第二十章¦戻りたい過去
──番外編──
中学の卒業式を終え、高校入学を間近に控えた春休み。
そんなある日、親友の愛葵から一通のLINEが届いた。
『雨涙、友一がね、雨涙のLINEを知りたいんだって。教えてもいい?』
画面にある文字を見た瞬間、心臓が跳ね上がった。
断る理由なんてあるはずがない。「いいよー」とだけ、返した。
それからは、何をしても手がつかなかった。
彼から連絡が来るかもしれない。何か特別なことが起きるかもしれない。
淡い期待を胸に、私はただ、スマートフォンの画面を見つめていた。
不意に通知音が鳴る。友一からだ。
心臓の音が耳元まで響くほど、どきどきして落ち着かない。
しかし、浮き足立っていた心は、彼の一言で一気に冷え切ることになる。
『あのさ』
「うん」
『まだ俺のこと、好き?』
「……ずっと好きだよ」
勇気を出して伝えた言葉に、彼は残酷な事実を返してきた。
『その気持ちは嬉しいんだけど、実は俺、好きな人いるんだよね』
──え?
頭が真っ白になった。
『好きな人がいる』その文字を見た瞬間、ああ、私は振られるんだなと悟った。
『だから、ごめんな』
その言葉を最後に、会話は途絶えた。
私の2年間にわたる恋心が、あまりにも儚く幕を閉じた瞬間だった。
(今までの、あの視線は何だったの……?)
そして、好きな人って誰?
聞きたいことは沢山あったはずなのに、私はその事実を受け入れることしか出来なかった。
「脈がないなら、あんな思わせぶりな態度をとらないでほしかったな…」
私は布団に潜り込み、声を殺して泣いた。
部屋中に失恋ソングを爆音で流しても、心の穴は埋まらない。その日は、何も喉を通らなかった。
私は、卒業式の前日から相談に乗ってもらっていた愛葵に、すぐに連絡を入れた。
「愛葵、振られちゃった……」
『えええ!?まじか……』
愛葵は、私が孤独に怯えていた時と同じように、明るく前向きなメッセージを返してくれた。その優しさが、今は少しだけ痛い。
涙で重くなったまぶたを擦りながら、私は深く布団に潜り込んだ。
春の夜の冷たさが、今の私にはちょうどよかった。
──おしまい──




