第一章 変わったママ
最近、ママが変だ。
アリアドネは今日も朝食の席で
ママの顔をじっと見つめていた。
いつもなら、この時間ママは部屋で寝ている。
昨晩のパーティーで飲みすぎて
お昼過ぎまで起きてこない。
それが当たり前だった。
でも今、ママは私の隣に座って
優しく微笑んでいる。
「アリア、ご飯美味しい?」
ママが私のことを「アリア」って呼ぶ。
今までは名前すら呼んでくれなかったのに。
「え、えっと……」
アリア戸惑いながら
テーブルの上のパンを見つめた。
あれは、三日前のことだった。
朝、アリアドネはいつものように
一人で目を覚ました。
メイドのアンナが部屋のカーテンを開けて
朝の光が差し込んでくる。
「おはようございます
アリアドネお嬢様」
「おはよう、アンナ」
私は小さくあくびをして
ベッドから降りようとした。
その時だった。
バン!
部屋のドアが勢いよく開いて
誰かが飛び込んできた。
「アリア!!」
それは、ママだった。
髪の毛はボサボサで、寝間着のまま。
いつもなら考えられない姿のママが
裸足で私に駆け寄ってきた。
「マ、ママ……?」
私が驚いて声を上げる間もなく
ママは私を強く抱きしめた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、アリア……!」
ママの声が震えている。
ママの涙が私の肩に落ちてくる。
私は何が起きているのか分からなくて
ただ固まっていた。
ママがこんなに私を抱きしめたことなんて
一度もなかったから。
「ママ……どうしたの……?」
「私、あなたに本当にひどいことをしてきたわ。
でも、もう大丈夫。
これからはちゃんとあなたを守るから。
絶対に、絶対にあなたを守るから……!」
ママは何度も何度も
「ごめんなさい」
と繰り返した。
メイドのアンナも驚いた顔で立ち尽くしていた。
今まで私に無関心だったママが
こんな姿で廊下を走ってきて泣いている。
信じられないのだろう。
それから、ママは本当に変わった。
毎日パーティーに出かけていたのに
ぴたりと行かなくなった。
代わりに書斎に籠もって
何かを調べているみたいだった。
分厚い本を何冊も積み上げて
メモを取ったり、地図を広げたり。
そして時間があれば私のところに
来てくれるようになった。
「アリア、一緒にお庭を散歩しましょう」
「今日のドレス、とても似合っているわ」
「夕食は一緒に食べていいかしら」
最初は戸惑った。怖かった。
また、いつものママに
戻ってしまうんじゃないかって。
でも、ママは毎日私のそばにいてくれた。
優しく微笑んで、私の話を聞いてくれた。
私の好きな花の名前を覚えてくれた。
私が好きな食べ物を一緒に食べてくれた。
夜、怖い夢を見て泣いていたら
部屋に来て添い寝してくれた。
「ママ……」
「どうしたの、アリア?」
朝食のテーブルで、私はママの手を握った。
「ママ、ずっとこのままでいてくれる?」
ママの目に、また涙が浮かんだ。
でも今度は優しく微笑んで私の頭を撫でてくれた。
「ええ。ずっと一緒よ、アリア。約束するわ」
ある日の午後
ママはパパの書斎に向かった。
私は廊下でそっとその後を追った。
扉の向こうから
パパとママの話し声が聞こえてくる。
「離婚してちょうだい」
ママのはっきりとした声が
廊下まで響いてきた。
私は驚いて、扉の前で立ち尽くした。
何が起きているの?
ママは本当に変わってしまったの?
これから、私たちはどうなるの——?




