6話
剣を振り下ろし、ウィスプに叩き付ける。
すると、抵抗も無くウィスプは消滅した。
複数同時に現れると危険だが、1体ずつであれば全く問題は無い。
罠の解除も特に失敗はしていない。
罠がある箱はない箱に比べて雰囲気が違うようだ。
スキルを取得してからそういう違いが解かる様になった。
解除の方法は、鍵はかかっていないのに何故かある鍵穴から針金のようなものを差し入れて仕掛けを解除する。
この針金の様な物は常時持っているアイテムではなく、スキルを使うことをイメージすると突然現れる。
良く解からないが、気にしない方がいいのだろう。
新しい敵も今のところは出ていない。
そろそろ妖精が出てきても不思議はないのだが……。
2階も大分探索が進み、半分くらいの所まで攻略が進んだ。
最初の階層という事で通路や部屋に罠が仕掛けられている様なことはない。
至って順調だ。通路を歩いていると羽の生えた人のようなモノが飛んでいるのが見えた。
「あれは……」
俺は思わず呟いてしまう。
隣を歩いていたネクは既に警戒して鎚を構えている。
目を凝らして良く見ると大体60cmくらいだろうか。
人に昆虫の様な羽が生えている。あれが噂の妖精なのだろうか。
事前の情報だと魔法を使ってきて速い速度で飛行をするとあった。
周囲を見ても1体しか居ないし、その強さを計るには丁度いいだろう。
俺はネクと目で合図をし合うと同時に走り出し、距離を詰める。
魔法を詠唱させる前に倒せるなら倒したい。
飛んでいる妖精目掛けて剣を振り下ろす。妖精は走っている間に俺たちに気が付いたのだろう。
既に警戒をしていたのか、その剣は軽々とかわされてしまう。
「はやっ」
妖精はそのまま素早く横へ飛んだが、そのタイミングでネクが鎚を振り下ろして妖精を地面に叩き落す。
そのチャンスを逃さない様に、地面でもがいている妖精に剣を突き立てると消滅した。
「ネク、凄いな。タイミングとかやっぱりあるのか?」
俺が聞くとネクは満足気に頷いた。
どうやら、スキルとは別に戦い方を学ぶ必要がありそうだ。
あの素早さで避けて、剣の届かない上空で魔法を使われたら正直戦いようがない。
奇襲で倒せなかったときの為に、投擲用の武器などを用意した方が良いのかも知れない。
妖精とは極力戦わないようにし、1体だけ出た時のみネクに任せて倒す。
俺はその際にネクの動きを観察し、どうやったら当たるのか調べた。
と言ってもすぐに出来るような動きではないだろう。
しかし、妖精は思ったよりでかい。
この手の妖精は肩に乗るくらいの20~30cmくらいじゃないか、と思う。
と言ってもそのサイズで現れたら剣が当たる気がしないのは確かである。
飛ぶ時は羽以外の何かの動きを利用しているのか、進行方向には一定の方向性もない。
そうして戦っている内に3階へと辿り着いた。
確か、1階層が3階で出来ていると書いてあった気がする。
という事はボスとかそういうのがこの階に居るのかも知れない。
手前に6畳ほどの小部屋があり、そこには拠点の迷宮へと続く扉と同じくらいの巨大な扉があった。
恐らくそこがボス部屋に繋がっているのだろう。
気にせずに突撃してボスと遭遇し散って行った勇者からの情報である。
未だに1階層のボスは誰も倒していない。ボスはオーガらしい。
オーガとは2~3mくらいの身長で肌が緑色をしている。筋肉質で丸太の様な物を振り回してくるそうだ。
体力がとても多くかわし続けて戦ってもなかなか倒れてくれないらしい。
こっちが先に疲労を感じて力尽きるパターンが多いようだ。
長期戦を想定しなければならず、そんな戦いなんて今までした事は無い俺たちには相当苦しいらしい。
手前の小部屋に楔を設置し、俺たちは拠点へと帰還した。
アイテムボックスから未鑑定アイテムを取り出すとそれをPCの横に置く。
そして、鑑定をする為にPCの鑑定台に乗せて調べていく。
「うーん、鉄装備以上は出ないな。必要ないのは処分するか」
俺は独り言を呟くと隣に居たネクも頷いていた。
薬品と必要な装備以外を全て処分すると、2000DPも貯まった。
結構安定してきた気がする。
「ネク、家具と食料どっちを充実させたい?」
俺が聞くとネクが売買リストを見せろと言わんばかりに指を差す。
俺はそれに従いリストを開くとスキルを指差された。
アイテムよりスキルなのだろうか。
「ん? 裁縫?」
俺が聞くとネクは頷いた。もしかして俺って今臭うのだろうか。
でもスケルトンって嗅覚があるのか?
