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死に戻りの親子  作者: まいける


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第二章 死に戻った悪女


「離婚してちょうだい」



私、フレイヤは夫であるエドウィン子爵の前で

まっすぐに告げた。


書斎の窓から差し込む午後の光が

埃を照らしている。

エドウィンは驚いた顔で私を見つめていた。



「……フレイヤ、何を言っているんだ?」


「文字通りの意味よ。離婚したいの」


エドウィンは眉をひそめた。

きっと、いつもの私なら

こんなことを言うはずがないと思っているのだろう。


確かに、三日前までの私なら

絶対に言わなかった。


子爵夫人という地位。

お屋敷。

贅沢な暮らし。


それを手放すなんて考えもしなかった。

でも、今は違う。






回想


冷たい石の床。

縛られた手。

そして、目の前には——断頭台。


「フレイヤ・エルンスト!

領民への圧政、反乱の誘発、領地からの逃亡幇助。

これらの罪により、死刑を言い渡す!」


裁判官の声が響く。


私は何も言えなかった。

言い訳も、弁解も、何もできなかった。

全て、事実だったから。


私は悪女だった。我儘で使用人をいじめ

夫の領地経営を無視し

自分の欲望のままに金を使った。

足りない分は税を上げた。領民たちは苦しんだ。


反乱が起きた時

夫のエドウィンは領地を捨てて逃げた。

私もアリアを置いて逃げた。

でも——


「ママ!!」


小さな声が響いた。

振り向くと、そこには十二歳のアリアドネ。

兵士に取り押さえられながらも

必死に私に手を伸ばしている。


「ママは悪くない! ママは悪くないの!」


違う。

違う、アリア。

悪いのは私だ。

あなたは何も悪くない。

なのに——







「アリアドネ・エルンスト。

母親の逃亡を幇助した罪により、死刑を言い渡す」


断頭台に引きずられていく私とアリア。

アリアは最後まで、私の手を握っていた。


「ママ、大丈夫よ。一緒だから、怖くないよ」


そう言って、笑ってくれた。

私はこの子に何も与えていない。

愛も、時間も、何も。

なのに、この子は最後まで私を信じていた。

ごめんね、アリア。

ごめんね——


回想終わり








目を覚ました時、私は自分の寝室にいた。

見慣れた天井。豪華な天蓋付きのベッド。

そして、窓の外から聞こえる鳥の声。


「……嘘……」


私は跳ね起きた。

鏡を見ると、そこには若い私がいた。

処刑される直前の何もかもを諦めた顔ではない。


二十代前半の、まだ美しかった頃の私。



「戻って……きた……?」


テーブルの上にあったカレンダーを見る。

アリアが五歳の年。

あの日から七年前。


「アリア……!」


私は部屋を飛び出した。

髪も整えず、寝間着のまま、廊下を走った。

使用人たちが驚いた顔で私を見ている。

でも、そんなことはどうでもよかった。

アリアの部屋の扉を開けて飛び込んだ。


小さなベッドの上で

五歳のアリアが驚いた顔でこちらを見ていた。


「アリア!!」


私は娘を抱きしめた。

温かい。柔らかい。生きている。


「ごめんなさい、ごめんなさい、アリア……!」


涙が止まらなかった。

今度こそ、この子を守る。

今度こそ、この子を幸せにする。

そのためなら、何だってする。








「……フレイヤ?」


エドウィンの声で私は現実に戻った。


「本気で言っているのか? 離婚だなんて」


「ええ、本気よ」


私はエドウィンをまっすぐ見つめた。

この男は前の人生で私を捨てた。

領地を捨てて逃げる時、愛人だけを連れて行った。


私とアリアを置いて。

でも、責めるつもりはない。

悪いのは私だったから。


「理由を聞いてもいいか?」


「理由なんて必要?

あなた、私にうんざりしていたでしょう?」


エドウィンは黙った。

図星だったのだろう。


「それに……あなたには愛人がいるじゃない」


エドウィンの顔が強張った。


「……知っていたのか」

「ええ。別に構わないわ。

私たちの結婚は最初から政略結婚だったもの。

お互い家のためだけの結婚」


私は立ち上がった。


「だから離婚しましょう。

お互い、自由になった方がいいわ」



エドウィンはしばらく黙って考えていたが

やがて溜息をついた。


「……分かった。離婚しよう」


思ったより、あっさりと了承してくれた。


「ただし、条件がある」


「何?」


「アリアドネは私が引き取る。」


私の心臓が、ドクンと跳ねた。

それだけは、絶対に譲れない。


「…それはできないわ」


「何故だ? お前、今まで娘に一度も興味を示さなかっただろう」


「……変わったのよ、私」


「急に?」


「ええ、急に」


私はエドウィンの目をまっすぐ見つめた。


「アリアは私が引き取る。

あなたには愛人との子がいますでしょ。」


エドウィンは困ったように眉をひそめた。


「しかし、お前は男爵家の出だろう?

離婚したら、実家に戻るしかない。

そんな貧しい家で、娘を育てられるのか?」


確かに、私の実家は貧しい。

領地も小さく、収入も少ない。

でも——


私は微笑んだ。

前の人生で得た知識。七年分の記憶。

それを使えば、道は開ける。


「一つお願いがございますの」


「……何だ」


「来週の王宮パーティー。

私を連れて行ってください」


エドウィンは驚いた顔をした。


「何故だ? もう離婚するのに」


「最後のわがままよ。

王宮のパーティーなんて

もう二度と行けないでしょうから」



本当の目的は、そこにいる「彼」に会うため。

魔塔主、ドューク。

王国最強の魔法使い。

彼こそが私とアリアの未来を切り開く鍵。


「……分かった。

ただし、私エスコートはしない。

お前は一人で参加することになるが構わないな?」


「もちろん」


私は笑顔で答えた。

一人で構わない。

むしろその方が都合がいい。


書斎を出ると廊下の影に

アリアが隠れているのが見えた。

私は優しく微笑んで娘の元に歩み寄る。


「アリア、聞いていたの?」


アリアは涙目で頷いた。


「ママ……離婚するの……?」


「ええ」


「じゃあ、私は……パパと暮らすの……?」


アリアの声が震えている。

私は膝をついて、娘の目線に合わせた。


「違うわ、アリア。あなたは私と一緒よ」


「本当……?」


「ええ、本当。もう二度と、あなたを手放さないわ」


私はアリアを抱きしめた。

この温もりを、二度と失わない。

そのために


私は動き出す。

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