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27話 焼きそばの味を覚えているか

「中谷3曹……」


天幕内で座っている魔王は

みればみるほど

生前の先輩であった。


懐かしさで胸が締め付けられる。


オレは席に座る。



「久しぶりだな、姫島。

まさかこうしてまた会う事があるとはな。

複雑な気分だよ」



「オレもです……」


どうにもならなかった現実。

どうにもならなかった戦争。


自分達の生前の願いは

何一つ満たされなかった。


国を守れたかと言えば守れなかった。


苦しんで


苦しんで


苦しんで


ただ、死んだだけだ。


それは目の前にいる中谷さんも同じだろう。


無念の死。


けど、それと同じくらい日常の生活や

仕事、その思い出もあった。


様々な思いでが錯綜して何から話せば

いいのかわからなくなってしまう。


この感覚は言葉ではうまく表せない。


話したい事はたくさんあったはずなのに

天幕は静寂に包まれていた。



「覚えていますか……?

駐屯地で祭りの焼きそばの事……」


オレ達の所属していた陸上自衛隊の駐屯地では

毎年の夏に駐屯地を開放して地域交流の為に

祭りが行われていた。



「あの時、中隊で屋台をやった時

中谷さんが焼きそばを作ったんですが

それが、まぁ不味くて!!!」


「失礼な奴だな!!!

イイんだよ皆酒を飲むんだから

少しくらい味が濃い方がいいだろう!!!」


魔王が少しムッとしたように答えた。


「あれは、味が濃いなんてものじゃ

なかったですよ!!

結局、大量に在庫が余って

全部オレが食べたんですからね!!」


「そんな事をいまさらになって言われても困る!!

あれでも一生懸命作ったんだ!!!」


「分かってますよ!!!

だから全部オレが食べたんですって!!!

生前は気を使って言えなかったんだ」


二人が笑った。


他愛もない会話。

他愛もない日常の話。

けど、かけがえのない思い出。


それを話すのが楽しかった。


日本で戦争が起こらなければきっと

こんな下らない事を言い合っていただろう。



「もう、戻れないんですよね……」


「……日本がどうなったかも

わからないからな…」



「国の為に戦って、死んで…

死んだ先でもまた戦って……」


「オレ達は何なんですかね…?」


「………」


魔王は黙り込んでしまう。



「もう、終わりにしませんか?」


オレは意を決して問いかける。


しかし、返答はオレが

望んだ答えではなかった。


「それは、できない……」


魔王は何かを噛みしめる様に

答えた。


オレは息を呑み、その一言の重さを噛みしめた。


天幕の外では、かつて命を賭して戦った兵たちの息づかいがかすかに聞こえる。

だが中では、ただ二人の鼓動だけが静かに響いていた。


「……なぜですか」


自分でも驚くほど、声が震えていた。


魔王――いや、中谷三曹はゆっくりと顔を上げた。

かつて訓練場で見た、あの凛とした瞳のまま。


「ここで終われば、私は楽になれる。

 けれど……私が背負ってきたものは、私だけのものじゃない」


「背負ってきたもの……?」


「地潜族も、獣人も、空を翔る者も。

 みんな、この世界で居場所を奪われ続けてきた。

 ようやく手にした“居場所”を、私が終わらせたら――

 あの子たちは、また奪われる」


声は静かだ。

しかしその奥には、血を吐くような決意が滲んでいた。


「私は、彼らに約束した。

 二度と誰にも踏みにじらせない、と」


フォビィの小さな体が、ザムザの脳裏に浮かぶ。

あのとき魔王が流した涙。

守ろうとした未来。


「だから……たとえ、お前がかつての仲間でも」


魔王はほんの一瞬、微笑んだ。

それは戦場の王ではなく、懐かしい先輩の顔だった。


「私は、魔王であることをやめられない」


俺は拳を強く握りしめる。

言葉が出ない。胸の奥で、何かが軋んだ。


「アンタがそこまで背負う必要、ないでしょうが!

 何でそこまでするんだ!!」


「私が魔族に救われたからだ」


「どういう意味です?」


魔王は一呼吸置き、意を決したように口を開いた。



「私は自衛官時代、死ぬ直前の夜――

 一般市民にレイプされた」



俺は思わず息を呑んだ。

心がぐしゃぐしゃにかき乱される。

なぜ、そんなことが。


「夜、子どもが攫われそうだったから助けようとした。

 迂闊だったよ」


「何よりショックだったのは、周りで見ていた人間がいたのに、

 見て見ぬふりで立ち去ったことだ」


「私たちは、そんなものを守っていたのか

……そう思った」


静かな言葉が、刃より鋭く俺の胸を裂く。


「私は、人間に失望したんだ」


――そうか。

俺は国に裏切られたと感じて死んだが

先輩は“人間そのもの”に裏切られたのか。


責めることなどできない。

どうしようもないやるせなさが胸を満たす。


「異世界に来て、魔王という役割は、

 「心が死んでいた私を救ってくれた」


「ジグムント以外の四天王は、出会った時はまだ子どもだった。

 お前が切ったフォビィもな」


「皆、純粋で仲間思いで、互いに支え合っていた。

 その姿が美しくて……

 ああ、これこそ私が求めていたものだったと、思い知らされた」


中谷三曹は静かに結ぶ。


「だから、私は魔族を見捨てることができない」


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