「解かった。布と裁縫道具も必要だよな?」
俺は無限箱から布を選ぶ。素材はランク毎に出る物が変わるらしい。
麻だけでは下着は無理だろうと木綿まで拡張する。
裁縫道具はスキルを使おうとすると勝手に現れるらしい。
消耗品なだけに買い揃えたり補充する必要がないようで便利だ。
「この箱から布が1時間毎に出てくるらしいから衣類の作成を頼むな」
俺がそう言って無限箱置き場に箱を置くとネクが抱きついてきた。何だろうか?
「ネク? どうしたんだ?」
ネクは首を振り、気にするなという感情を向けてくる。
足の長さや肩の幅を手で調べている辺り採寸をしているのかも知れない。
「採寸するなら測定器があった方が良いかも知れないな」
俺がそう聞くとネクは頷く。どうやら欲しいようだ。
出来れば正確に作って貰った方がこちらも助かる。
PCから採寸出来る道具を探すとメジャーしかなかった。
定規とかは無い辺り手抜きなのだろうか。
「ネク、これでいいか?」
俺が聞くと首を傾げている。どうやらどんな道具か解からない様だ。
俺は安かったのでそれを購入すると実際に伸ばして見せる。
ネクは体を使って驚いた様子を見せるが、すぐに理解したようだ。
出した物を戻してネクに手渡す。そういえば、長さの単位は大丈夫なのだろうか?
ネクが俺に立ち上がるように脇腹を押さえて上に上げてくる。俺はそれに従い棒立ちになる。
必死にメジャーで計ってはいるが、身長が足りないらしく飛び跳ねる姿が面白い。骨だから可愛くは無いが。
大体計り終えてやっと解放される。採寸は思ったより必要箇所が多いらしい。
早速裁縫を始めている様なので数日したら少しはマシな衣類が着れそうだ。
今のは背中が破けている。
他に何かあった方がいいと思われる施設を探してみる。
そういえばテーブルがないと気が付いた。
食事は全て木の箱であるベッド代わりの上で食べていた。
標準ベッドと木のテーブル、椅子を6個購入する。
後少しポイントは余っているが、全部使う必要もないだろう。
なので、ここで買うのを止めておく。
「ネク、ベッドと机を設置するからこっちに来てくれ」
俺は木の箱の上で裁縫をしていたネクに声をかける。
すぐに途中のものをアイテムボックスへ仕舞うと、こちらへ小走りでやってくる。
骨が走ってくるとかどう考えてもホラーである。
ネクが隣に来た事を確認すると、標準ベッドとその近くにテーブルと椅子を設置する。
ベッドはでかいので持ち運びは面倒だが、テーブルはネクと協力すれば特に問題は無いだろう。
ベッドが普通の物になって嬉しいのかネクが走っていく。
俺はその光景を微笑ましく見ていた。
ネクが死んだ年齢ってどれくらいだったのだろうか。
アンデッドになった事がある訳無いので、そうなった時どれくらい自我を持っているのかは解からない。
翌日、目が覚めて周囲を見渡すと、相変わらずネクが同じベッドに寝ていた。
どうやら木の箱はお気に召さないらしい。その内、同じベッドを購入しようと思う。
使い魔に対してどんな待遇を用意すれば良いのかは解からない。
自分優先で使い古しを渡した方がいいのか、同等の待遇にした方がいいのか。
ネクが話せればそういうのも聞けただろうが、スケルトンである以上無理だろう。声帯もないだろうし。
ネクが上半身を起こしこちらを見る。俺は挨拶をするとネクが頷いた。
挨拶も言葉で返せないのは不便だな。何か対応策とかあれば良いのだが……期待は出来ないだろう。
ベッドから降り朝食を作る。作るとは言え毎日の作業と大差は無い。
食事のバリエーションを増やさないとまずいだろう。既に飽きている。
「ネク、今日はボス戦に挑戦してみよう」
食事をしながら言うと、ネクは頷いていた。
相変わらず表情からは感情は読めないが、やる気があるような雰囲気だけ全身から出ていた。
どういう原理なのだろうか。
食事を終えて探索用の準備を終えると現在ある情報を確認する。
さすがに情報があるのにそれを利用しない手は無い。
明日になればまた新しい情報が入るのかもしれないが、いつまでも足踏みをしている訳にはいかないだろう。
「ボスはオーガで接近タイプの戦士だ。体力がやたら多いらしく、今の武器では相当時間がかかるらしい。回復薬は気にせずに使ってくれ」
そう言うとネクは神妙そうに頷く。
ネクは強いから回復薬の使用は万が一というレベルだろう。
問題があるとすれば俺の方である。
鎧を着込み、最後の準備を終えると石を使ってボス部屋前まで移動した。
扉を押すとギギギギギィと重い音を立てて開いていく。
抵抗は少ないのに、わざわざ音が出るのは演出なのだろうか?
