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15話 王殺しの号令

大陸北東端、氷を割るような冷たい潮風が吹く断崖の上に、

漆黒の巨城があった。


名を《終焉城》。


かつて無数の部族が互いを喰らい合った荒野を、

ひとつの国へまとめ上げた中心――魔王の玉座である。


城下では、石畳を震わせるような槌音が鳴り続けていた。

拡張される市街は日ごとに姿を変え、

新たな街路と水路が伸びていく。


その労働を担うのは、粗末な麻衣を着せられた人間たち。

鎖の擦れる音と、時折あがる呻き声が

工事の喧騒にまぎれて消えていった。


倒れる者がいても、鞭が一閃するだけ。

ここで人間に権利など無い――

それが今や魔族の常識だった。


数年前まで

人類におびえていた魔族達では

こんな事は考える事ができなかっただろう。


虐げている人間達の憎しみの込められた視線など

今や気にする事もなかった。



街全体には、奇妙な活気が満ちている。


露店には魔族特有の彩り豊かな食材が並び、

子どもたちは人間の荷車の横で笑いながら駆け回る。



数年前まで絶え間なく続いた生存争いは終わり、

魔族たちはようやく“未来”を口にできるようになっていた。


かつて勇者と呼ばれた者たちも、

いまやその象徴である反逆者は捕らえられ、

人間牧場で労役に服している。


恐怖は去り、経済はうなぎ登り。

魔族の暮らしは、確かに豊かになっていた。



その変化をもたらしたのが――魔王。



常備軍を創設し、

統一法を施行し、

行政機関を整備して税と物流を一元化。

部族ごとに異なっていた言語や文字を統一し、

学びの場を設け、

通貨を一本化して商業を飛躍的に拡大させた。


一つひとつの施策が、

散り散りばらばらだった魔族を「国家」へと変貌させたのだ。


その功績を語ればきりがない。

何より、魔族一人ひとりを同胞として愛するその姿勢こそが、

彼女をただの支配者ではなく、

神に等しい存在へ押し上げた。


「命を捧げる価値がある。」


誰もがそう信じていた。

玉座の影から現れたその声は、

命令であれば自らの血を差し出しても構わぬ――

そう思わせるほどの重みと温かさを帯びていた。



そして、その魔王は今――


「魔王様、王国貴族の反乱企図――全員、拘束との報が」


報告の直前まで、魔族の子供達と戯れていた手が

ピタリと止まった。


「ふむ……」


子供達を怖がらせない様に笑みを湛えたまま、室内の空気だけが凍りつく。


黄金色の深い瞳がなにかを思案するように

動いていた。



「魔王、エルナンデス・フエラル様

おな~り~」


玉座の間にファンファーレが轟いた。

その一歩ごとに、磨き抜かれた黒石の床がわずかに震える。


長い銀髪は柔らかく波打ち、

額からは王冠のように伸びる黒く艶やかな角が二本。

黄金色の瞳は澄み渡り、こちらを包み込むような温かさと、

王としての揺るぎない力を同時に感じさせる。


ドレスは深い紫を基調に、

金色の縁取りが複雑な曲線を描きながら全体を引き締め、

重厚でありながら華やか。

首元から胸元にかけては大胆に開かれ、

気品と女性らしい美しさを兼ね備えている。


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居並ぶ家臣たちの視線は、

陶酔に色づき、熱に揺れていた。


魔王エルナンデスは玉座の前に優雅に腰を下ろし、

歌うような声で口を開く。



「皆、知っているとおもうが、

親愛なるメイビスが死んだ」



その声音は澄みきりながらも、深い悲しみを帯びていた。


「メイビスは今でこそ魔王軍四天王の一人。

だが余が軍を立ち上げた最初期からの仲間だ。」


「初めて会ったときはまだ幼子。

知識に貪欲でな……

その成長を見るのが、余の楽しみでもあった。」


頬を伝い、ひとすじの涙が床へ落ちる。


「余が国を興したのは、魔族の子らの未来を守るため。」


「……それが、こんな結末とはな。」


エルナンデスは静かに短剣を抜き、

ためらいなく自らの手の甲を切り裂いた。


鮮紅の血が玉座の階を鮮やかに染める。

家臣たちから息を呑む声とかすかな悲鳴が聞こえた。


「余のーーーーー怠慢であった」


先ほどまでの柔らかさは消え、

その声には冷たい怒りが満ちていた。


「分かるか?許せぬのだ」


「大軍を興し

国王ザムザを殺せ!!」


「我が子を奪ってただで済むと思うな

!!!!!!!!!」


雷鳴のような怒号が城壁を震わせ、

その余韻が家臣たちの心を焼く。


魔王の悲しみ、怒り、狂気。

誰が彼女を泣かせ、怒らせたのか。

その問いは、ただひとつの答えに収束する――



国王ザムザ。



「此度は余も戦場に出る。

四天王も総力を挙げよ!」



「どれだけ交渉を持ち掛けても

あの王国は応じない!!!!

今回をもって戦争を終結させるぞ!!!」


城そのものを揺るがすほどの歓声。

忠誠と憎悪が混じり合い、渦となって天へと昇る。


しかし、その中心で――

エルナンデスはただひとり、静かに思考を巡らせていた。


(国王ザムザ……

……メイビスを討った手口。

 あれは明らかに空挺を模した攪乱。

 反乱鎮圧の報せも――

 ある日を境に、人間の動きが変わっている)


(もしや、あの王国にも……私と同じ存在が?)


どう思う、リア。


傍らのヴァルキリーは、

漆黒の羽をゆるりと揺らしながら、ただ一言。


「――さあね。ナカタニ」

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