いじめやんといて
最初に言うとくけど、うちはあんた達が思うほど軽い女やないからね。
そりゃお水の女やし、作り笑顔も振りまくしちょっと位触られるのも平気。
そやけど勘違いせんといてな、夢は売るけど身体も心も売り物やない。
うちの心も、身体もうちだけのもんや。
本名篠崎京子、でもお店では翔子、まあ源氏名言うやつやな。
18の時からやから、翔子と呼ばれるのも、もう10年以上。
今はどっちが本名がわからんくらいや。
あっ、言うとくけどこれでも結構人気あんねんで♪
今まで100回位は結婚申し込まれたし。
まあ、酔っ払ったお店のお客さんがほとんどやけどな‥
そんなうちが、なんでこんなとこにおるんやろ。
それも、今日初めて会うたお客さんと。
ここ?
ここは、そのう……
ホテルや!そう、ラブホテル言うやつや。
ホンマに!
うちとしたことが。
ちゃうで!
なんもしてへんで!!
そう、いわゆる緊急避難言うやつや。
しゃあなかってん。
だって、この人捨て犬みたいやってんもん。
うん!うちは捨て犬をひらっただけや。
いらっしゃいませぇ。
エリカママの声が、お店に響く。
「「「「いらっしゃいませぇ」」」」
うちを入れて、お店には女の子が四人。
カウンターが8席に、ボックスが3つ。
スナックとラウンジの中間の店。
女の子指名して、ボックス席でも飲めるし、カウンターで少し安く飲む事もできる。
「全ての酔っ払い男に一夜の夢を」
というのが、ママの経営方針らしいわ。
そして、今やこの店の一番の古株が、うち翔子と言う訳や。
お客さんは三人。
二十代まん中くらいかな。
比較的いかつい感じの二人に支えられるように、こいつ章吾はやって来た。
ちょっと見には女の子のような顔立ち。
その顔の下の筋肉質な体つきと、180cmはあるかとおもわれる身長がアンバランスな雰囲気だ。
お店に入って来た時から、すでに章吾は出来上がっていた。
残念会の二次会とかで、三人はボックス席に座る。
え〜と、この店初めてやねんけど……
こっちのカウンターで飲むんやったら、セット一人3500円とボトル代。
ボックスやったら、セット3500円は一緒やけど女の子指名してやってな。
もちろん、ボトル代と指名料は別。
分かった。
ほんなら、ボックスで…
指名は‥‥
そのお姉さんこいつのとこに。
あと、そのピンクの子もおいで。
かんぱ〜〜い!!
初めましてぇ、翔子で〜す。
明菜で〜〜すぅ。
ん???
違う、違う、章吾。
お前やない。ほら、このお姉さん翔子さんやねんて。
あぁ‥そう‥俺、章吾。
章吾と翔子か……
ややこし‥
や、ややこしって。
ゴメン。
今日はこいつの残念会やねん。ちょっと落ち込んでるから、許したってな。
ふ〜ん。
聞いてもええ?
なにを?
残念会…って?
ああ、それか。
こいつ、章吾な役者の卵やねん。
今日、今度の舞台の配役の発表でな見事主役落選や。
うるさい!!
落選ちゃうわい!
あいつらに人をみる目がないだけや。
はい、はい。
そうやなぁ。
ふん!なんにもわからんくせに。
章吾、残念なんはわかるけど、お前酔い過ぎ。
お姉さん、あっ!翔子さん、こいつ慰めたってなぁ。
ええ〜っ!
明菜、章吾くんタイプやのにぃ。
明菜が慰めたるぅ。
ほらな、やっぱり何処行っても女の子はこいつが独り占めや。
俺らかって、結構いけてると思うけどなぁ。
なあ、謙一。
おう、明良兄ちゃんも俺もかっこええはずやねんけどなぁ。
あかんか、明菜ちゃん?
ま、まぁ……なぁ‥
やめとき、謙一。
ムダみたいや。
ほんでも。
そうや、こいつ章吾はムリやで。
こいつ、年下とタメはあかんねん。
ええ〜っ!?
なんでぇ?
知らんなぁ。
本人に聞いて。
なんせ、昔からこいつが好きになるのは歳上ばっかりや。
ふ〜ん。
そしたら翔子姉さんかぁ〜〜。
ざんねん〜。タイプやねんけどなぁ。
おっ、俺は明菜ちゃんタイプやでぇ。
あらぁ〜ん♪謙一くん、この正直者。
まあ、しゃあない謙一くんで負けといたるわ。
負けといたるって、あんた!
ゴメン!間違い、謙ちゃ〜〜ん。
仲良うしょうなぁ。
そして、そのまま閉店まで盛り上がった三人は、
いや、正確には二人(章吾はほとんど寝ていた)帰って行った。
お疲れ様、翔子ちゃん。
ママもお疲れ様。
明菜ちゃん、ありがとうね盛り上げてくれて。
ううん。翔子姉さんもお疲れぇ。
おやすみぃ。
また明日ねぇ〜〜。
明日も晴れるんかなぁ?
ここから見える夜空は、いつもなんかボンヤリしてる。
星も、お月さんも…
あれ??
なに?今なんか動いた。
あの角のあたり、犬か猫。
違う!人間や!!