だったら多少重くてもいい気がしなくはない。
部屋の中はかなり広く、走り回る余裕が十分にあるようだ。
俺はネクと視線を合わせて頷き合うと、剣を抜きボスが居るであろう場所まで慎重に歩いていく。
そこは部屋の中央あたりだろうか。
1体のオーガが仁王立ちをしていた。
「あれがボスか……」
俺は緊張した声で呟く。
そのオーガは丸太の様なものを持ち、こちらをじっと見据えている。
いきなり襲い掛かってくるわけではないらしい。
こうしていても仕方ないので、攻撃をする事を決める。
「ネク、行くぞ。決して無茶はするなよ」
俺はネクに言うとネクはオーガを見たまま頷いた。
それを確認すると俺は走り出し、一気に距離を詰める。
そのまま剣で斬りたい所だが、相手の攻撃手段がイマイチ解からない。
そんな状態で臨機応変に行動出来るほど戦闘に慣れてはいない。
こちらの攻撃範囲に入る前にオーガがこちらに丸太を振ってくる。
だが、この程度の速度はウィスプの魔法ほど速くは無いので、簡単に避ける事が出来る。
こちらに攻撃をしてきた事で隙が出来たのか、ネクがオーガの脇腹にハンマーを打ち込んだ。
だが、その攻撃は殆ど効果が無いらしい。
オーガは痛みを感じる様子はなかった。
「これは、本当に長期戦になりそうだな」
ネクの攻撃が殆ど効いていないという事は、それより劣る俺の攻撃も大して効かないだろう。
確実にじわじわダメージを与えていくしかないようだ。無理は決してしない。
あの丸太の攻撃を受けたら、こちらは一撃で致命傷になりそうである。
「全く、ハードな仕事だぜ……」
俺はわざわざ顎の下に手を添えて呟く。
もしかしたら、こんな事が出来る時点で結構余裕があるのかも知れない。
長期戦。一言で言えば簡単だが、やる方からしてみればたまったものではない。
常に相手の攻撃に気を付けながら戦い続けるなんて、慣れている者からしても、そう何度もやりたいものではないだろう。
「ハァ……ハァ……」
息が切れる。決して興奮しているからではない。
いや、ある意味戦闘が続いて興奮はしているのかも知れないが。
何度も攻撃をかわし続け、同時に攻撃をし続けている。
目の前が霞む。疲労は既にピークを過ぎていた。
このまま寝てしまえればどれだけ気持ちよく寝れるのだろうか。
だが、今は戦闘中だ。そんな事をしたらオーガに叩き潰されるだろう。
俺は剣と盾を強く握り意識を保つ。
とは言え、回避を優先している為、攻撃は消極的だ。
このままでは、遠くない内に力尽きて負けるだろう。
ネクの方を見るとこちらと同じ様で、攻撃をする回数が明らかに減っていた。
オーガにはそういうのは無いのだろうか。
以前と攻撃回数は変わらず続いている。
何度目になるかは解からない。オーガは丸太をこちらに振ってくる。
俺は足をもつれさせ、回避を失敗した。
「――ッ!!」
油断、疲労言い訳をすればいくらでもあるだろう。
俺は無理な姿勢で盾を使ってガードをする。
当然、オーガの筋力で振られた丸太を防げる訳が無く、俺はガードしきれずに吹き飛ばされた。
地面に何度かぶつかり壁の方まで飛ばされていく。
「ぐぁ……」
声もろくに出ない。疲労のせいか、痛みのせいかは定かではない。
意識は朦朧とし、立ち上がることが出来ない。
霞んだ視界の中でネクが必死になってオーガに攻撃をしている。
それでもオーガは気にせずにこちらへと向かってくる。
遂にはネクがその進路に走ってきて塞いだが、オーガはまるで寄ってくる虫を潰すように丸太でネクを叩いて潰した。
ネクが粒子になって消えていく光景が見える。
あれほど無理はするなと言ったのに……。
俺はせめて一矢報いようと剣を杖の代わりにしてようやく立ち上がる。
とは言え、剣で戦う事も出来ないだろう。
遂にオーガが目の前まで迫ってきた。オーガは棍棒を振り上げる。そして俺は叩き潰された。
「……」
目が覚めた。体が凄くだるい。
あれが死という感覚なのだろうか。
周囲を見渡すとネクが俺の腕に抱きついていた。
その体は震え、俺の死を悲しんでいるかのようだ。
俺はネクの頭を撫でる。頭蓋骨はもっとざらざらだと思っていたのにツルツルだった。
新しい発見だ。どうでも良い内容だが。
人の頭蓋骨なんて触りたくは無いはずなのに、そうしなければならない気がした。
「負けてしまったな」
