第1話 協力という幻想
「第1ラウンド、開始。」
目の前のカードを見た瞬間、俺は悟った。
――このゲーム、引き分けにはできない。
スマホの通知音が鳴った。
画面には、大親友のアイコン。
俺は都内の大学に通う、ごく普通の大学生だ。
いつもならすぐ返信する。だがそのときは、ちょうど勉強を始めたばかりで、通知を無視した。
五分後、また鳴る。
「明日、来れない?」
既読をつけるのをためらいながら、メッセージを開く。
「今話題の稼げるゲームがあるんだけど、一緒にどうかな?」
「勝てば賞金がもらえて、1億円だって」
手が震えた。
一億円。
桁が、違いすぎる。
あいつとは小学生からの付き合いだ。
登下校も、放課後も、いつも一緒だった。
そんなあいつが、怪しいことに手を出すはずがない。
――そう思いたかった。
「怪しいものじゃないから安心して~」
「どうしてももう一人必要なんだ」
「二人一組ってこと?」
「うん」
「明日、来れない?」
頭の中で警鐘が鳴る。
つい二週間前、大学でマルチ商法や投資詐欺の注意喚起セミナーを受けたばかりだった。
普通なら断る。
でも――
ここで断ったら、
もう二度と、あいつとは会えない気がした。
俺は送信ボタンを押した。
「わかった、行くよ」
その一言が、すべての始まりだった。
翌日。
指定された場所は、都心から外れた雑居ビルだった。
外壁は剥がれ、窓はひび割れている。まるで廃墟だ。
中へ入った瞬間、黒服の男にスマホを奪われた。
「ここから先は自己責任です。後戻りはできません」
背後で、扉のロック音が響く。
逃げ道は、消えた。
案内された部屋に、あいつはいた。
「……ごめん」
震える声で、そう言った。
事情を聞かされた。
道端で拾った謎のシール。
そこから飛んだSNSの投稿。
そして届いたメッセージ。
「二人で挑む近未来ゲームへようこそ。参加は取り消せません。明日10時、指定場所へ。二人で来なければ――あなたの命はありません。」
だから俺を呼んだのか。
「返信くれたの、お前だけだったんだ」
そう言って、あいつは笑った。
昔と同じ顔で。
だから俺は、怒れなかった。
あいつが、いつもの調子で言う。
「なあ、二人でやるんだよな?」
「うん」
「じゃあさ、協力ゲーってことだろ?」
少し笑う。
「俺ら、昔からコンビ最強だったし」
俺もつられて笑った。
「たしかに」
二人一組なんだ。
助け合うゲームに決まっている。
――そう思っていた。
モニターに映像が映る。
「DIRTY DEAL GAMEへようこそ」
ゲームマスターの声が響いた。
「『DIRTY』は不正。『DEAL』は取引。裏切りと誘惑のゲームなのです」
裏切り?
俺は隣を見る。
あいつも、固まっていた。
テーブルの上には、十九枚のカード。
自分の色のカードを取れば、数字×1億円。
タツマキカードは、相手にマイナス5億円。
4ラウンド終了時、より多く稼いだ方が勝者。
敗者は、その差額を負債として背負う。
だが、例外がある。
「両者同額であれば、引き分け。賞金も負債も発生しません」
つまり――協力すればいい。
俺たちは目を合わせた。
「引き分けにしよう」
当然の選択だった。
どちらかが勝てば、
どちらかが地獄に落ちる。
友情か、金か。
答えは決まっている。
……はずだった。
「第1ラウンド、開始。」
カードをめくる。
そこに書かれていた数字を見て、息が止まった。
……まずい。
これじゃ、計算が合わない。
引き分けにならない。
視線を上げる。
そこには、俺を疑いもしない親友の顔。
信じ切った目。
その奥に、未来が見えた。
一億円。
億り人。
成功者。
そして――
裏切り者。
俺はカードを握りしめた。
この瞬間、
俺たちの友情は、試されている。
(続く)




