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35話 逃げる王、追う勇者

トガリの激昂に、村人たちはざわめいた。

しかし魔王は落ち着き払った声で彼らを諭す。


「心配はいらぬ。勇者の攻撃をこちらに向けさせぬための挑発だ」


「で、ですが……ザムザ国王ご自身が危険では?」

村長が慌てて声を上げる。


魔王はため息交じりに答えた。


「すぐに死ぬような男ではない」


「なぜ、そこまで……? 国王にとって我らは敵方の、ただの通りすがりの村に過ぎぬのに」


魔王はほんの少し誇らしげに笑った。

それは優秀な後輩を他人に自慢するかのような響きだった。


「そういう男なのだ、あいつはな……。

さあ、避難するぞ。戒厳令時の手順は定めてある。

近くの町へ行け、必ず受け入れてもらえる」


魔王は村人たちを導き、その場を後にした。


――


オレは横目で村人たちを確認する。避難は順調に進んでいる。

残る問題はただひとつ――このトガリを村から引き離すことだ。


「よそ見してんじゃねえぞ!」


剣が眼前をかすめる。

だが、その動きは粗雑で、間合いすら分かっていない。


「もう少し工夫したらどうだ?」


「うるせえええっ!」


勇者はめちゃくちゃに剣を振り回すが、当たる気配はない。


「お前さ、剣なんてやめたらどうだ。近距離しか攻撃できねぇくせに」


「剣で倒した方がカッコいいだろうが!」


……ああ、そう。


オレはこの勇者が嫌いだった。

力を持ちながら無責任に暴れ、他人の大事なものを承認欲求のためだけに壊していく。

それに挙動がいちいちムカつく。


――一度、性根を叩き直してやりたい。


「なあ、勇者。ゲームをしようぜ」


「……ゲーム?」


「追いかけっこだ。オレが逃げる。お前がオレを殺せたらお前の勝ち。

逃げ切れたらオレの勝ち。単純だろ?」


トガリは鼻で笑った。


「バカにしてんのか? 今と何が違うんだよ」


「バーカ。さっきまではお前に付き合ってやっただけだ。

本気で逃げる気になれば、いつでも逃げられた」


「オレを認めさせてみろよ、トガリ」


そう言ってオレは風の魔力で弓を形作り、狙いを定める。


「じゃあ――よーい、どん!」


矢を放つと同時に、オレの身体は風をまとい、空へと舞い上がった。


トガリは吠えながら突っ込んできた。


剣を振り下ろす――狙いは雑すぎて当たるはずもない。


……だが、外れた剣筋に沿って石畳が“ごっそり”消え失せた。


地面が抉れたのではない。存在そのものが無かったことになった。


「チッ……遊び半分でこれかよ」 オレは額に汗を浮かべる。


戦術はゼロ。 子供がオモチャを振り回してるようにしか見えねぇ。

だが、そのオモチャは世界を切り取る化け物だ。


一撃でももらえば終わり。 油断した瞬間、存在ごと消される。


「……やっぱ、笑えねぇな」

オレは矢をつがえ、トガリの動きを睨み続けた。

こいつは弱い。だが、同時に最悪に強い。



トガリは剣を構え直すと、舌なめずりをした。

まるで子供が新しい遊びを見つけたかのように、目をぎらつかせている。


「おい、王サマァ……! 逃げ回るばっかで、楽しいかよ!」


虚無を纏った剣が横薙ぎに振るわれる。

建物の壁が半ばごと“消え”、

その向こうにあったはずの灯火までも掻き消えた。


ぞっとする。

破壊ですらない、世界の“欠落”。

あれを受ければ、肉も骨も心臓も――証拠さえ残らない。


オレは矢を放ち、すぐに風をまとって後退する。


ヒットアンドアウェイ。

当てたら逃げる。それを徹底するしかない。


矢は虚無の刃に弾かれ、消えた。

だが、狙いは当てることではなかった。

一瞬でも奴の動きを止められればいい。


「チョロチョロしやがってぇえええ!!!」

トガリはさらに吠えた。


だが吠える声とは裏腹に、奴の顔には焦りが浮かび始めている。


虚無の剣は強力だ。だが無尽蔵じゃない。


「…オレを逃がすつもりか? 勇者サマよ」

挑発気味に吐き捨てる。


トガリは真っ赤な顔で怒鳴り返した。

「うるせぇ! 逃がすもんかよ! 

オレは勇者だぞ! 勇者なんだぞぉおおおっ!」


その叫びは、勝利の雄叫びではなかった。

承認を求める、子供の泣き声に近い。


オレは矢をつがえ直し、口の端を吊り上げる。


「だったら証明してみろよ――“勇者”ってやつをな」


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