俺がそう呟くとネクは顔を上げ頷いた。
俺は重い上半身をどうにか起こすと食事の準備をする。
負けて塞ぎこんでも仕方ない。
まずは食事でもして満腹になれば、そんな気分も消えるだろう。
「今日は休もう。対策を考えるのは明日だ」
俺がそう言うとネクは頷き、裁縫を始める。
どうやらもう落ち着いたようだ。俺たちは食事をしてゆっくりとした時間を過ごした。
ネクは裁縫、俺はPCで何かいい物が無いかを探す。
次は食事のバリエーションを増やす為に野菜や調味料を増やそうと思う。
翌日、目を覚まし、上半身を起こして周囲を見る。
ネクがベッドの端に座りながら裁縫をしていた。
暇があるとずっとしているな。趣味だったのだろうか。
「おはよう」
朝の挨拶をするとネクがこちらを見て頷く。
喋れないと意思の疎通が大変だ。
いつもの様に朝食を済ますと、情報収集の為にPCの前に座る。
ネクは裁縫をせずにこちらに来ているようだ。
「ボス討伐にどれくらいの戦力と方法があるのか調べないとな」
俺は独り言のように呟くと掲示板を開いた
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【1階層】ボス対策【オーガ】
122 名前:名無しさん
倒したってマジかよ
123 名前:名無しさん
長期戦の上に苦労したがな
124 名前:名無しさん
構成戦力と倒し方plz
125 名前:名無しさん
構成は俺LV15、コボルトLV15、フェアリーLV15
攻撃は軽業使えば避けられるんだが、とにかく体力が多い
長期戦を想定して調合でスタミナポーションとフェアリー用のマジックポーションを用意する
スタミナは疲労回復。マジックは魔力回復な
あとはひたすら時間をかけてがんばるしかない
126 名前:名無しさん
調合か
生産スキル全然使ってなかったな
127 名前:名無しさん
何気に生産スキルって便利だぞ
フィールドで素材狩りが出来ないから無限箱依存になるが
色んな効果を持っている薬品を作れる
128 名前:名無しさん
確かに調合は便利かもな
薬品ってここの売買で買えないからドロップしか頼れなかったし
129 名前:名無しさん
裁縫しかやってなかったわ
下着は自分で作った
130 名前:名無しさん
うpよろ
131 名前:名無しさん
すまん、俺男
132 名前:名無しさん
俺・・・男でもいいんだぜ・・・?
133 名前:名無しさん
ウホッ
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ポーションか……確かに敗因は疲労の限界が来たからだよな。レベルも15は必要らしいが……」
今の俺とネクのステータスを表示するとLV10だった。全然足りていない。
戦力も3人居たみたいだし、もう1人補充が必要かも知れない。
「ネク、使い魔を増やそうと思う。フェアリーで問題は無いか?」
俺がそう聞くとネクが頷いた。特に問題は無いらしい。
調合を取り、薬草の無限箱の回復草、強靭草、魔力草を解放する。
これで回復、スタミナ回復、魔力回復のポーションを作れるはずだ。
また、拘束をする為にあのボールの補充を行う。
「さて、フェアリーの捕獲か」
楔がボス前の部屋にあるからそこから階段で上がった所にいるだろう。
俺とネクは装備を装着すると石を使ってボス部屋の前まで飛ぶ。
そして近くにある階段を上がり2階へと移動する。
「さーて、フェアリーはどこかなーっと」
そうしてコボルトやウィスプを倒しながら探していると2体のフェアリーを発見する。
「ネク、片方を頼む。そっちは倒しても良い」
俺は指示を出し、ネクと同時に走り出す。フェアリーは火の矢を放ってくるが、正面からの攻撃に当たるほど軽業スキルは低くは無い。
魔法のあとの硬直を逃さずに俺はフェアリーに剣を振り下ろす。それだけでフェアリーは落下し、地面でもがいていた。
以前の様に簡単にかわされることはない。俺だって日々勉強をしているのだ。
一撃で落下させただけでフェアリーは瀕死の様だ。拘束アイテムを投げ付け玉に封印をする。あっさり出来てよかった。
横を見ると既に戦闘を終えていたネクがこちらを見ていた。
「成功した。戻るぞ」
ネクに声をかけると頷いているのが見える。宝箱を開けて俺たちは帰還をした。