第四章¦ヤキモチ
朝、目が覚めると私はいつものように準備を終え、亜美と一緒に学校へ向かった。
今日はいつもより、少し遅くに家を出てしまい遅刻寸前だった。
急いで教室に向かい、先生が来る前に席に着いた。
「おはよう。どうしたの?今日遅かったね」
後ろの席に座っている菜月に、そう言われたので、私は状況を説明した。
「おはよう菜月。実はね、今日寝坊しちゃってさ…」
「あっ、そういうことか!大変だったね。でも間に合ってよかった!」
「そうなの、ほんと安心した」
そう2人で話していると先生がガラリとドアを開けて教室に入ってきた。
「皆さん、おはようございます。今日の日直は雨涙さんですね、前に出てきてください」
私は元気よく「はい!」と返事をして、黒板の前に進み出た。
「おはようございます、朝のホームルームを始めま
す。まずは出欠を取ります……」
そう言ってから、順調に進めていき、朝のホームルームは終了した。
休み時間に入り、次は移動教室だ。
「一緒に美術室行こー」
亜美が羽音と帆夏を連れて、雨涙と菜月を誘い、5人で仲良く美術室に向かった。
「今日何するんだろうね」と菜月が切り出す。
「ねー、絵描きたいなあ」と私が呟くと、
「それ前もやったくない?笑」と亜美からツッコまれたので、くすくす笑いながら私は「あれ、そうだっけ?笑」と答えた。
するとその会話を聞いていた羽音が
「もー、忘れっぽいんだから〜!笑」
と笑いながら言った。
帆夏は4人の会話を聞いて、静かに微笑んでいた。
そうこうしているうちに美術室に着いたので5人はそれぞれ自分の席に座った。
教室で座っている席で班ごとに座ることになっていたので、私は菜月と一緒に、亜美は羽音と一緒に席に着き、帆夏も自分の席に着いた。
すると、私はまた緊張していた。
なぜなら友一も、一緒の班で、雨涙の向かいの席に座ったからだ。
(友一…)
雨涙は密かにときめいていた。
つい見つめすぎてしまったのか、目が合ってしまい、私はなんだか気恥ずかしくなってすぐに逸らした。
授業が始まると、嬉しいことが起きた。
「なあ、雨涙」
(え、友一?)雨涙は心臓が飛び跳ねそうになりながら「ん?」と返事をした。
「雨涙は何作るの?」
「え…、あっ、まだ決まってないよ…」
密かに恋心を抱き始めていた友一との初めて交わした会話だった。
(気になる友一と話せてる…)
授業終わりのチャイムが鳴り、みんなが片付けを始めているのに、私はまだ夢見心地でそのことが信じられずにいた。
皆が移動していることにも気づかず、私はずっと席に座ったままぼーっとしていた。
「雨涙??教室戻るよー??」
隣に立っていた菜月の声に気が付き、我に返った私は、2人一緒に教室に戻って行った。
─キーンコーンカーンコーン─
2時間目が始まるチャイムが鳴り響いた。
次は理科の時間だ。その時間も班行動だったので、私はまた密かに喜んでいた。
しかし、喜んでいたのも束の間、状況は一変する。私は何故か、今度は激しいヤキモチを妬いていた。
─数分後─
「菜月、まじそれはヤバいって笑」
「莉玖、見てこれ。菜月、ヤバいことしてる笑」
「何してんの笑笑それ違うでしょ笑」
「え?w これって、フラスコに入れるんじゃないの?」
菜月が不思議そうに2人に尋ねる。
「ちげーよw んなわけねーだろ笑」
「え、天然なの?w」
友一が、彼の隣にいた松坂莉玖(雨涙達と同じ班の子)と菜月と3人で楽しそうに話していたからだ。
私はすごく複雑な感情を胸に抱きながら、自分の感情が爆発するのを必死にこらえていた。
こういう状況が何日か続いたので、私はやっと、友一に恋をしているのだとはっきりと自覚した。
(私、友一のこと好きなのかも)
自分の感情をはっきりと理解した瞬間も、友一たちの笑い声は止まらなかった。楽しそうな声が、かえって雨涙の胸を締め付ける。フラスコでもビーカーでもない、ただの試験管を手に持ちながら、私は実験台の白い天板を見つめ続けた。
「どうしたの?」
その様子に気づいた菜月が、友一たちとの会話をやめ、隣から心配そうな声で覗き込んできた。
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
そう言って、私は慌てて笑顔を作った。
授業終了のチャイムが鳴り、教師が片付けを指示する。
「薬品は元の場所に戻すように!」
その喧騒の中、私はちらりと友一の横顔を見た。先ほどまで笑っていた目元が、今は真剣な表情で片付けをしている。その横顔さえも、今は特別なものに見えた。恋心を自覚すると、世界はこんなにも色を変えるものなのか。胸の奥がじんわりと熱くなった。
放課後。玄関は帰宅を急ぐ生徒たちでごった返していた。私は下駄箱の前で、少しだけ立ち止まる。いつもは友人と一緒に帰るのだが、今日は一人で帰りたかった。頭の中を占めているのは、理科室での友一の笑顔ばかりだった。
(友一って菜月のこと、好きなのかな…)
その思考が一瞬よぎったが、ずっと考えてても仕方ないので、意を決して玄関を出た。まだ、胸の奥が嫉妬心で渦巻いている、その時だった。雨涙の心に、さらに深く釘を刺すような光景が目の前に広がり、血の気が引いた。
(友一……?)
いつもの帰り道。そこにいたのは、友一と、彼の幼なじみだった。
友一には、小さい頃からずっと一緒の幼なじみがいる。今日の理科の時間に初めての嫉妬を覚えたばかりだというのに、追い打ちをかけるように、その相手が詩織だという事実に直面した。
朝倉 詩織。彼女は友一の幼なじみであると同時に、最近になって雨涙が仲良くなった友人でもあった。
二人並んで歩く友一と詩織の姿を見て、雨涙は先ほどの理科の時間よりも、さらに深く激しい嫉妬心に苛まれた。
明日はテストの日だというのに、家に帰ってからも、あの衝撃的な光景が頭から離れない。友一と詩織が親しげに笑い合う残像がちらついて、私はテスト勉強に全く集中することができなかった。




