではひとたまりも無いだろう。
タリスは詠唱を中断して丸太の方を見る。
するとすぐにオーガはタリスに向かって丸太を投擲した。
予測していただけにタリスは難なくかわす。当たらなくて良かったと思う。
そしてオーガは、投げた丸太を回収しようと走ろうとする。
そこで突然刺さっていた剣が抜けた。
オーガの太ももを見ると黒く染まっており、かなり腐敗の毒が侵食しているようだ。
俺は剣を回収すると、オーガを追うように黒く染まった太ももを斬りつける。
すると今までの硬さはなんだったのかと思うほど容易に刃が通り、そのままオーガの片足を切断する。
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」
オーガは叫びを上げそのまま転倒する。
切断された足はそのまま粒子となって消滅した。
残ったのは失った片足を押さえて転がりまわるオーガだけだ。
両手は健在な為、不用意に近寄ると予測不能な攻撃をされそうだ。
なので、タリスの遠距離攻撃に任せる。
タリスは連続して火の矢を何度も放っている。
俺は下からタリスを危険がないか凝視する。
下着が見えるがそれはあくまで副産物である。
やはり下着は履いてこそ意味があると思う。
いや、今はそういう事を考える時間ではない。戦闘中だ。
オーガは地面に片腕を付けて起き上がろうとしているが、立ち上がるのは無理らしい。
丸太でもあれば、それを支えに立ち上がることも出来ただろうが、先程投げてしまった為手元にはない。
取りに行こうにもかなりの距離がある為難しいだろう。
俺はまた剣に毒を塗り、今度は片腕を狙う為に接近する。
片腕と片足がなければ、もはや何も出来ないだろう。
オーガの腕を剣で突き刺そうとして……何故か首に刺さった。
寸前でオーガが体を捻ったからだ。
「こ、これは違うんだ。オーガが暴れるから手元が狂ったんだ!」
誰に言い訳をしているのか解からないが、何となく言ってしまう。
生物なのだから首に刺さった方が余程ダメージとして通るだろう。
剣を抜くと動脈を切断したのか大量の血が吹き出る。
当然近くに居た俺はそれをもろに被る。かなり臭い。
距離を取り、少しでも血を流したい衝動に駆られる。
さっさと拠点に戻って風呂に入りたい。
しばらくオーガの首から血が噴出していたが、それが収まるとオーガの動きが止まった。
もしかしたら戦闘は終わりなのかもしれない。
タリスは遠慮なく動きが止まったオーガに火の矢を浴びせている。容赦ないな。
そして暫くするとオーガは粒子となり消滅した。終わりらしい。
*1階層のボスが倒れました。2階層が開放されます。またこの拠点からこの部屋への直通ゲートが開放されます。*
謎のメッセージが宙に現れる。
どうやらボスを倒すとこのような表示があるらしい。
部屋の中央に光の柱が現れる。これが拠点との直通ゲートのようだ。
「何はともあれこれでボス戦は終了だな。勝利の凱旋だ」
俺はそう言うとハイタッチでもしようと片手を挙げるが、ネクもタリスも近寄ってこない。
どうしたのだろうか。
「マスター、今血塗れでしょ……凄く臭いわよ」
とタリスに言われた。そういえば、オーガの血を全身に浴びていたのだった。
オーガは消滅したが、血は残るらしい。最悪だ。
俺たちは直通ゲートから拠点に戻ると、すぐに風呂場へ向かった。
タリスも汗をかいていたのですぐに入りたがってはいたが、さすがに俺より先に入るつもりは無いらしい。
風呂へ向かうとシャワーで服を着たままお湯を浴びる。この服の血って落ちなさそうだよな……。
ともかく、明日からは2階層だ。がんばろう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マスターがお風呂場へ向かっていく。
まさか最後にこんな終わり方になるなんて予想出来なかった。
何もしなければその内魔法で倒せたのにね。
「ネク、マスターって間抜けよね」
あたしがそう言うとネクが頷く。
どうやらネクから見てもそんな感じらしい。
完璧な人よりもどこか抜けていた方が身近に感じる。
そう考えると良いマスターなのかも知れない。
「だからかな。時折格好良い事をするとドキドキしちゃうのよね」
ネクも同意するのか頷いていた。
スケルトンでもそういう感情ってあるのだろうか。
元人間であるのならそういう感情があってもおかしくは無い。
だけど、そう思うと凄く悲しくなる。
マスターがどこから来たのかも解からない。
持ってきた本を見ても全く見知らぬ世界だった。
恐らく、あたし達が予想も出来ないような所から来たのだろう。
そこに帰れないというのは不安があるのかも知れない。
だけど、あたし達の前ではそんな素振りを1度も見せなかった。
「ねぇ、ネク。あたし達はどんな事があってもマスターの味方でいようね」
あたしがそう言うとネクは頷いた。
この感情が使い魔になったからなのかは解からない。
だけど、ずっと一緒に居たい。そんな気持ちはあった。
テーブルの上に座ってそんな事を話しているとネクがあたしの頭を撫でる。
その手は骨だからか硬いけれども不思議と嫌な気分にはならなかった。
そういう感情を込めているからなのだろうか。
そんな事を話していると、マスターが腰にタオルを巻いただけの姿で出てくる。
どうやら替えの服をアイテムボックスに入れ忘れたらしい。
相変わらず変な所で間抜けである。
そんなマスターをあたし達は呆れた顔で眺める。
妖精は人間に恋をしない。仲良くはなるけれど、それが恋になる事は無く友情で止まる。
何でか理由は解からないけれども、昔妖精達の主がそう決めたらしい。
だけど、このマスターとそういう関係になれたら面白いんじゃないかな、と思えてくる。
「さて、ネク。一緒にお風呂に入りましょ」
あたしはネクを誘ってお風呂へと向かった。
この先、使い魔はどんどん増えていくだろう。
妖精であるあたしは戦闘では役に立たなくなってくると思う。
その時、解放されるのか、置いて貰えるのかは解からない。
だから今を精一杯楽しもう。