26話 戦場に響く、愛の号令
前線に、一人の女性が現れた。
ユリシアである。
魔王領後方で反乱を起こすため、
数日間王国を離れていた彼女が――今、戦場に戻ってきた。
「馬鹿共がぁああああああ!!!!
なぜザムザを、むざむざ魔王の元へ行かせた!!」
雷鳴のような怒声が、戦場の喧噪を一瞬で切り裂く。
あまりの剣幕に、兵士たちが思わず足を止めた。
「力ずくでも止めんか!!
何のために反乱を起こしたと思っている!!」
ユリシアの瞳は怒りに燃え、声は鋭い刃のように響き渡る。
「まさか奴らは、自分たちが死ねばこの戦が終わると――
本気で思っているわけではあるまいな!!」
彼女は振り返り、戦場全体を睨み据えた。
「終わらんぞ!!
互いに死兵と化しているのだ!
あの二人以外に、誰が止められる!!!!!」
魔王の重臣を捕らえ、後方では反乱も起こした。
ユリシアはすでに手札をすべて揃えていた。
「魔道兵どこだ!!
一刻も早く、わたしの声を戦場全体に響かせろ!!」
◆
『――魔王軍、王国軍、全軍、戦闘を止めよ!!』
空気を震わせる声が、戦場の端から端まで届いた。
その大音声に、剣を振るっていた兵たちが一斉に動きを止める。
「ユリ……シア?」
苦心する俺の耳にも、その声が鮮烈に届く。
『私はマンネルハイム王国王妃、ユリシア・ヒレツ!
魔王に告ぐ!』
その言葉は風となり、血と火薬の匂いに満ちた戦場を駆け抜けた。
『我が王国は停戦を望む!!
この要求を呑まねば、現在捕虜となっているマクシミリアを処刑する!!
受け入れれば、必ず解放する!!』
『後方では反乱が起きている。
貴様も後があるまい。悪い条件ではないはずだ!!』
そして――声がひときわ高くなる。
『何より!!
わたしの夫、ザムザを殺されるのは困る!!」
『愛しているからだ!!!』
何つーことというんじゃアイツは!!!!!
戦場にいた誰もが息を呑んだ。
さっきまでの陰鬱な空気が、鮮烈に吹き飛ぶ。
魔王はフォビィの亡骸を、そっと地面に横たえた。
そして静かに立ち上がる。
「……ヒメジマ士長。いい嫁をもらったな」
「へっ?」
思わず間の抜けた声が出た。
魔王は迷いなく魔法陣を踏み出し、朗々と全軍に命じる。
「全軍に告ぐ!!
停戦を受け入れる!!
ただちに戦闘をやめよ!!」
その一言で、戦場に張りつめていた死の気配が、ふっと霧散した。
剣が、ひとつ、またひとつと下ろされていく。
風だけが、戦場を駆け抜けた。
俺は深く息を吐いた。
剣を握る手が、ようやく現実の重みを取り戻していく。
――戦は、終わった。
▼
荒涼とした大地。
王国と魔王軍のせめぎ合う、ちょうど
中間地点に一つの天幕が設けられた。
停戦の会談の席を設ける為である。
ここで停戦における正式な条件が
決定される。
両陣営が整然と軍隊を整え、
その天幕を見守っていた。
互いの代表者が一人
天幕の中に入る事になっていた。
魔王軍側からは魔王が
王国側からはオレが行く事に
なった。
「ワタシが行く!!!!
政治的な交渉ならワタシなら
優位に進められる!!!」
ユリシアはそういって
聞かなかったが
「まあ、政治的な話はそうなんだが
オレ、個人としては魔王と話がしてみたくなった」
「んんんん?
んんんんんんんん?
浮気ではないか!!!!!!」
オレはユリシアにスパァンと頭を
引っ張られる。
「ごめんごめん、そんなんじゃない
お互い国首としてだ。
話がしてみたいんだ」
「いいか!!!!
ワタシは側室は認めると言ったが
魔王だけは絶対にダメだ!!!
政治的にもだ!!!
それだけは覚えておけよ!!!」
ユリシアはオレの胸元を掴み
グワングワンと振り回す。
ダメだこりゃ。
どうやら変な地雷を踏んでしまったらしい。
普段、理知的なのに
何か気に障るとすぐに
話が通じなくなる。
どうしてこうなんだろうなぁ…
オレはユリシアにばれない様に小さくため息をつく。
バレるとまたやかましいからだ。
胸の奥に張り詰めた戦場の疲労が、
ふっと緩むのを感じた
「ユリシア」
「なんだ?」
オレはそっと自分の唇をユリシアの唇に重ねる。
「ありがとう、
マクシミリアの捕縛や
後方での反乱。
そして停戦交渉。
お前がいなければこの戦争は終わらなかった」
ユリシア独断での停戦交渉ではあったが
あれがなければオレはどうなっていたか
わからなかった。
「ユリシアはオレの最高の嫁だ。
愛している」
オレは素直に伝える。
「む、むう……」
あまり、褒められ慣れてない為か
ユリシアは頬を赤く染めている。
「交渉にはオレが行く。
ダメか?」
「わ……わかった……」
良かった!!!
納得はしていないようだが
言質は取れたぞ!!!
ユリシアの気が変わらない内に
オレはそそくさと交渉場へと向かう。
天幕内は簡素なものだった。
中には机が一つと椅子が二つ。
薄暗い中で外部からの隔絶を
感じていた。
一つの椅子に女性の魔族が座っている。
魔王エルナンデス。
いや、その正体は
生前、死ぬ寸前まで一緒に日本の地で戦っていた
WAC(女性陸上自衛官)その転生体。
「中谷3曹……」
オレのつぶやきを聞き
魔王はニコリと微笑んだ。
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