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25話 斬れない理由

刃と刃がぶつかり、

火花が弾ける。


甲高い音が戦場を震わせ、

周囲の兵たちはただ息を呑んだ。


ザムザの腕がしびれる。

力だけなら圧倒的に魔王が上。

だが押し返す――。


己の体重と足腰、

これまで積み重ねてきた戦いが、

今まさに試されていた。


斬撃。

火花。


互いの視線が交錯し、

一太刀ごとに

命の重みがぶつかり合う。


魔王の剣がかすめた瞬間、

ザムザの頬に赤い線が走った。


だが痛みは感じない。

その瞳は、

ただ前だけを見据えていた。


懐かしい感じがした。


オレは覚えている。


その剣筋も

その足さばきも

間合いも

その息遣いも


全く同じだ。


戦ってみて分かった。


魔王は転生者だ。

それも、オレが知っている人物の。


だから癖も知っている。


駐屯地での剣道の試合の際

オレはいつもその隙を

突かずに

わざと負けていた。


先輩の顔を立てたかったから。


優しい、先輩に思いっきり勝つのが

気が引けたから……


向こうも恐らく

気付いているだろう。


先ほどから視線が揺らいで

いるのが分かるから。


だから勝つことが

出来る。


向こうの太刀筋を

知っているから。


どうすればいいか

分かるから。


くそったれの運命とやら

今この瞬間を心底の呪うぜ…


目の前にいる魔王は

オレが生前、最後の寸前まで

一緒に戦った先輩なのだから。


そいつと今この場で

切り合わなければ

ならないのだから……


魔王が決めに来る。

面を打ち込む気だろう。


ダメだよ。


あんた、優しすぎて


昔から決めにくるときの

踏み込みが甘いんだから。


ほんの少しの躊躇。


それが命取りになる。


オレは魔王の

上段からの攻撃を

かわして


魔王の懐に入り込む。


魔王が目を見開くのが

分かった。


そのまま胴へと

剣を薙ぎ払った。


鮮血が飛び散った。



オレが魔王の腹を

切りつけようとしたその瞬間。



地面の下から何かが出てくる。

その何かは魔王を庇い

代わりに胴を切り裂かれる。


オレの手には確かな手ごたえだけが

残っていた。



「ファオビィィイイイイイイイイ!!!!!」



ドサリと倒れた小さな魔族を

魔王が愛おしむ様に

抱きかかえる。



ここは戦場でオレが

今まさに殺そうとしている

にも拘わらずだ。



あまりの事にオレは気が動転して

動く事が出来ない。


一人の人間として

邪魔してはいけない気がした。



魔王と必死に手を繋ぎ

語りかけている。


ボロボロと大粒の涙が零れ

大地へと吸い込まれていく。


フォビイは魔王軍を立ち上げる前からの

功臣であり地潜族の長である。


そして魔王にとって苦しみも喜びも共にした

かけがえのない仲間であった。


「フォビイ…死、死ぬな

なぜ、出てきたのだ……

まだ、まだ、これからではないか……

余はやっとお前達を幸せに…」


「お、覚えているか?

昔、余はお前たちを守り幸せすると言った…

お前がこうなっては意味がないではないか…」


フォビィはコクリ、コクリと魔王の声に

うなずきながら聞いていた。


そして今わの際に

何かを必死に伝えようとしていた。


「マオウサマ…

イキテ……シンジャ……ダメ…」


「マオウサマ……イテクレルコト…

ソレガ…ワタシタチノ……シアワセ」


「マオウ…サマ……アリガトウ……」


「ダイスキダヨ………」


それだけ言い終わると

小さな手がコトリと地面に落ちた。


「くっぁあうううぅうううう

あああああっぁあああああああああ!!!!」


言葉にならない魔王の絶叫が聞こえる。


何だよ、これ……


ついさっきまであんたは強大な

敵だったじゃないか…


そのままでいてくれよ……


『どうしたの?

斬っちゃいなよ?

大チャンスじゃない?』


耳元でヴァルキリーの

ピノが囁く。


「ああ……斬る」


オレは斬れない。


『どうしたの?

ほら早く

わかってる?

こうしてる間にも味方が死んじゃうんだよ?

ピノちゃんはアナタの決断が見たいんだから』


ピノが囁く。

自分の狂気にオレを取り込む様に

オレの傷になるように。


「そうだ斬る」


オレは斬れない。


オレは斬れない。


オレは斬れない。


オレは……

目の前の魔王に同情してしまっている。


誰かを失う苦しみも悲嘆も

死ぬほど理解しているから。


ずりぃだろうが……!!!!!

誰かの為に泣ける人間が

戦場にでてきてんじゃねっぇええええええ!!!


オレは冷酷な殺人マシーンじゃねぇええんだよ!!!


泣いてる奴を殺せるようには出来てねぇええ!!!


目の前の状況は混沌としていた。


戦場の喧騒が遠くに聞こえた。

まるでここだけ異次元のような静けさだ。


戦場だというのに

泣き崩れる魔王。


一世一代の好機にも

関わらず動けないオレ。


誰か!!!!!!

この状況を何とかしてくれ!!!!


オレは心の中で絶叫していた。

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