33話 ヒット アンド アウェイ
「効かねぇぞ!!!!!」
トガリは叫んで剣を振りましているが
広範囲にわたる魔法には剣の効力を
あまり発揮できていない様に見えた。
だがこのタツマキはトガリに
ダメージを与える意図はない。
タツマキは上を覆っていた
天井を巻き上げて
上空に逃げる風穴を開けた。
「魔王!!!」
オレは魔王を抱きかかえ
そのまま上空へと
退避する。
何も相手の得意そうな
土俵で戦ってやる必要は
ないのだ。
「待ちやがれ!!!!」
トガリはオレ達を追おうとするが
対応する術を知らないらしい。
あの概念武装という能力であればオレなら
遠・中・近そして大勢の敵に対する広範囲の攻撃
それぞれの対応を考えている事だろう。
が、トガリにはそれがない。
自分がどこまで出来て何が出来ないのかの
把握を自分自身でしていないという事だ。
自分で戦術を練り込み、どのように勝つのか
という事を考えてこなかった証拠でもある。
つまり、戦術的なセンスはゼロだといえた。
巨大な能力を持っていても子供がオモチャを
振り回しているにすぎないのだ。
「オイ!!!調子に乗るなよ!!!
俺様は強いんだ!!!必ず追い詰めてやるからな!!!」
自分の方法で全て上手くいくと思い込み、
他人を認める事すらできない
トガリの哀れな遠吠えだった。
魔王は炎の槍を作り出し
それを勇者に向けて投げつける。
炎の槍が壁を貫いた瞬間、轟音とともに石壁が弾け、
炎の奔流が廊下を飲み込んだ。
瓦礫の向こうからトガリの笑い声が響いた。
それでも時間稼ぎにはなるだろう。
魔王が疲れたように息をついた。
「あれは、能力は強いが中身は子供だ
わかるだろう?」
オレはコクリとうなずく。
ザムザと魔王の姿を、
トガリはただ見ている事しかできなかった
▼
トガリとの戦闘の後
オレは魔王と共に
近くあるという魔王領の村へと
向かった。
体制を立て直す為だ。
魔王が率いていた軍勢に
合流するという案もあったのだが
好戦的な為、もし魔王が軍勢と合流すると
トガリとの闘いで被害が広がってしまうと
という事で却下となった。
その村は
かつては人間領の近郊に位置しており
貿易などもしていたので
比較的人間に対しても
温厚な種族との事だった。
と言っても
勇者の出現で戒厳令が出ている為か
人影はまばらだった。
オレと魔王の姿を獣人の子供が
窓から見ており目が合うと
手を振ってくる。
「できれば、手を振り返してあげて欲しい」
そういうと、魔王はにこやかに笑って
子供達に向かって手を振り返してあげていた。
オレもそれを真似する。
なんだよ、穏やかな所じゃねぇか。
魔族なんて言うからもっと殺伐
としているのかと思っていたが……
そうこうしている内に
村長の家にたどり着いた。
村長は小柄な老いた獣人だった。
「前に来たときは餓死者が
そこら中に転がっているほど
ひどい状態だったが
村長、よく復興してくれた」
「みな、魔王様のおかげでございます。
資金を援助していただなければ
今ごろは野垂れ死んでいたでしょう」
村長は魔王の姿を一目見ると深々と
お辞儀をした。
そうか……先輩の統治は
こんな辺境の隅々にまで行き届くほど
すごいのか。
数日の書類仕事で悲鳴を上げている
オレとはえらい違いだなと
すげぇよなぁ……
オレは自嘲した笑いしか出てこなかった。
その後は一つの部屋に通され
食事を用意してくれた。
質素なものだったが
食事はとても美味しかった。
「さて、勇者の対策についてだが
ヒメジマ、お前はどう考える?」
食事を終えて魔王が切り出してきた。
「個人だとすれば間違いなく強力な能力だ。
軍隊で戦おうとすると逆に被害が
広がる可能性がある。
少なくとも正面切って戦う必要はない。」
「ただし、その戦闘技術は拙いとしか言いようがない
確かに能力は脅威だがそれはあくまでも
自分の目の届く範囲だけの話だろう。」
魔王もコクリとうなずく。
同意見だと言いたいのだろう。
「恐らく持久戦は未経験だろう。
奴はあの能力がどこまで持続するかは
個人として把握していない。」
「集中力がなく短慮だから
罠にも弱い筈だ。
対応力に汎用性がない。
「不意打ちも有効だろう」
「だとしたらこちらが取り得る
戦略は?」
魔王の問いにオレは答える。
「ヒットアンドアウェイだ」
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